サマートライアングルのもみくちゃ
お姉ちゃんにスタッフパスを貰って、裏から入る。そして、真っ直ぐ楽屋まで向かう。天川さんは、堂々としたものだけど、鷲衣さんと織原さんと緊張している。サマトラと会えるという事もあると思うけど、会場に裏口から入っているというのもあるかもしれない。
織原さんはともかく鷲衣さんはこういうの初めてだろうし。
「いおり~ん!!」
正面から人が叫びながら走ってくる。その人はサマトラのボーカルである七草夕さんだ。オレンジに近い茶髪をツインテールにしている女性で、瞳からは元気が窺える。
夕さんは、私よりも頭一つ以上小さいので、私に飛びついてくると胸に埋もれるようになる。
「いおりん、可愛くなったね! いや、綺麗になった? というか、背が高くなった? もう何ヶ月ぶり? いおりん、高校生だもんね。おしゃれに目覚めるのも当たり前か。お顔もこんなに出しちゃってね」
相変わらず、夕さんは早口で色々と捲し立てる。圧倒されるけど、私に対しての好意が凄い結果なので私も不快感はない。圧倒されるけど。
「伊織ちゃ~ん!」
声のする方向から三人の女性が走ってくる。ショートの黒髪で少しボーイッシュな感じでギター担当の牛飼女依さん、プラチナブロンドに染めたロングの髪でドラム担当の獅子座麦さん、姫カットの黒髪ロングでキーボード担当の早乙女王花さんの三人だ。
皆、私よりは背が低いけど、高い順に女依さん、王花さん、麦さんの順番になる。
「伊織ちゃん、また背が高くなった? もう私でも追いつけないかも」
「てか、綺麗になったよね。お化粧? 服装も相まって美人OLって感じ」
「香水も付けてるの? 一気におしゃれさんになったね。しかも、伊織ちゃんにも合ってる。良い変化だね。もう少し淡い色のリップでも良いと思うけど」
「ですよね!? でも、この服装にするなら、少し明るくはっきりさせた方が琴坂さんの綺麗な顔を映えさせられると思ったんです! それに琴坂さんの大人しい一面じゃなくて、歌っている琴坂さんの熱い部分を表現出来るかなって」
お化粧の話になったので、鷲衣さんががっと食いついた。私の話をしているので、皆その話をしっかりと聞いていた。そして、お化粧をしてくれたのが、鷲衣さんだと気付いたみたい。
そして、その中の一つに驚いているようだった。
「歌?」
王花さんが一番最初に反応した。私が人前で歌わない人だったという事を知っているからこそ、鷲衣さんが歌っている私を知っている事に驚いている感じだ。
「もしかして、七美が言ってた事って本当なの!?」
女依さんがお姉ちゃんに確認すると、お姉ちゃんが頷く。お姉ちゃんからパラユニで歌っている事を教えてもらっていたらしい。でも、その姿は見ていないって感じかな。知らないみたいだし。
「伊織ちゃんもこっちの世界に飛び込むのかぁ……夕と交換しようと思ったのに」
「えぇ!? 初耳なんですけど!?」
麦さんの冗談に、夕さんが衝撃を受けていたけど、これもいつもの事だった。本当に仲良しの五人組だ。お姉ちゃんは、私にべったりの四人に呆れている事も多かったけど。
「え、えっと……げ、ゲームの中で歌ってるだけです……ま、まだ現実は……」
「考えてないのね。じゃあ、後ろの子達はゲーム内のバンドのメンバー?」
「あ、は、はい……え、えっと……鷲衣天花さんと天川鷲利さんと織原琴乃さんです……」
私が紹介すると、それぞれの自己紹介を始める事になったので、一旦楽屋に入る事になった。
楽屋での自己紹介の間、ソファに座った私はサマトラの四人にしっかりと囲まれていた。久しぶりに会ったという事もあり、完全に捕まった感じだ。いつもの事だから、大分慣れてはいるけど、困るのはいつも変わらない。
「なるほどねぇ。本当にボーカルがいおりんと。まぁ、いおりんの歌は魅力的だし、そもそもいおりん自体歌が好きだから、良いかもね。ちゃんとライブも出来てるからメンバーも集まってる訳だし、いおりんの成長が見られて、お姉ちゃんは感激だよ」
「夕の妹じゃなくて、私の妹なんだけど」
「まぁ、サマトラの妹だから」
この辺りのやり取りも割といつもやっている。小さい頃から可愛がられているので、皆、私の姉と言っても良いくらいの近さはあるけど、実際は姉ではないのでここまでされると嬉しくもあり、戸惑いもある。
「それで作詞と作曲は自分達でしてるの?」
「基本は伊織と鷲利が担当しています。私と天花は時々」
「わ、鷲衣さんは……ぴ、ピアノをやっていたので……く、クラシック系の曲が出来ました……」
「クラシック? 皆で?」
「わ、私と鷲衣さんで……」
「二重奏かぁ……そういえば、いおりんはヴァイオリンも弾けたから、割と良いかもね。そもそもいおりんは弾ける楽器が多すぎるし」
「一人オーケストラも出来そうだよね」
王花さんが凄まじい事を言ってくる。さすがの私もそこまでの事は出来ない。
「と、トロンボーンとかは出来ないです……」
「いや、出来ないじゃなくてやった事ないだけでしょ」
「お姉ちゃん……」
お姉ちゃんが大袈裟に言っているので、困った視線を向けたら、お姉ちゃんは手を前に出して私を制してきた。
「いや、言わせてもらうけど、基本的に楽器に関して言えば、やれば出来る。てか、これまでがそうだったから。というか、私達と違って、基本的に伊織は何でもある程度やったら出来るでしょ。運動も勉強もそうだったし」
「ああ……体育のテストでリフティングしないといけないって言われて、私達も練習に付き合ったっけ……十分で全てを越された」
「一番運動が出来る女依でこれだったし。伊織の万能さは凄まじいから、皆も伊織の突発的な行動に驚かないようにね。突然十メートルの割れ目を立ち幅跳びで跳び越えるような事をし出すかもしれないから」
「確かにあれは驚いた。伊織ちゃんが突然走り幅跳びの世界記録を抜きかねないジャンプを見せた時は……」
「そ、そこまで跳んでないです……」
「六メートルくらい跳んでなかったっけ?」
「…………と、跳びました」
「陸上部からスカウトが来たってなって、泣きついてきたしね」
「あったあった。ちょうど私達もいた時にね。あれは驚いた……」
「あの時から私達は運動で伊織ちゃんと戦う事を諦めたね」
「本業の音楽でも負ける日が来たのか……」
「妹の成長を喜ぶべきか……」
「だから、私の妹だから。というか、馬鹿話ばかりしない。三人が唖然としてるでしょ」
お姉ちゃんの言うとおり、鷲衣さん達三人は唖然としていた。ただ天川さんだけは、私の走り幅跳びの話で唖然としていただけだった。いや、一番唖然とする部分か。京花ちゃんも唖然とした後に、馬鹿みたいな身体能力って呆れていたし。




