スキルの真価が発揮される
クエストの報告をしてキューちゃんと別れた後は、ユートゼータからユートアルパに転移する。ユートゼータを調べるのは、フォルティさんと一緒にやるから取っておく事にした。
ユートアルパに転移した後は、そのまま図書館のクエストを受ける。久しぶりに図書館に入ると、やっぱり中は空いている。プレイヤーが図書館に来る事は、本当にないのだなと思わされる。
「あら、久しぶりに手伝いに来てくれたの? ありがとう。それじゃあ、三階の整理と五階の掃除をお願いね」
「は、はい……!」
いつも通りの仕事をしていく。スキルも成長した事で、整理も掃除も全てがやりやすくなった。特に掃除は染みついたような汚れもしっかりと落とせたので、いつも以上にやり込んでしまった。【浄化】の強さが想定よりも遙かに強かった。
「これで良し……」
確認を終えて、司書さんに報告しに向かう。すると、司書さんはニコニコと笑っていた。その傍には面布を着けたアルタさんが立っていた。
「あ、あれ……?」
「仲間の人数が増えたみたいね。それぞれの演奏のレベルは高いけれど、まだ合わせるとなると乱れる部分があるわ。それでも普通の人は気にならない程度の乱れだけどね。歌の方は相変わらず良いわ」
「あ、あ、ありがとうございます……」
「これとこれとこれ。楽譜よ。バンドスコアだから、他の子にも渡して良いわ。餞別と思いなさい」
アルタさんは、私に三つの楽譜を渡してくれる。曲名は『曙プレリュード』『暮れ方コンチェルト』『真夜中ノクターン』だ。歌姫の曲が、これで四曲になる。
私達と音楽をやりたいと言っていたから、これで練習して一緒に出来るようにしようって感じなのかな。シェリアさんが私とフォルティさんと一緒に現実でもバンドをやりたいという気持ちをアルシャさんから聞いたりしていたから、こういうところで気付けるようになってきたかも。
アルタさんから真意を聞けるかと思って、アルタさんの方を見たら、既に消えていた。
「ああ、もう行っちゃった。あの子、忙しないから」
取り敢えず、楽譜は仕舞っておく。ちゃんと皆と共有する事は忘れないようにしておかないと。新しい曲だから。
「それにしても、いつも以上に綺麗にしてくれたみたいで、本当にありがとうね。まさか、私が来た時よりも綺麗にされるとは思わなかったよ。そこでお願いがあるのだけど、他の階の掃除もお願い出来る? 期間は二週間で」
「え? あ、は、はい……わ、分かりました……」
私がそう言うと、クエストの受注画面に移った。クエストの報酬は100万マニー+αとなっている。かなりの高額クエストだ。まぁ、図書館全体の掃除になるから、そのくらいの報酬になってもおかしくないのかな。
「それじゃあ、お願いね」
こうして別のクエストも受ける事になった私は、早速図書館の掃除を始める。私が掃除をするだけで、図書館が見違えるように綺麗になっていく。本棚など新品も同然の姿になる。
「【浄化】……怖……」
ここまで汚れが消える【浄化】というスキルに恐怖心すら芽生える。これまでの汚れが全てなかった事になるという事だから。そこを何か利用して別の何かが出来たりするのかな。
掃除自体は楽しいので、鼻歌を口ずさみながら掃除を進めていく。気分良く掃除をしていたら、初日から大分進んで一階部分は掃除をし終えた。
そのくらいの時間になると、そろそろ夕食の準備をしないといけない時間になるので、そこでログアウトする。
ログアウトした後は、お風呂に湯を張って、夕食の準備をする。今日の夕食はドリアだ。せっかくなので、温泉卵も自作して乗せられるようにしてみようと思う。上手くいくか分からないけど。
後は焼くだけの状態になった時、鍵が開いて玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま~」
ちょっと疲れ気味の鷲衣さんの声が聞こえたので、玄関まで向かう。
「お、おかえりなさい……さ、先にお風呂にする……? そ、それともご飯……?」
「え? えっと……」
鷲衣さんは驚いたような表情をしてから、少しだけ頬が赤くなった。
「あ、え? だ、大丈夫……?」
「あ、う、うん! お、お風呂頂こうかな! ありがとう!」
鷲衣さんは何故かいつもよりも大きな声を出しながら、自分の部屋に向かって行った。そこで着替えてから、お風呂に入るのだと思う。
「どうしたんだろう……お仕事大変だったのかな?」
鷲衣さんがお風呂から上がるタイミングに合わせて焼き上がるように軽く時間を見計らって、ドリアをオーブンに入れる。鷲衣さんが出て来て、スキンケアをしてから降りて来たところで、ドリアが焼き上がる。そのドリアの中心に自作温玉を乗せる。我ながら温玉も上手くいった。
「おぉ……ドリアだぁ。しかも温泉卵も乗ってる」
「う、うん……が、頑張って作ってみたんだ……お、美味しいといいけど……」
「琴坂さんのご飯が美味しくないって事はないから、大丈夫だと思うよ。それじゃあ、いただきます」
「い、いただきます……」
「うん! やっぱり美味しい! 温玉も良い感じ。琴坂さん凄い」
「え、えへへ……」
純粋に褒められると照れてしまう。実際、温玉の黄身も良い感じでとろとろだった。
「そ、そういえば……き、今日の撮影はどうだった……?」
「外撮影と内撮影で結構大変だったかな。色々と勉強にはなったけどね。琴坂さんは? 今日はパラユニにログインしたの?」
「う、うん……お、幼馴染みと一緒にユートゼータまで行ったよ……だ、だから……あ、明日は一緒にお店巡り……し、して欲しいな……」
「勿論。良い防具見つけようね」
「う、うん……」
明日の約束を取り付けられた。その事でちょっと安堵する。
「あ、後ね……じ、【浄化】のおかげで……と、図書館の大掃除クエストを受けられたの……に、二週間で掃除する感じ……」
「えっ……図書館貰えるの?」
「え? い、いや……そ、それはないと思う……」
屋敷の掃除クエストと似たようなものと思ったのか、鷲衣さんは報酬として図書館が貰えるのかと疑ったみたい。実際、+αはあるから、あり得ない話ではないのだけど、図書館を貰うクエストというのもよく分からないからないと思う。
「そ、それとね……あ、アルタさんから……が、楽譜貰ったよ……み、三つも……」
「三つも? 歌姫の楽曲?」
「た、多分……」
「作らないでも曲が増えるのは有り難いけど、歌姫の楽曲の頻度は減らしておいた方が良いかもね」
「う、うん……そ、そうだね……」
あまりアルタさんの楽曲ばかりやっていたら、私達のバンドである理由が薄れる。私達を見てくれているのだから、私達の楽曲をしっかりとやっておきたい。
これは私も同じ意見だ。でも、バリエーションが増えるというところで、退屈させないで済むという利点もある。だから適度にやっていくつもりだ。
明日は防具をどこで買うかの目星を付けつつ、アルシャさんシェリアさんとも楽譜を共有する。そういう日にする。




