怪物帰郷の宴
心を落ち着けて、私達はステージに立つ。観客達の歓声が聞こえる。それは、私達に向けてなのかアルタさんに向けてなのかは分からない。でも、その歓声が私達を包み込んでいる事は確かな事実だ。
「すぅ~……はぁ~……」
「緊張しているわね。でも、あなたなら大丈夫よ。そうでしょう?」
アルタさんがそう言うと、アルシャさんがドラムを鳴らす。それに呼応するようにシェリアさんがベースを鳴らし、フォルティさんがキーボードで応える。そこに、ベガさんのハープも重なる。
それらは私を勇気づけるもの。だから、私も応える。ギターをかき鳴らし、皆と音を重ね合わせていく。その音の重なりに観客達が再び歓声を上げる。
「リラ、このライブは、この星のために重要なもの。だから、このライブは真面目にやらないといけない。でも、音楽は……楽しむものよね?」
「は、はい……はい!」
その通りだ。どういう状況でやるかは関係ない。どんな事情があったとしても音楽は楽しむもの。私達が楽しまないと、観客に楽しいを伝えられない。
緊張はしても良い。使命感を持っても良い。でも、こうして観客の皆に聴かせるライブであるのなら、私達自身も楽しむ。その事を強く意識する。
私の返事を聞いたアルタさんは面布の下で笑ったような気がした。
『皆! 今日は私達のライブに来てくれてありがとう!』
歓声が会場を支配する。ライブに慣れている人達がいっぱい集まっているのかな。そんな盛り上がっている中に、キューちゃんの姿を発見する。私達のライブを見に来てくれた事に、思わず笑みが溢れる。
『私とステラミルクの最っ高のライブを最後まで楽しんで!』
会場が揺れる程の歓声が響き渡る。
アルタさんが私と視線を合わせる。その視線を受けて、私はアルシャさんと目を合わせる。ニコッと笑ったアルシャさんがスティックでカウントを取り、ライブが……『怪物帰郷の宴』始まった。
『曙プレリュード』『昼つ方シンフォニー』『暮れ方コンチェルト』『真夜中ノクターン』の四曲を順番にやっていく。この際、曲と曲の間はなく、続けての演奏となる。これが怪物達を目覚めさせて、故郷へと誘う一連の流れの一部。いや、きっかけの一つかな。
私達の歌とベガさんが弾くハープ。これにより大地に光が走っていく。ライブ中は、私の【神聖歌唱】と【神聖奏】によって、金色の光が舞う。だから、他のプレイヤー達は、その事に気付いていない。いや、そもそもライブに夢中で気付かないか。
屋外が見える会場だから、私達の視界にも経過が分かる。その経過とは、空に上がっていく巨大な怪物の姿だ。半透明な身体で光りながら空へと上がっている。その中にはホログラムで見たような怪物達の姿も見えた。
あれと戦うとなると、本当にヤバかったかもと思える。だって、今は小さく見えてるけど、あれは大分遠くに存在する。何十メートルあるのかという感じだ。
その怪物は始まりに過ぎない。空に上がっていく光は、どんどんと増えていく。その光の一つ一つが、怪物なのかもしれない。一体どれだけの数の怪物がこの星の命を吸っていたのなら、星の命が危ないというのも理解できる。
ひとまずきっかけは上手くいった。後は、どんどんと誘導していくのみ。その誘導は私達の得意技。音楽だ。
『The Parallel Universe』『レリックシンフォニー』と『一歩踏み出せずとも』を初めとした私達の曲。それが、怪物達を誘導し続ける。元の宇宙へ。最後に星から一際大きな光が走る。
私達をすり抜けるようにして、何かが通り過ぎて行った。それは、巨大な奔流……じゃない。それは竜だ。西洋の四つ脚のドラゴンじゃなくて、東洋の細長いやつだ。
さすがに足元から上がってくる奔流には会場にいるプレイヤー達も気が付いた。プレイヤー達が真上を見上げる。私達も見上げていた。
「あれが最後の一体ね」
「じゃ、じゃあ……も、もう終わりですか……?」
「ええ。良くやったわね。だから、ここからは純粋に楽しむわよ」
「は、はいっ……!」
『クエスト『怪物帰郷の宴』をクリアしました。世界が延命され、世界への抑圧が失われました。正しき世界が戻ります。正しく残酷で危険な世界が』
クエストをクリアした事で、このゲームも少し進んだ……のかな。でも、そんな事よりも私達が優先するのは、この後から行う純粋に楽しむための音楽。私が大好きな事。
今のプレイヤー達は、この現象に困惑し
ている。そんなプレイヤー達の意識を私達の音楽に向けさせる。
『せ、世界は……ま、また一歩前進しました……! だ、だから……そ、その進展を祝って……み、皆で盛り上がりましょうっ……!!』
何とか頑張って絞り出した言葉。それを受けたプレイヤー達は、互いに顔を見合わせていた。ちょっと急すぎたかな。でも、勇気を振り絞っても、私にはこれが限界だった。
ちょっと心配になってフォルティさんの方を向くと、フォルティさんが親指を立てていた。その意味を直後に知る事になる。
私の背中から叩く圧。それは音の圧。いや、声の圧だった。観客のプレイヤーの大歓声。ここから皆も盛り上がってくれるという証だ。
「ほら、リラ。やるわよ」
シェリアさんが笑いながらそう言う。その言葉に私は頷き、アルタさんを見る。私の視線を受けたアルタさんも頷いた。
だから、私は前を向いて、観客の皆と向き合う。全員の目がこっちを向いている。普段の私生活だったら、確実に臆している状況。
でも、今の私は昂揚している。だって、今から怪物の心配もなく、全力で歌って良いから。
皆で全力で盛り上がり、熱が最高潮に達したところで、ライブが終わる。そこで私達は皆に向かって宣伝する事になった。
『あ、え、えっと……わ、私達ステラミルクは……げ、現実の方でも……め、メジャーデビューします……!』
一瞬の静寂の後に、ライブ中と同じくらいの大きな歓声が響いた。ここで微妙な反応だったらどうしようと思っていたので、皆が盛り上がってくれて良かった。
『え、MVも……は、配信します……! あ、後、SNSも……や、やり始めました……!』
SNSの管理はフォルティさんとシェリアさんがやってくれる。主にフォルティさんが、衣装の発表をしたり、新曲の宣伝などをしてくれる。
『が、頑張って活動するので……お、応援よろしくお願いします……!』
私達のライブは大歓声の中で終了した。ライブが終わった後、私達は控え室で集まっていた。
「今日はありがとう。ステラミルクのおかげで、怪物達をこの星から立ち去らせる事ができたわ。星の命もこれで大分マシになると思うわ。本当にありがとう」
「私からも感謝を。おかげで、私達の長年の計画が成就できた。これからの世界の変化が大変だとは思うけど、星が死ぬよりも遙かに良いから」
仮にこれが失敗したら、どうなっていたのだろうと思ってしまう。ゲーム自体が終わるとかはないはずだから、成功確定なのかな。
「私達もまだこの星にいるから、また機会があったら、一緒にライブしましょ」
「あ、は、はい……!」
アルタさんとまたライブをしようというやり取りをして、今日は解散となった。パラユニにおける重要なイベントの一つである星の救命が終わる。
このゲームで私がやるべき事が終わった感じだ。ここからは普通に探索して遊ぶ感時間。でも、こっちでもライブは続けたい。まぁ、幹原さんと相談してになるけど。
そして、この夏。私達は現実世界のバーチャル空間でのデビューライブを行う。今度はそっちの準備をしていかないと。




