見ているだけのボス戦
ボスエリアに入ると、荒れ地の中にセンザンコウが丸まっていた。あれがクローパンゴリンというボスモンスターみたい。先にセンザンコウと言われていなかったら、一瞬アルマジロかと思ってしまう。
クローパンゴリンは、私達が入って来たのに気付いて丸めた身体を起こす。クローパンゴリンは、二メートルくらいの大きさをしている。
「キューちゃん、本当に大丈夫……?」
「前線はここよりもずっと先だよ? 平気に決まってんでしょ。ソロ討伐だって出来るっての。ほら、やるよ」
「うん」
私は黒帝で攻防上昇(中)の演奏をする。これで、キューちゃんの攻撃力と防御力が上昇する。キューちゃんは何やらメニュー画面を出して確認していた。
「一・四倍か。まぁ、永続できるバフって考えたら、この辺りになるのかな。遠距離攻撃はないけど、注意しなよ?」
「うん」
クローパンゴリンが、こっちに向かって走ってくる。それに対して、キューちゃんも向かって行った。
クローパンゴリンは、キューちゃんが攻撃範囲に入ると、即座に爪を振るった。キューちゃんは、その攻撃を身を屈める事で避け、脇腹に大鎚を叩き付けた。激しいダメージエフェクトが飛び散り、クローパンゴリンが大きくノックバックする。
キューちゃんの武器である大鎚の特徴で、強いノックバック効果を持っているらしい。一撃で相手を遠ざける事もあって、連続攻撃が難しいため、一撃の威力も高いらしい。
ノックバックしたクローパンゴリンをキューちゃんが追う。クローパンゴリンは、今の一撃でキューちゃんの攻撃を警戒したのか、身体を丸めて防御態勢を取った。
あれの状態だと物理攻撃が通りにくくなるという話だけど、キューちゃんは迷わず大鎚を振りかぶった。
「『ノックインパクト』!」
キューちゃんがクローパンゴリンに対して上から大鎚を振り下ろす。クローパンゴリンに大鎚が命中すると、さっきよりも激しいダメージエフェクトが飛び散る。同時に周囲にも衝撃波が飛び散る。
『ノックインパクト』を当てたキューちゃんは、次に大鎚を野球のバットのように構える。
「『ホームランインパクト』!」
横スイングの一撃は、クローパンゴリンを斜め上方向へと打ち上げた。防御態勢を取っていたため、見た目からもボールが打ち上がってホームランボールになったような感じだった。多分、上方向への強いノックバック効果を持つ技だ。
私は、武器スキルを持っていないから、こうした技がない。武器効果の演奏くらいだ。スキル効果じゃないから、ああして技のようには使えない。
クローパンゴリンは、空中で防御態勢を解く。あの防御態勢は時間で解除される類いのものらしい。さすがに長時間丸まられると倒すまでに時間が掛かりすぎるからかな。
空中からの落下は、位置エネルギーが運動エネルギーへと変換され、落下ダメージが生じる。背中から着地したクローパンゴリンは、ダメージエフェクトを飛び散らせる。落下ダメージが入った事がそこから分かる。
同時に、クローパンゴリンが伸びる。『ホームランインパクト』と落下ダメージのどちらが原因か分からないけど、クローパンゴリンが気絶状態になったみたい。
「『バーンスイング』!」
ハングリーハイエナにも使った火属性の技をクローパンゴリンに叩き付ける。クローパンゴリンの身体が激しく炎上する。気絶しているクローパンゴリンは、炎上ダメージを受けていても反応しない。
「『クエイクインパクト』!」
倒れているクローパンゴリンが曝け出しているお腹に向かって大鎚を振り下ろす。命中してダメージエフェクトが散った瞬間、クローパンゴリンが激しく振動した。その振動によりクローパンゴリンの全体からダメージエフェクトが飛び散る。
そして、そのままクローパンゴリンが砕けて消えた。討伐完了だ。クローパンゴリンの素材が報酬として手に入る。
結局ノーダメージで倒し終える事が出来た。全部キューちゃんが強かったおかげだ。
「キューちゃん強い!」
「リラより長くやってんのに弱かった嫌だけど。それにしても、そのバフ……ほとんど反則だね。種類が一つに限られるとはいえ、演奏中常にバフが掛かっているってのは、戦闘が凄く楽になるわ。魔法楽器の部隊でも作ればレイドバトルとかになった時、滅茶苦茶強いかも」
「楽譜を覚えられたら?」
「そこがネックなんだよなぁ……カンニング有りってなっても、結局音外したらお仕舞いでしょ?」
「うん。バフは切れると思う。正確に演奏し続ける事が条件じゃないかな? 許される範囲は多少あるかもしれないけど、かなり狭いと思う」
「馬鹿みたいに正確に弾ける奏者専用ってところかな。これ程プレイヤースキルが必要な武器も他にないかもね」
キューちゃんは、実際にバフを受けて、改めて魔法楽器の有用性を認識したけど、その分の実用に必要な技量の高さも再認識して唸っていた。
これからの攻略に使いたいけど、使える人材がいないとかそういう問題に直面しているのかもしれない。
「リラにさっさと最前線に来てもらうって選択肢もあるけど、ライブとかがあるどころか、そもそも初めての集団と連携なんて取れないだろうから、そこの慣らしからって考えると別の人が良いんだよね……」
「役立たずでごめんね……」
「本当だよ。コミュ障は治ったの?」
「えっと……まだ緊張しちゃう……」
「あの一緒に住んでる友達でも?」
「うん……」
私が頷くと、キューちゃんは深々とため息をつく。
「はぁ~……一緒に住んで数日なのにそれって……いい加減歩み寄りなよ。向こうだって待ってるよ」
「うぅ……で、でも、今日はお弁当作ってあげたんだ」
「へぇ~、良いなぁ。リラの料理って、割と美味しいんだよね。おばさんも料理上手だし。てか、そこまでしてあげられるなら、大分打ち解けてるでしょ。今更、リラを嫌う人じゃなくない?」
「う、うん……」
「それじゃあ、次の報告は友達と普通に話せるようになった報告を楽しみしてるから」
「が、頑張る!」
「頑張れ。そんじゃあ、今日はこれで解散にするかな。防具は友達と買いに行きな。せっかく仲良くしてくれるんだから、もっと心開きなね」
「うん」
最後にキューちゃんなりの激励をされて、今日は解散となる。キューちゃんのおかげで、ちょっと色々な経験を積めた。予定とは違う時間になったけど、有意義だったのは間違いない。
そして、何よりも久しぶりにキューちゃんと遊べた事がとても嬉しかった。




