自分の中に芽生えているもの
それから土曜日までの間は、練習とライブが主となった。ユートガンマでのライブとユートエーでのライブの二回を事前宣伝をして行ったら、結構人が集まった。やっぱりこういう別の刺激になるものには飢えているのかも。
そんな中でも作詞作曲の作業はしている。すぐに思い付けば良いのだけど、そんなパッと思いつくものでもない。でも、すぐに作業をしたいと思えるような何かが胸の中にある事は自覚していた。
問題はその何かが何なのかが自分での把握できていないという事。それを確かめたいのだけど、自分の中の気持ちを自分で理解出来ないという状態では、何を確かめれば良いのかも分からない。
そんな中、私は今日鷲衣さんと一緒に美容院に来ていた。来週の土曜日にお姉ちゃん達のライブに行く事もあって、しっかりと整えていこうという事になったからだ。
私としては、そこまで気にするものではないのではと思ったのだけど、鷲衣さんは現実でシェリアさん達とも会うのだから、第一印象をよくしないとと言っていた。
そう言われると確かにそうかもしれないと思い、了承する事にした。そして、お母さんはせっかくだから前髪もしっかりと整えて貰いなさいと言って送り出した。
そう。今日、私は前髪とさよならする事になる。普段は目に掛かるくらいにしているのだけど、鷲衣さんが美容師さんと話して髪型を決めた結果、ちゃんと切るという方針になったのだ。
因みに、私は髪型を選択するセンスがないので、全部鷲衣さんに任せた。鷲衣さんも軽く整えるらしく二人で並んで切る事になる。
一体どんな髪型にされるのかと身構えていたのだけど、完成したのは普段とそこまで変わらない髪の長さが首までになったけど、元々邪魔だったという事もあるのでちょうど良いかもしれない。大体ミディアムロングくらいの長さだ。前髪が眉に掛かるくらいになり、目が光を直接受ける。いや、普段も直接受けてはいるのだけど、やっぱり髪というブラインドがあるのとないのでは全然違う。
「うん! やっぱり琴坂さんは可愛いね。長いとヘアスタイルの幅が広くなるけど、このくらいの長さがちょうど良いよ。本当は染めたりもしたいけど、それはまた今度、琴坂さんがやりたくなった時にね」
「う、うん……」
鷲衣さんは全然変わっているように見えない。大きく変わっていないだけで、全体的なボリュームが減って毛先が整えられていた。バッサリと切るわけじゃないと言っていたけど、本当にバッサリじゃなかった。
「それじゃあ、次は服を買いに行こう」
「う、うん……」
髪型を整えるだけで全てが終わる……という事はなく、しっかりとおしゃれな服を買うという事になっている。家にある服は基本的にお母さんが買ってきてくれるものだし、可愛いものも多いけど、せっかくだから新しいものを買ってきたらとお母さんが提案し、鷲衣さんがアドバイザーとなった。
ただ最初から店を回るのではなく、まずはショッピングモールのベンチに座らされた。そこで鷲衣さんが私の髪を弄る。
「琴坂さんは美人で可愛いからね。何もしないのも有りだけど、ちょっとしたワンポイントで、こういうピンとか着けても可愛いと思うんだ。うん。可愛い」
鷲衣さんは、私の髪の右側に音符が付いたヘアピンを着ける。ヘアピンのおかげで、髪が耳に掛からないけど、耳が完全に外にでるので、ちょっと違和感のようなものもある。今まで髪が耳に掛かっているが普通だったから。
「服はパンツにするとして、上はブラウスかな。清楚系の大人スタイルでいこうと思うの。琴坂さんはどう?」
「え、う、うん……よ、よく分からないけど……き、着てみる……」
「うん。着てみて気に入るかどうかだね。それじゃあ、早速試着だ!」
そこから鷲衣さんに連れ回されて色々な服を試着していった。
「どう? 気に入るのあった?」
「ど、どうだろう……わ、鷲衣さんは……?」
「え? 私が気に入っても、琴坂さんが気に入らなきゃ意味ないよ。琴坂さんの服だもん」
「あ、え、えっと……そ、そうだけど……わ、鷲衣さんが綺麗って思ってくれるのが良いなって……」
「へ?」
鷲衣さんは、頬を赤くしながらきょとんとする。
私としては、服に対してそこまで拘りがない。そうなると、何を考えて選べば良いのかというのもこの試着の間に考えてみたところ、鷲衣さんが楽しそうに服を選んでいるのを見て、鷲衣さんに喜んで貰いたいと思った。
鷲衣さんはスタイリストになりたいと思うくらいにおしゃれに興味を持っている。だから、鷲衣さんに任せれば安心というのもあるかな。
「そ、そう……? じゃ、じゃあ、一番琴坂さんの魅力を引き出せる服を探そうか」
「う、うん……」
途中フードコートで昼食を食べたりしながら、私がライブの時に着る服を探していく。ライブという事もあって、あまり周囲の邪魔にならないような服且つおしゃれなものというのが、鷲衣さんが自分に課している条件みたい。私が動きやすいようにしてくれているというのもあるのかな。
そうして鷲衣さんが選んでくれたコーディネートは、おしゃれOLの休日スタイルみたいな感じだった。
「うん。背が高いから、こういう服を着ても背伸び感が少なくて良いね。琴坂さんの魅力を十全に出せていると思う。後は当日に合わせて化粧するくらいだけど、本当に良いの? 学校にお化粧して行くって」
これは私から提案した事だった。普段全くお化粧なんてしないため、鷲衣さんからはかなり驚かれた。因みに、ちゃんとお母さんの許可は得ている。
「う、うん……と、当時も長時間お化粧したままだから……い、今の内に慣れておこうと思って……」
「そう? まぁ、でも、私も腕が鳴るね。琴坂さんの魅力を引き出しすぎてモテモテになっちゃうかも」
「あ、あははは……そ、それは嫌だな……」
コミュ障陰キャにモテモテ状態は荷が重すぎる。そういう事に憧れる陰キャが多いと思うけど、私としてはどちらかというと怖いというのが本音だ。
(モテモテにならなくて良いから、鷲衣さんにだけきれ……い……って……)
そこまで考えて、自分が今どんな思考をしているのかという事を自覚する。それは京花ちゃんに対してはない感情。普通に最初からいる家族への感情ではなく、これから家族になりたい人への感情だ。
それを自覚した瞬間、顔が赤く染まるのが分かった。
「琴坂さん!? どうしたの!? 熱中症!?」
急に顔が真っ赤になったので、鷲衣さんが驚いて顔を近づけてくる。鷲衣さんの綺麗な顔がこれまで異常に魅力的な綺麗な顔に見えた。
「あ、いや……う、ううん……だ、大丈夫……」
「そ、そう……? 無理はしないでね。取り敢えず、服も買えたし、今日は帰ろうか」
「う、うん……」
鷲衣さんと一緒に家への帰路に着く。
自覚してしまった恋心。私が歌にしたいと思ったのもこれだったのかもしれない。ただこれを言葉にするのは、本当に難しい。だって、自分でもまだ、その全てを自覚出来ているわけじゃないから。




