ライブ帰りに大事なこと
衝撃の顔合わせが終わり、私達はVIP席でお姉ちゃん達のライブを楽しんだ。相変わらず、お姉ちゃん達の演奏は凄い。でも、ライブはそれだけじゃない。
お姉ちゃん達の演奏と同時に会場の皆を引き込むような演出や声掛けなど、私が普段のライブでは出来ないようなものが盛り沢山だった。これが皆で盛り上がるライブなのだと痛感させられる。
これからの私達のライブで必要なのは、こうして観客達と一緒に盛り上がれる事。今は観客のプレイヤー達に任せきりだから、ここをどうにかしたいけど、コミュ障陰キャの私にはかなり難易度の高い事だった。
ライブを終えたお姉ちゃん達の元に向かって楽屋に入ったら、鷲衣さんと織原さんが大興奮で感想を伝えていた。
そんな中で私の傍に一人の女性が近づいてくる。スーツ姿のその女性は、お姉ちゃん達のマネージャーである幹原さんだ。
「伊織さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「あ、は、はい……」
「最近は、ゲームの中で音楽活動をしているとお聞きしました。こちらで活動する予定はありますか?」
「えっと……い、今のところは……げ、現実でバンドするのは……み、皆が決めてからで……」
「なるほど。では、お決まりになり次第ご連絡を」
幹原さんから改めて名刺を貰う。隣にいた天川さんもだ。名刺をもらいながら少し幹原さんと話していた。
二人の会話が聞こえてくる前に、私は夕さんに捕まってサマトラの皆に揉みくちゃにされていく。
そうして時間が過ぎていき、私達も帰宅する時間がやってきた。さすがに打ち上げに参加する時間はないので、このまま帰る事になる。
「そうだ。二人とも家に送るわよ。この時間だと帰宅ラッシュに巻き込まれるでしょう? 私達は車だから」
「運転するのは私だけどね」
「うるさいわよ。ほら、二人とも行くわよ」
「あ、は、はい……」
「ありがとうございます」
天川さんが運転する車に乗り込む。助手席に織原さん、後部座席に私と鷲衣さんが乗る。うちの住所をカーナビに入れて、天川さんの運転で車が走っていく。
「それにしても、サマトラのライブは良かったわね。色々と参考になる部分も多かったわ」
「そ、そうですね……ら、ライブの盛り上げ方は……わ、私も頑張らないとって思いました……」
「頑張るのは良いけれど、伊織に出来るの?」
「うっ……」
織原さんの的確な矢が私の心臓を突き刺す。こんなところでもアーチャーとしての強さが発揮されているとは思わなかった。
「まぁ、頑張らない事には出来る出来ないもありませんから」
「確かにそうね。そういえば、さっき伊織と鷲利はマネージャーさんと話していたわよね? 何を話していたの?」
私がさっき話していたのは、現実でのバンドデビューの話だ。でも、天川さんが話した内容は知らないので、私も少し気になった。
「わ、私は……げ、現実でバンドデビューする時に……れ、連絡してって話でした……」
「現実でのデビュー……実際どうなの? 私は、まだ二人と一緒にやりたいと思っているけど」
ここで織原さんは、率直に言葉をぶつけてきた。ゲーム内でのバンド活動。これが織原さんが私達を選んで誘う理由の一つだ。ちゃんとバンドが出来るという事が分かっているし、既に一緒にやっている実績があるというのはかなり大きい。
「わ、私も……す、少し興味があります……あ、あっちでのバンド活動で……ちょ、ちょっとやりたいと……」
「私も興味はあります」
私達がそう返事をすると、織原さんが凄い勢いで後ろを見てきた。首を痛くしそうな勢いだったのでかなり驚いた。
「本当!?」
「あ、は、はい……」
「はい」
織原さんは分かり易く、目を輝かせていた。天川さんから聞いていた話だと、織原さんは本当に私達とやりたいと願っていたらしいので、私達が前向きに検討しているという事が嬉しいのだと思う。
「それならもう少し向こうで練習をしてから、マネージャーさんに売り込む事にしましょう。伊織の伝手で最初から事務所に入れて貰えるのかもしれないけど、それに見合った実力がなかったら、契約解除になる可能性が高いもの。音楽の娯楽が少ないパラユニだからこそ、成功しているっていうのもあるだろうしね」
私達がやる気になった事で喜んでいる織原さんだけど、こういう部分は慎重みたい。実際、ライブを見てもらってのスカウトとかではなく、私がいるからという意味でのスカウトでしかない。
つまり、私達の音楽はまだ聞いて貰っておらず、それが現実の方で通用するかも分からないという事だ。
「後の問題は、現実でライブをやるとして、伊織が伊織の姿のままライブに出られるかってのもあるし」
「確かに向こうだとリラちゃんだから出来ているわけで、今の素顔を公開してのライブは……」
「や、やってみないと……わ、分からないです……」
二人の心配は実際に起こり得る事だ。私が素顔を晒したままライブを出来るのか。ゲームはリラというキャラだから出来ている。その面は本当に大きい。
「まぁ、最悪仮面でも着けたら良いかもしれないわね。キャラ付けにもなるし、伊織が慣れた時に仮面を外したら、良いパフォーマンスにもなるわ。それが出来たらだけど」
「うっ……が、頑張ります……」
私達はまだ出会って日が浅い。音楽を通して、強く繋がった私達だけど、まだまだその上がある。今は四人の絆を深めて演奏もより上手くなってから、改めて幹原さんに連絡をする。
私達の音楽が現実で通用するのかどうか。痛い現実を突きつけられる可能性もあるけど、私達は前に進むために皆で頑張る事を決める。
私も足を引っ張らないように頑張らないと。
そこからはサマトラのライブのどこが良かったかとかを話したり、自分達のライブに繋げられる部分を話し合ったりしながら、私達の家を目指して車は進んで行った。




