遺跡の盗人
スカベンジャースライムだけでなく、スカベンジャーラット、マジカルバットといったモンスターに襲われていたけど、基本的にアルシャさんがヘイトを買って、私がバフ掛けし、フォルティさんとシェリアさんが次々に倒してくれる。
そのためアルシャさんがダメージを受けるという事しかなかった。そのダメージも私の【神聖奏】で回復するから、ほぼゼロのようなものだった。
「何というか、演奏出来ないと意味がないけど、かなり強いスキルよね。演奏出来ないと意味ないけど」
シェリアさんはしみじみとそう言う。態々同じ事を二回も言っているし。私のスキルは正確な演奏が求められるものだから、強調する部分はしっかりと合っている。
本当にヴァイオリンに限らず演奏出来ないと最大効率で使う事が出来ないスキルなので、私みたいなのじゃないと使いこなせない。そもそもヴァイオリンが弾けるゲーマーがどのくらいいるのかとかの問題もあるし。
「その演奏で、ここら辺の遺跡が共鳴したら良いのに。全くその気配がないわよね」
「まだ手前だからとかじゃないですか? そういうものって意外と奥まった場所にあって、強い敵が守っているとかお決まりですし」
「このエリアでボス以外に強い敵がいるって話は聞かないね。盗掘屋って面倒くさい敵はいるみたいだけど、強いかどうかで言えば微妙みたい」
「ど、どんなモンスターなんですか……?」
盗掘屋という名前からこの遺跡から何かしらを掘り起こして売っている盗人という風に考えられるけど、モンスターとして存在するその盗掘屋が実際に私が考えたようなものとは限らない。
「文字通りのモンスター……っていうよりも人って見た目かな。この遺跡から物を盗もうとしている人達の事。予め言っておくと、そういうプレイヤー達を指した言葉じゃないよ。歴としたモンスター。
面倒くさいのは、動きがくねくねしていて掴み所がないってところと、盗掘屋って名前から分かる通り盗みが得意なんだ。これが死人に対しての盗みだけならまだマシなんだけど、実際は生きている私達から盗むのも得意なの。こっちの消耗アイテムを盗んだり、酷い時だと武器を奪われたりね。
まぁ、倒せば取り返せるんだけど、逆に言えば倒せないで逃がすと失う。だから、絶対に見失えないモンスターとしても面倒くさいって感じ」
思っていた倍くらいには面倒くさいモンスターだった。こっちの持ち物を盗んでくるのは、まだギリギリ許せる。でも、こっちの持ち物を盗んで去るのは許せない。
「まぁ、安心しなさい。それは近距離で戦う場合で、遠距離から攻撃して足を止めれば倒しやすい相手よ。私が射貫けば大体どうにかなるわ」
「な、なるほど……」
「後は足の速さで上回れば大丈夫だと思う。そもそも盗ませなければ良いってだけだし、すぐに倒せば良し」
「う、うん……わ、私もバフで頑張る……」
「うん。リラさんの速度バフがあれば、すぐに追いつくよ!」
「あ、で、でも……お、音が聞こえないと意味がないから……き、気を付けてね……」
私のバフの効果範囲は音が響く範囲。音が小さくなればなるほど、バフは継続しない。つまり距離が重要だ。
ボスエリアくらいの大きさなら問題ないけど、盗掘屋を追って、どんどんと進まれたら、バフの効果が切れてしまう。離れても時間があればバフ継続する普通のバフの方が良い点はそこくらいかな。
「そうこう言っている内に、盗掘屋が現れたよ」
アルシャさんに言われて、そっちを向きながら攻防上昇(中)の演奏をする。
私が見た先には、黒いぼろ布で顔を隠している黒い装束の男性が猫背でこっちを見ていた。その目はぎょろぎょろしており、ある意味でホラーな雰囲気を強く醸し出している。
「きもっ……!?」
フォルティさんが思わず口に出していたけど、私もその意見には同意だ。本当に気持ち悪いという印象が第一に出てくる。
盗掘屋は懐を探ると先端がカーブした短剣を取り出して構えた。あれが盗掘屋の武器らしい。盗掘屋の態勢や服装から、短剣に毒があるのではという先入観が生じる。
「ど、毒とかは……」
「ないわ。本当に盗みだけよ。『トリプルアロー』」
シェリアさんは、一本の矢を放つ。その矢は途中でもう一本増え、続いてもう一本増えた。盗掘屋は最初の一本を避けたが、タイミングと着弾点が少しズレて飛んでくる二本の矢は次々に命中した。
シェリアさんが狙ったのは、盗掘屋の足。盗掘屋が一時的に怯みモーションに入る。そこにフォルティさんが駆けていき、その首と心臓に一撃ずつ攻撃を加える。どちらも急所への攻撃と判定され、クリティカルのダメージエフェクトが散る。
そこで怯みモーションが終わった盗掘屋はフォルティさんに向かって短剣を振るう。それをアルシャさんが盾でパリィした。再び無防備な姿を晒した盗掘屋の額にシェリアさんの矢が命中し、心臓にはフォルティさんの剣が突き刺される。
この二回の攻撃で盗掘屋は倒れた。私のバフもあり、攻撃力が高くなっていたから、それでこんなに早くHPを削り切る事が出来たという形だ。
「まぁ、普通に相手じゃなかったわね。盗掘屋は、その特徴の一つとして集団では出てこないのよ。だから、今みたいに速攻で突けば、どうにかなるわ。これで安心出来たでしょ?」
「そ、そうですね……で、でも……な、何を掘ってたんでしょうか……?」
「さぁ? 見に行けば良いじゃない。ほら」
皆で盗掘屋が現れた地点を調べに向かう。先に着いてたフォルティさんが地面を見ていたので、全員の視線が地面に吸い込まれていった。そこには、全く見覚えのないマークが刻まれた石があった。石畳のようになっているけど、マークが刻まれているのは一つだけだ。
「これが宝物ですか?」
「なわけ」
「でも、これを掘ろうとしていたから、ここが何かしらの地点ではあるって事だよね? 基本的に盗掘屋のいた場所を掘っても何も出ないって事が多いんだけど……これがストーリーの一つだったりして」
アルシャさんがそう言うと、全員の視線が私に集中する。
「ふ、ふぇ……?」
「ふぇ? じゃなくて演奏よ。ここで演奏するわよ。何か関係あるかもしれないじゃない」
「あ、そ、そうですね……」
盗掘屋という他のモンスターとは大して変わらない存在。それがストーリーに関わっているのか。それは分からない。でも、何かしらのヒントになっている可能性はあるので、私は黒帝の弦に弓を走らせる。




