第12話「三等分の隣接と、夜のヒソヒソ話」
吉平が出した結論は、「田の字」型の部屋割りだった。
中央に吉平の部屋を配置し、襖と障子で四方を区切る。そして、サチ、桔梗、葵の三人の部屋が、それぞれ吉平の部屋の三方の壁(襖)に面するようにしたのだ。
これなら全員が「吉平の隣の部屋」であり、距離的な不平等は一切ない。
「まあ、これなら許してあげるわ」
「師匠を中心とした完璧な結界陣……さすがです!」
「効率的な動線ですね。素晴らしいですわ」
なんとか三人の納得を得て、新しい家での生活がスタートした。
そして、その日の夜。
虫の音が心地よく響く中、吉平が真新しいゴザの上で布団に寝転がっていると、右側の襖越しに小さな声が聞こえてきた。
「ねえ吉平、起きてる?」
サチの声だ。
「起きてるよ。どうした?」
「ううん、なんでもない。ただ、こんな綺麗なお家で、吉平のすぐ隣で寝られるなんて、なんだか夢みたいだなって……おやすみ、吉平」
少し照れたようなサチの声に、吉平が微笑んだのも束の間。今度は左側の障子越しに声がした。
「師匠……起きておられますか?」
「起きてるぞ、桔梗」
「本日は、見事な結界構築の技を見せていただき感動いたしました。明日は、あの『窓』という魔道具の仕組みを教えてくださいね……ふふっ、おやすみなさいませ」
桔梗の嬉しそうな声に苦笑していると、最後は頭上の襖の向こうから、鈴を転がすような声が降ってきた。
「吉平様……」
「葵様も起きてたのか」
「はい……。私、ずっと一人で暗い部屋にいましたから……こうして、壁一枚隔てて吉平様の息遣いが聞こえるのが、たまらなく嬉しくて……えへへ」
普段は冷静で完璧な秘書である葵の、年相応の甘えたような声。
三方向から聞こえてくる少女たちの寝息と、新しいい草の香り。
吉平は天井を見上げながら、大きく深呼吸をした。
(疫病と飢餓だらけの平安時代に転生した時はどうなるかと思ったけど……まあ、こういう賑やかなスローライフも、悪くないな)
清潔で快適な家と、可愛らしくも個性的な三人のヒロイン。
吉平の「手洗い・うがい」から始まった村の改革は、少しずつ、しかし確実に、彼らの日常を明るく幸せなものへと変えていくのだった。




