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第42話「闇夜のワクチン採取作戦」

夜の帳が下りた頃。

目立たない黒っぽい着物に着替えた吉平、サチ、美影の三人は、隣の荘園にある貴族の牧へとひっそり忍び込んでいた。こういう時は少人数のほうが動きやすい。葵と桔梗は留守番だ。


「こちらです、吉平様。足元に気をつけてくださいね」

暗闇の中、先頭を歩く美影が吉平の右手をしっかりと握り、音もなく草むらを先導していく。忍びの特技を活かした頼もしいエスコートだが、吉平の手に絡まる彼女の指先は、少しだけ嬉しそうに熱を帯びていた。


「ちょっと美影ちゃん、吉平にくっつきすぎ! 私もいるんだからね」

サチが小声でむくれたように言いながら、吉平の左手をぎゅっと握りしめる。

緊張感のある潜入任務のはずが、両手を美少女に握られて闇夜を歩く吉平の心臓は、見回りの恐怖とはまったく別の理由で激しく鳴っていた。


やがて三人は、牧の最も奥まった場所にある古い牛小屋に到着した。

隙間から中を覗くと、人の気配はない。小屋の隅には、黒くて大きな牛が一頭、丸くなって座り込んでいた。


「よし、入るぞ。サチ、頼む」

「任せて」


小屋に忍び込むと、見知らぬ人間の匂いに気づいた牛が、警戒して低い鳴き声を上げようとした。

その瞬間、サチがスッと牛の顔の前にしゃがみ込み、その鼻筋を両手で優しく包み込んだ。


「よしよし、大丈夫。怖くないよ。ちょっとだけごめんね」

サチが母親のような甘く優しい声で囁きながら、牛の首筋をゆっくりと撫でていく。村の動物たちを赤ん坊の頃から世話してきたサチの手つきに、牛はみるみるうちに警戒を解き、安心したように目を閉じた。


「すごいな……美影、少しだけ明かりを」

「はい」


美影が懐から小さな火種を取り出し、手の中で光を絞って牛の下腹部を照らす。

吉平は息を呑み、牛の乳の周りを慎重に観察した。そこには、少し赤く腫れた特徴的な水ぶくれがいくつかできている。間違いない、牛痘の病変だ。


「見つけた。これで薬が作れるぞ」

吉平は用意していた細い竹のヘラを取り出し、水ぶくれの表面から少量の透明な液体と膿を慎重にすくい取り、竹筒の中に収めた。


「これでよし……」

吉平が竹筒の蓋を閉めた、その時だった。


「おい、奥の小屋も念のため見ておけ」

外から、見回りの男たちの野太い声と足音が近づいてくるのが聞こえた。


「しまっ……!」

「吉平様、こちらへ!」


美影が咄嗟に吉平の腕を引き、壁際に積まれていた干し草の山の裏側にある、わずかな隙間へと押し込んだ。サチも慌ててその背後に飛び込む。

狭いスペースに三人で隠れるため、吉平は美影とサチの間に完全に挟まれる形になってしまった。


ギィッ、と小屋の扉が開いた。

「…特に異常はなさそうだ」


松明の明かりが小屋の中を照らす。見つからないよう、吉平は息を殺した。

しかし、正面には息を潜める美影の柔らかな胸が吉平の胸板にむにゅりと押し当てられ、背中からはサチの温かい体温がぴったりと密着している。暗闇の中で、美影の甘い吐息が吉平の首筋にかかり、サチの豊かな膨らみが背中に当たる感触までがはっきりと伝わってくる。この2人は健康的で正統派の女性的魅力おいろけがある。


(ち、近い! 柔らかい! だめだ、これ以上密着されたら変な声が出そう……!)


極度の緊張と、密着する二人の少女の破壊力に、吉平の頭はクラクラと沸騰しそうだった。美影もサチも、状況の異常さに気づいたのか、暗闇の中で顔を真っ赤にしてモジモジと身をよじらせている。それがさらに吉平の理性をゴリゴリと削っていく。


やがて扉が閉まり、男たちの足音が完全に遠ざかるまで、三人はその熱い密着体勢のままじっと耐え続けた。


安全が確認された瞬間、三人は弾かれたように体を離し、同時に大きなため息をついて干し草の上にへたり込んだ。


「ふう…」

吉平が真っ赤な顔で額の汗を拭うと、美影とサチも照れ隠しのように顔を見合わせて、小さくクスクスと笑い出した。


「でも、これで目当てのものは手に入ったのよね」

サチの言葉に、吉平は胸に抱いた竹筒をしっかりと握りしめた。

この小さな筒の中に入っている液体が、みんなを恐ろしい病から守る希望の種だ。


「ああ。帰ったらすぐに、処置の準備をしよう」


吉平の頼もしい笑顔に、二人は嬉しそうに頷いた。手に入れた希望を胸に、三人は足早に、そしてちょっと上気した顔で帰路につくのだった。

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