恐怖から解放するのは恋心?
通路を調べ続けている内に分かってきたのは、そもそも開く扉が少ない事。隙間から中を窺える部屋は割とあるから、その隙間から断片的に情報を得ていけという事らしい。
ちょっと意地悪だけど、その断片的な情報が重要なものになりそうだった。先に進んでいく過程で手に入れた情報はいくつもの画像だ。その全てをスクリーンショットで保存し、いつでも見返せるようにしておく。
画像から分かったのは、隕石は少しの間は落下地点にあったという事。その画像を見つけられた。後は、その隕石がやっぱりただの隕石ではなかったという事。複数の画像を見る事によって、隕石の形が少しずつ変わっている事に気付けた。最終的にそれは六足の何かになっていた。
画質の悪い画像で見ただけだというのに、それを見た瞬間ぞくっと背筋に寒気が走った。そのくらいやばい存在なのだと思う。
その画像情報が手に入っただけで、他に何かテキストで残っているようなものはなかった。
でも、これまでの情報から繋げて考えてみると、いくつか考えられる事がある。まずはあの隕石に擬態した生物は一体だけではないという事。
最初の発電室にあった紙に書かれていたもの『空から降り注ぐ奴ら』という部分。『奴ら』という複数形を用いている事から、あの隕石は複数体落ちてきている。
謎なところは地下まで浸透という点。あの画像では歩いて移動していた。つまり、他の隕石の中には地下に浸透していった化物もいるという事になる。あるいは、移動した先で浸透していったのか。
そして、あの化物は何か甘い匂いを放っているという可能性。これは部屋にあった紙から得られた情報だ。この甘い匂いに関しては、実際に隕石からしているのかどうか曖昧過ぎるので、本当に多分といったところになる。
「全然出口への情報が見つからない……」
あの隕石の情報が集まれば、パラユニのストーリーが分かってくるのだけど、正直なところ欲しいものはここから脱出するための情報だった。闇雲に歩くよりも少しずつ情報を得ていった方が良いと思ったのだけど、逆に闇雲に走り回った方が脱出出来たりするのかな。
そうしてストーリーへの情報だけが集まっていき、この施設を脱出する方法は未だに見つからず、私は通路の奥にある扉に着いた。扉に触れても開く事がない。
「ここは音楽なのかな……?」
アコースティックギターに持ち替えて、『昼つ方シンフォニー』を演奏しながら歌う。すると、扉の隙間から光が漏れて、扉が開いた。すぐに黒帝に持ち替えてモンスターが現れた時に備える。
そんな私の警戒は杞憂に終わった。特に何かが現れるといった事はなかったからだ。
「この先も通路かぁ……でも、こっちよりも扉が少ない……というか見当たらない? ただの通路なのかな?」
さっきまでの通路と違って、こっちには色々な部屋に繋がる扉がない。本当にただの通路みたいだ。慎重に警戒しながら、通路を進んで行く。この辺りの灯りは壊れているものも多いらしく、全体的に暗い。でも、生き残っている灯りも存在しているので、見えないという事はない。
そうして進んで行くと、再び扉が現れる。その扉に対して歌と演奏を行う。今度は、『曙プレリュード』を演奏しながら歌う。完璧とは言い難いけど、人に聞かせられるくらいには出来るようになっている。
別の曲でも大丈夫かを確認するために『曙プレリュード』を選択したけど、特に問題なく開いた。
「音楽であれば何でも良いのかな? それともアルタさんの曲だから?」
次に同じような扉を見つけたら、私の曲で試してみることにする。
そして、扉の奥の通路を確認する。取り敢えず、モンスターらしき姿は見当たらない。
「ここにはモンスターはいないって考えて良いのかな。安全な分には特に問題ないし、先に進もう」
扉は全然ないのでただひたすらに真っ直ぐ歩くしかない。そうして歩いていると、壁に扉を見つけた。人が一人入れるくらいの隙間が開いている。用心しつつ中に入っていく。
出口に繋がる通路とかだったら嬉しかったけど、扉の向こうにあったのはSFチックな研究室だった。中央にあるテーブルっぽいものからは3Dのホログラムが出ていた。
そのホログラムが映していたのは、私がこれまで見てきた画像の生物。隕石となって降って来た怪物だった。粗い画像からでは詳細な形が分からなかったけど、こうしてしっかりとしたホログラムになったおかげで、全てを認識出来た。出来てしまった。
大まかな形は大きな人の上半身。肩、脇腹、腰から手が生えている六足。手の形をしているから手と表現してしまうけど、ホログラムの形的に、これを地面に着けて歩くのだと思う。
顔の部分には、大きな穴が開いている。目なのか口なのかは分からない。でも、その穴には、吸い込まれて自分という存在が消えてしまいそうな……そんな感じがしてしまう。
ホログラムは、全体的に青白い色で統一されており、実際の色は分からない。でも、全体的に濃くなっているから、濃い色しているのだと思う。
「あ……わぁ……」
その姿を見て真っ先に感じたものは恐怖。私の根源から来るもの。ゲーム的な刺激じゃない。現実の私が感じている恐怖だ。
(怖い……怖いのに目が離せない……離したら……死ぬ……?)
そんな謎の考えが頭を駆け巡った瞬間、メッセージが届いて私を正気に戻す。私はすぐにメニューを開いてメッセージを確認する。
『大丈夫? 帰れそう?』
そのメッセージはフォルティさんからの心配のメッセージだった。いつもだったら、早く帰れなくて迷惑を掛けてしまい申し訳ないと思うところだけど、今だけは胸が温かくなって恐怖から逃がしてくれる嬉しいメッセージだった。
まだ帰れそうにないというメッセージをフォルティさんに送ってから、改めてホログラムを見る。さっきまであった恐怖心が和らいでいるのが分かる。
「鷲衣さん……ありがとう……」
私を恐怖から解放してくれた鷲衣さんにお礼を言って、次なる手掛かりを探していく。




