第21話「禁断の魔肉(からあげ)と、理性を溶かされた乙女たち」
小梅が満腹になってすやすやと眠りについた後。
吉平の家の縁側には、多めに揚げておいたキジ肉の「唐揚げ」が、山盛りになって大皿に乗せられていた。
サチ、桔梗、葵の三人は、正座をしてその黄金色の塊をじっと見つめている。
まるで、触れてはならない神聖な魔石でも見るかのような、真剣で、かつ飢えた瞳だった。
「さあ、お前たちも食べてみてくれ。ただし、カロリーが高いから食べすぎには注意な」
吉平の許可が出た瞬間、サチが弾かれたように箸を伸ばした。
「サクッ……じゅわぁっ……!」
小気味よい音が響いた直後、サチの動きがピタッと止まった。
「はふっ、ほふっ! なにこれ!? なにこれぇ!?」
サチは口元を押さえながら、信じられないという顔で吉平を見た。
「外側がカリカリで、中からお肉の汁がドバーッて溢れてくる! しかもこのお塩と香草の味……ご飯! ご飯が無限に食べられるわ!」
サチは行儀などかなぐり捨てて、大きな口を開けて熱々の唐揚げを放り込み、白米をものすごい勢いでかき込み始めた。着物の襟元がはだけるのも気にせず、健康的な汗をかきながら食べるその姿は、見ていて清々しいほどだ。
「こ、こんな茶色い塊が美味しいはずが……あむっ」
おそるおそる口に運んだ桔梗も、一口噛んだ瞬間に雷に打たれたように固まった。
「……っ! こ、これは……生命の根源を揺るがす味! 肉の旨味という圧倒的な陽の気が、口の中で暴れ回っております!」
桔梗は顔を真っ赤に紅潮させ、謎の陰陽道理論を展開し始めた。
「師匠、油という炎の属性で肉を封じ込めることで、これほどの霊力を引き出すとは……! これを食べれば不老不死になれるのでは!? おかわり! 私に霊薬を!」
すっかりポンコツ化したエリート陰陽師は、箸を両手で握りしめて吉平に迫る。
そして、最も反応が凄まじかったのが葵だった。
幼い頃から病弱で、味の薄いお粥や精進料理ばかりを食べて育ってきた深窓の令嬢。彼女の繊細な舌に、ニンニクの効いた肉汁たっぷりの唐揚げは、あまりにも刺激が強すぎたのだ。
「あ……んっ……」
葵は一口噛んだ瞬間、全身の骨が抜けたように、へたりと縁側に座り込んでしまった。
「葵様!? 大丈夫か!?」
「吉平様……これ、だめですわ……」
葵は顔を極限まで真っ赤に染め、熱を帯びた潤んだ瞳で吉平を見上げた。
口元からは、キラキラと光る肉汁が少しだけ滴っている。彼女は自分の胸元をギュッと押さえ、荒い息を吐きながら身をよじった。
「こんな、こんな暴力的で……強くて美味しいお味を知ってしまったら……私、もう二度と、お屋敷の薄いお粥なんて食べられません……。お口の中が、幸せでどろどろに溶けてしまいそうですぅ……っ」
普段の計算高く、隙のない秘書の顔は完全に崩壊していた。
ただ快楽(食欲)に溺れる無防備な女の子になった葵が、熱い肉を口に含んで、艶っぽい吐息を漏らしている。
暑さのせいか、薄い単衣の胸元に汗がにじみ、彼女の豊満な質量が吉平の目の前で大きく上下に揺れていた。そのあまりにも無防備な表情と色気に、吉平は思わず顔から火が出そうになる。
「吉平! お肉もっとちょうだい! あとご飯もお櫃ごと!」
「師匠、私にもその霊薬を! もっと霊力を満たさねば!」
「吉平様……私も、もっとこのお肉を……ああん、熱いですぅ」
小梅の栄養失調の治療から始まった、平安初の「揚げ物」の錬金術。
それは結果として、吉平が三人の美少女たちの胃袋と理性を完全に掌握し、彼女たちをもう二度と「吉平の作るご飯」なしでは生きられない体にしてしまう、最も甘く、そして抗えない罠となったのである。




