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第16話「湯上がりの美少女たちと、都を落とす悪巧み」

吉平が村の大工に頼んで作らせた、特製の木桶の風呂。

ポカポカと湯気が立つ脱衣所で、水浴びを終えたばかりの三人の少女たちが、火照った体を冷ましていた。


「はあ〜、お湯に浸かってしゃぼんで体を洗うのって、本当に極楽ね……」


サチが清潔な手拭いで濡れた髪を拭きながら、うっとりと息を吐く。

石鹸の泡で磨き上げられた彼女の肌は、湯上がり特有の桜色に染まり、ゆで卵のようにつるんと輝いていた。


「ええ、全くです。温かな湯による全身の浄化……これぞ究極の陰陽道! 私の霊力も隅々まで磨き上げられましたわ!」

桔梗もゆでダコのように頬を赤くしながら、単衣ひとえの襟元をパタパタと仰いでいる。


「お二人とも、お肌が真珠のようですわ。かくいう私も、このお湯としゃぼんの香りがないと、夜も眠れない体になってしまいました」

薄い単衣をふわりと羽織っただけの葵が、湯上がりの色香を漂わせながら微笑む。

縁側で湯冷ましの水を用意していた吉平は、無防備でいい匂いを漂わせる三人の眩しさに、どこを見ていいかわからず天井を見つめていた。


「ねえ、こんなに気持ちいいしゃぼんなのに、京の都の人たちは知らないんでしょ? なんだかもったいないわよね」

サチの何気ない一言だった。

その瞬間、葵の目がキラリと鋭く光った。


「……それですわ、サチさん」

「えっ?」


葵は濡れた髪をかき上げ、病弱な令嬢の顔から、敏腕商人へと表情を変えた。


「都の貴族たちは、水浴びを『風邪を引く穢れた行為』として嫌い、滅多に体を洗いません。強いお香を焚き染めて体臭をごまかしていますが、肌荒れや病に悩む者は後を絶たないのです」

「そういえばそうね。私も吉平に教わるまでは、お風呂なんて入らなかったし、あれが普通だと思ってたわ」

サチが自分の昔の生活を思い出して苦笑いする。


「つまり、この清涼感あふれる『薄荷のしゃぼん』を持ち込めば、彼らの常識を根底から覆す大商いができますわ! 実は私、右大臣家の姫君と少しばかり面識がありまして……」


湯上がりの色っぽい姿のまま、恐ろしいほどの早口で都の経済を牛耳る算段を立て始める葵。

こうして、風呂上がりの美少女たちの思いつきから、京の都への進出計画はあっさりと決まったのである。


そして数日後。四人は荷車に大量の薄荷石鹸を積み、京の都へと足を踏み入れていた。


「く、くさっ……! なによこれ、鼻が曲がりそう!」

大路に入った瞬間、サチが顔をしかめて鼻をつまんだ。

道端には牛馬の糞尿が放置され、生活ゴミがそこかしこに捨てられている。


「昔は気にならなかったのに……毎日お風呂に入って清潔にしてると、こんなに臭いがキツく感じるのね……」

サチの言葉に、吉平も深く頷く。清潔な環境に慣れた体には、当時の都の悪臭は劇物に近い。


「おかしいですね……私が陰陽寮に通っていた頃は、もっと雅な場所だと思っていたのですが……うっ」

桔梗も涙目で袖を口元に当ててよろめいている。


「さあ皆様、気合を入れてくださいませ。目指すは、私の伝手である有力貴族、右大臣家の姫君のお屋敷です」

葵が扇で口元を隠し、妖しく、そして頼もしく微笑んだ。


吉平の「清潔革命」が、いよいよ平安の特権階級に牙を剥く時が来たのだ。

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