演奏により広がる音
マークの上に立って、演奏していくけど、特に何かがあるような感じはしない。覚えている限りで色々なクラシック音楽を演奏しているけど、その音は平原の中で広がっていくだけだった。
「黒帝じゃ駄目なのかな……」
「普通のヴァイオリンでやってみるのは?」
「や、やってみます……」
アルシャさんのアイデアで、黒帝から普通のヴァイオリンに切り替える。そして、弓を走らせようとした時にシェリアさんから止められた。
「待って。演奏もこの世界の曲にした方が良いわ。ヴァイオリンで『昼つ方シンフォニー』を演奏出来るかしら? 今の時間は昼に近いから、一番関連深いと思うのよ」
「わ、分かりました……や、やってみます……」
私は即興で『昼つ方シンフォニー』をヴァイオリンで演奏する。練習しているからメロディは覚えているし、このくらいの即興はお父さん達と一緒に家でもやったりしていたから問題ない。
しかし、それでも何も起こらなかった。
「演奏じゃなくて歌の可能性は?」
「あ、あるかも……」
「なら、アコギでやりなさい。それでも何も起こらなかったら覚悟を決めて、全員でやるわよ」
基本的には私一人に任される。その理由は、ここがまだモンスターがいっぱいいるルインズナイトの中だから。全員で演奏していたらモンスターが襲い掛かってきた時に困る。
でも、私がアコースティックギターで演奏しながら歌っても意味がないのなら、最後にはそうするしかない。
「じゃ、じゃあ……や、やります……」
私はアコースティックギターで演奏しながら、『昼つ方シンフォニー』を歌唱する。周囲に金色の光が広がる。【神聖歌唱】と【神聖奏】の効果が重なり合っているので、より効果は強くなる。
私は歌に集中するため、周囲の状況は皆に任せる。適材適所って感じだ。でも、私に見える範囲で変化が起こっている事に気付いた。
周囲に伸びている石柱が次々に綺麗になっていく。これは【神聖歌唱】と【神聖奏】の浄化効果によるものだ。
ただそれとは別の何かも起こっている。石柱が私の歌と演奏に共鳴するような感じがする。私の音をかき消すようなものじゃなくて、増幅しているような感じもしてくる。石柱の共鳴は、また離れた石柱に共鳴させる。その共鳴により私の【神聖歌唱】と【神聖奏】の効果が更に広範囲に広がっている。
「フォルティ、ちゃんと周りを見なさいね。こんな現象が起こるって事は、私達が見える範囲で何かしらの変化が現れるはずよ。そうじゃないと、変化した場所を探して歩き回るって難しい事をしないといけないわ」
「あ、はい。分かりました」
「共鳴してる石柱は大分遠くの方にもあるね。地図に石柱の場所が記されていたら良かったんだけど、測量とかやったことないから石柱がどういう配置になっているのか分からないのは厄介だね」
石柱がどういう配置をしているのか。アルシャさんはそれが気になったみたい。
「ああ、なるほど。石柱の配置が何かしらの意味を持っていたとして、上から見た場合にのみそれが分かり易くなっているとかはありそうですね。何て言ったって、共鳴している石柱と共鳴していない石柱がありますから」
私は確認出来ていないけど、共鳴している石柱と共鳴していない石柱の二種類があるらしい。つまり共鳴していない石柱は、何かしらのブラフ的なものなのかもしれない。
「そういえば、地図にピン刺しって出来ましたよね? それで共鳴している石柱をピンで刺していったら分かりませんか?」
「ピンの最大数制限は……ないね。出来そう」
「じゃあ、私が走り回ってピンで刺していきます。この中で一番足が速いですし。二人はリラさんの護衛をお願いしますね」
「ええ。任せなさい。でも、気を付けるのよ」
「はい!」
フォルティさんが共鳴している石柱の元に向かい、そこにピン刺しをして次に行くという地道な作業をしてくれる。その間、私は歌を歌い続けないといけないけど、それは大した問題じゃない。
ただアルシャさんとシェリアさんが私を守るために私の傍にいるので、フォルティさんは本当に一人で作業しないといけない。作業が大変という事もあるけど、モンスターに一人で対処しないといけない。フォルティさんも強いけど、さすがに心配になる。
「あの子を信じてあげなさい。自分で出来ると思ったから買って出てくれたのよ。私もここから援護出来る分はするし」
「うんうん。適材適所だよ。足の速いフォルティちゃんなら、モンスターから逃げるって事も出来るからね。大丈夫だよ」
私が心配している事に気付いたのか、二人がそう言って安心させてくれる。実際シェリアさんは高い石柱の上で器用に遠くのモンスターを射貫いているし、フォルティさんは私が見える範囲でもモンスターを普通に倒して走り回っている。
いっぱいのモンスターに囲まれないようにしているのか真っ直ぐ移動せず回り道をしているような場面も見えた。
二人の言う通り、共鳴している石柱へのピン刺しはフォルティさんに任せて、私は歌に集中しよう。私の歌が途切れれば共鳴も途切れる。
適材適所で作業を進めていき、ここに隠された謎を明らかにする。それがパラユニに隠されたストーリーに繋がっている可能性が高いから。
「う~ん……取り敢えず、正何角形とか円とかの図形じゃないっぽいかな」
パーティーを組んでいるから、フォルティさんのピン刺しも共有されるみたい。そのピン刺しを見たアルシャさんが言うには、均等に配置されたようなものではないみたい。円でもないから、何か変わった図形か紋章を描いているのかもしれない。
問題は、それを見たところでこのゲーム内に詳しくない私には分かる筈がないという事。
この辺りは皆に任せよう。適材適所だもんね。自分で言ってて、自分の役立たずさに気付かされ、内心ショックを受けた。




