第25話「着膨れ雪だるまと、重力(十二単)に敗北した乙女たち」
こたつと生姜湯の騒動から数日後。村は本格的な冬の寒さに包まれていた。
吉平が庭に出ると、そこには奇妙な「丸い物体」が転がっていた。
「いてて……吉平、ちょっと助けて。自力で起き上がれないの」
丸い物体の正体は、幼馴染のサチだった。
寒さを凌ぐために薄い単衣を六枚も七枚も重ね着し、さらにその上から筵を羽織っているため、完全にコロコロとした「雪だるま」と化しているのだ。薪を割ろうとしてバランスを崩し、雪の上に転がってしまったらしい。
「お前、着膨れしすぎだろ。怪我はないか?」
吉平が引っ張り上げると、サチは重そうに肩を回した。
「だって寒いんだもん! でもこれじゃ腕が上がらないし、重くて肩がガチガチよ。これ着て畑に出たら、三分で倒れる自信があるわ」
「ふっ……農民の分際で、その程度の重さに音を上げるとは情けないですね」
そこへ、縁側から鼻で笑う声が聞こえた。
見れば、見習い陰陽師の桔梗が、高級な絹の着物を何枚も重ねた美しい十二単(の略装)姿で立っていた。
「師匠、ご覧ください。この雅にして完璧な防寒結界を。陰陽寮のエリートたるもの、いかなる寒波が来ようとも凛とした美しさを保たねば……がちがちがちがちっ」
「桔梗、お前めっちゃ歯の根が合ってないぞ」
「ち、違いますぅ! これは霊力を練り上げている音でしてっ! ううっ、本当は重すぎて首がもげそうです! 助けて師匠!」
気位の高いエリート陰陽師は、あっさりとプライドを捨てて泣きついてきた。当時の貴族の冬着は十キロ近い重さがあり、スレンダーな桔梗の体力を容赦なく削り取っていたのだ。
「吉平様……もう、だめですわ……」
最後に、奥の部屋から幽鬼のような声が響いた。
葵が、分厚い夜着にすっぽりと包まり、顔だけを出して床を這いずってきたのだ。
「計算の木簡をまとめようとしたのですが、袖が重すぎて筆が持ち上がりません。……吉平様、都の商人を脅して、もっと薄くて温かい霊獣の毛皮でも献上させましょうか……」
「葵様、目が据わってる! 商人を脅す体力はあるのか!」
働き者の幼馴染は着膨れて転がり、見栄っ張りのエリートは重力に負け、頭脳派の令嬢は暗黒面に堕ちかけている。
平安時代の冬着は、彼女たちの魅力を半減させるどころか、生活に支障をきたすレベルだった。
「わかった、もうわかったから。お前たちに、軽くて温かい部屋着を作ってやるから、ちょっと待ってろ!」
吉平は、商人から石鹸の代金として買い取っていた大量の「絹の真綿」と麻布を抱え、冬の被服チートへと乗り出した。




