第44話「不発の微熱と吉平の想い」
翌朝。吉平が目を覚ますと、部屋の中は凄まじいことになっていた。
昨晩、「微熱が出たら吉平が看病してくれる」という思惑のもと、四人の少女たちは吉平の布団を囲むように雑魚寝を始めたのだが。
「んんっ……吉平様、お熱で苦しいですわ……優しく撫でて……」
葵が艶っぽい寝言を呟きながら、吉平の腕に豊満な胸を押し付けている。しかし、吉平がそっと彼女のおでこに触れてみても、熱など全くない。ただ、寝相が悪すぎて単衣の裾がめくれ上がり、吉平が作った例の「下着」と白い太ももがバッチリ見えてしまっている。
「すー、すー……吉平……お揃い……えへへ」
サチも全くの平熱で、吉平の腹の辺りにしがみついて幸せそうにヨダレを垂らしているし、桔梗に至っては布団を蹴っ飛ばして大の字で爆睡している。天井の梁の上では、美影が「微熱の気配なし、異常なし」という寝言とともに器用にぶら下がっていた。
どうやら、若くて健康な彼女たちにとって、牛痘の副反応はほとんど出なかったようだ。吉平はホッと胸を撫で下ろしつつ、目のやり場に困る彼女たちの乱れた着物を、顔を真っ赤にしてそっと掛け直して回った。
朝食の席で、吉平は四人に笑顔で顔で提案した。
「みんな、無事で本当によかった。でも、この村の人たちにも、同じようにあの『盾』を作ってあげよう。だれも苦しまなくて済む。いい方法はないかな?」
「吉平様、村の衆に『獣の膿を体に入れる』と正直に言えば、穢れを恐れて誰も受け入れませんわよ」と葵が懸念を示すと、桔梗がふふんと胸を張った。
「そこは私の出番ですね。これを『疱瘡神を退ける、強力な儀式』ということにすれば良いのです」
かくして、村の広場に特設の祈祷所が設けられた。
桔梗が仰々しい呪文を唱えながら村人の頭の上で呪符を振り回し、その隙に吉平が「これは聖なる神の霊薬です」と笑顔で言いながら、細い竹の針で腕を引っ掻いて牛痘を擦り込んでいく。
迷信を利用した見事な連携で、村の全員へのワクチン接種は数日のうちに無事完了。数週を経っても誰も発病する者はいなかった。
貴重な知識を、見返りも求めずに村の全員に分け与えようとする。その損得勘定のない人間的な優しさに、少女たちはなぜ吉平に自分の心が動くのかわかった気がした。




