大切なライブ前の息抜き
一ヶ月と少しが経ち、アルタさんとの合同ライブの日がやって来た。その間に、少しの冒険などもしていき、街の開放もちょっとずつ進めて、私達も路上ライブで経験を積んだ。
日にちが決まった後は、ちゃんと宣伝もしておいた。私の拙いMCでは、どこまで伝わったかは分からないけど、皆が盛り上がっていたので多分大丈夫。ゲーム内でも大々的に告知がされているし。
これは少し意外だったけど、ゲームの運営からメッセージが届いて、ステラミルクの名前を使った宣伝などをして良いか確認が来ていた。アルシャさんが幹原さんと相談して、事務所でデビューする予定などを伝えつつ、宣伝に名前を使うのを承諾した。
そうして、ユートアルパの闘技場にもなるホールに私達は集まっていた。新しく用意した楽器の調子を確かめつつ、私達は合わせをしていた。
アルタさんと一緒に歌うのは、これが初めてだったけど、しっかりと合っていた。互いのパートは既に決めていたからっていうのもあるかな。
「大丈夫そうね。全員仕上がっているわ。もう一、二回合わせるわよ」
「は、はい……!」
リハーサルを終えた私達は、控え室に戻る。すると、控え室に司書さん……ベガさんがやって来た。
「こんにちは」
「あ、こ、こんにちは……」
『こんにちは』
ベガさんは私達を見ると、優しく微笑んだ。
「アルタから聞いていると思うけど、今日という日は私とアルタにとって、待ちに待った待望の日なの。世界を救う。大言壮語な事だけど、私達ユートルナの住人にとっては、誰しもが思っていた事。年月が経つにつれて、誰しもは忘れていく中で、永劫を生きる私達だけは忘れなかった。この星から怪物を解き放ち、元の宇宙へと戻す。そんな事をあなた達に委ねる私達の弱さを許して」
ベガさんはそう言って頭を下げる。そんなベガさんに、私はどうしたら良いのか分からずオロオロとしてしまった。そんな私の肩をシェリアさんが小突く。
「あ、え、えっと……き、気にしないでください……た、偶々私達に出来る事だった……そ、それだけですし……わ、私も歌いたいので……」
正しい返事が出来たか分からないけど、ベガさんはきょとんとして、シェリアさんは若干呆れたような表情をしていた。
「そう。ありがとう。今日は、私もハープを弾くからよろしくね」
「あ、あのハープ……わ、私も弾いてみても……」
あのハープを見た時から弾いてみたいと思っていたので、あのハープがあると聞いて思わず口にしていた。シェリアさんは頭を抱えて、アルシャさんは苦笑いして、フォルティさんはニコニコしていた。
そして、ベガさんはまたきょとんとしていたけど、すぐに笑って頷いてくれた。
「良いよ。こっちに来て」
ベガさんに案内されて向かった先には、あのハープが置かれていた。ハープの前に座り、軽く弦を弾く。鳴り響く高音に自然と笑みが溢れる。一、二曲程弾いていると、音色が金色の光になって広がっていくのが分かった。私の【神聖奏】とはまた別に光が出ている。つまり、このハープの効果だ。
「良い音色……私より上手いね。でも、本番はギターね」
「は、はい……あ、ありがとうございました……」
私はベガさんにお礼を言って、皆がいる控え室に戻った。
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リラが控えに戻った直後、ベガの隣にアルタが現れる。
「天使のハープ。あの子も弾けるのね」
「まぁ、それは予想通りでしょう?」
「そうね。これに選ばれてくれないと、この作戦には使えないもの。まさに、音楽をするために生まれてきたような子ね。多分、これが失敗すれば、もう二度と同じ機会はないわ」
「心配?」
ベガに問われてアルタは鼻で笑う。
「そんなわけないわ。あの子がいる以上、失敗はない。そう言いきれる。それだけの期待があの子にはある。あれだけ臆病な子が音楽に関してだけは、あそこまで強気でいられる。そんな絶対的な自信を音楽に持つあの子だからこそ、このハープも応えるし、エネルギーも強くなる。ここまで最大限の準備をしてきたんだもの。やるわよ」
「分かってる」
アルタとベガは、互いに拳を当てて頷き合う。これまでの悲願の成就を信じて。
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控え室に戻った私は、何度目かの深呼吸をしていた。
「リラさん、大丈夫?」
「う、うん……」
「まぁ、緊張するわよね。これまでの人数の百倍くらいの人数の前で歌う上に、ライブビューイングみたいなものまであるんだものね」
「まぁ、これから現実でも活動するってなったら、経験する事だからね。今の内に慣れちゃおう!」
「小心者に対して、無茶言うわね……まぁ、これに関しては私も同意見だわ。最初はバーチャルでの活動が主になる予定だけど、バーチャル空間でもこのくらいの人数を前にしてライブをするって事があり得るから」
「は、はい……が、頑張ります!」
「まぁ、私達に対して少し気楽に接する事が出来始めているから、段々と慣れてくるわよ」
シェリアさんの言う通り、私の人見知りは、シェリアさん達に対しては大分マシになっている。まぁ、大分長く接しているし、音楽を通じて色々と繋がっているみたいな感じが強い。
特にフォルティさんとは、大分普通に話せるようになった。
「緊張を落ち着けられるように、あれやる?」
「あれ? あ、うん。やる」
私はヴァイオリンを、フォルティさんはピアノを出す。そこでやるのは、二人のセッションだ。私達が作った『Deep Blue End』を演奏する。演奏をしている時は、私も緊張を覚えずに済む。フォルティさんはそれを理解してくれているから、これを提案してくれた。
私とフォルティさんの二重奏を、シェリアさんとアルシャさんは静かに聴き入ってくれる。こうしてステラミルク全体の緊張を解していく。二万人の前での一世一代のライブ。そして、このゲームのストーリーを一気に進める貴重なライブ。そしてそして、この星の命を救うための大切なライブ。頑張らないと。




