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第39話「初めての歯磨きと恋する乙女たち」

「あ……あーん」


サチがおそるおそる口を開けると、吉平は特製の歯磨き粉をつけたブラシを、サチの口の中へとそっと差し込んだ。


「最初は少ししょっぱいかもしれないけど、我慢してな。優しく汚れをかき出すから」

シャカ、シャカ、シャカ。

小気味良い音と共に、塩と薄荷の爽やかな香りがサチの口いっぱいに広がる。


「んっ……あ……」

吉平の指先が唇に触れ、耳元では吉平の真剣な寝息……いや、呼吸が聞こえる。背中からは吉平の体温が直に伝わってきて、サチの頭の中は歯の痛みなど吹き飛ぶほどパニックになっていた。


(ど、どうしよう。これ、すっごく恥ずかしいけど……すっごく、ドキドキする……っ)


「はい、うがいして。……どうだ? 口の中、スッキリしただろ?」

吉平が水を入れた木桶を差し出すと、サチはこくりと頷いて口をゆすいだ。


「本当だ……! ジンジンしてた痛みが引いてるし、お口の中がスースーして気持ちいい! 虫の呪いが消えたみたい!」

サチは痛みが和らいだ喜びと、吉平に後ろから抱きしめられながら歯を磨いてもらったという極上の甘い余韻に浸り、ふにゃりとだらしない笑顔を浮かべた。


しかし、その「甘い余韻」を、他の三人の少女たちが見逃すはずがなかった。


「……なるほど。歯食い虫の治療とは、あのように吉平様のお胸に背中を預け、顎を撫でられながら施されるものなのですね」

葵が扇をパチンと閉じ、目を細めてサチと吉平を見つめた。


「師匠……。私、陰陽師の修行のしすぎで、急に奥歯が痛んできたような気がします! きっとこれは強力な呪い! 今すぐ私にもその『はみがき』によるお祓いを!」

桔梗がわざとらしく頬を押さえ、吉平の前に勢いよく正座した。


「ずるいです桔梗様! 私は忍びゆえ、日頃から歯を食いしばる癖が! 吉平様、私のお口の中も隅々まで調べて、綺麗にしてください!」

いつの間にか天井から降りてきた美影も、吉平の服の袖を引っ張ってアピールに参戦する。


「あら、あなたたち抜け駆けは許しませんわよ。吉平様、私の歯も少し疼くようです。サチさんよりも長く、そして念入りにお願いいたしますわ」

葵は自慢のプロポーションをさりげなく吉平の腕に押し当てながら、艶やかな唇をわずかに開いてみせた。


「お、お前らなぁ……虫歯になってないのに磨いたら、ただの予防だぞ!」

「予防でもいいんです! 早く後ろに回って顎を押さえてください!」

「そうだそうだ! 私にもあーんって言って!」


四人のヒロインたちが吉平の前に一列に並び、一斉に口を大きく開けて待機するという、なんともシュールで可愛らしい光景が広がった。


「わかった、わかったから! 順番にやるから押すな!」


結局、吉平は医学生としての知識と手先の器用さをフル活用し、四人の美少女たちの歯を順番に磨いてあげるという、新たな日課を背負い込むことになった。

塩と薄荷の香りが漂う縁側で、吉平に顎を預け、うっとりとした顔で歯を磨かれる乙女たち。

吉平の家は今日も、斜め上の方向へと衛生的な進化を遂げつつあった。

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