第22話「忍び寄る冬の影と、平安の凍える夜」
唐揚げの衝撃から一月あまり。季節は秋を通り越し、急激に冬の冷たい足音を響かせ始めていた。
村の食糧事情と衛生状態は完璧だったが、平安時代の「住環境」において、冬はまさに地獄である。
「くしゅんっ!」
朝の冷え込みの中、縁側を雑巾掛けしていたサチが可愛らしいくしゃみをした。
「サチ、風邪か? 無理しなくていいぞ」
「だ、大丈夫よ。私、寒いのには慣れてるもん……っくしゅん!」
強がるサチの鼻の頭は赤く、単衣を何枚か重ね着しているものの、ブルブルと震えている。
平安時代の家屋は、基本的に「夏を涼しく過ごすこと」を目的として作られているため、風通しが良すぎるのだ。冬になれば、隙間風が容赦なく体温を奪っていく。
「師匠……。こ、この冷気は、北の山に棲む氷の妖の仕業です……。私の霊力で、結界を……」
桔梗が部屋の隅で、ガタガタと震えながら呪符を握りしめていた。その美しい黒髪は静電気で少し広がり、何枚も着込んだせいで普段のスマートな体型が雪だるまのように丸くなっている。
「桔梗、それただの冬将軍だから。それに葵様は……」
吉平が奥の部屋を覗き込むと、葵は昔のように、分厚い夜着にすっぽりと包まり、顔だけを出して丸まっていた。
「……吉平様。申し訳ありません。計算の木簡をまとめようとしたのですが、指先が凍えて筆が持てませんわ……。このまま春まで冬眠をお許しください……」
普段の有能な秘書令嬢はどこへやら、完全に寒さに敗北した小動物のような顔でこちらを見上げている。このままでは、葵の喘息がぶり返すかもしれないし、サチや桔梗も体調を崩してしまう。
「わかった。全員、ちょっとだけ待ってろ。俺がこの平安の世に、最強の『暖の魔法』を作ってやる」
吉平はそう宣言すると、大工道具を手に取り、部屋の中央の床板を外し始めた。
目指すは、現代日本が誇る冬の絶対的支配者――「掘りごたつ」の錬成である。




