ボス戦前の作戦会議はマスト
キューちゃんと一緒にユートゼータに入る。ユートゼータは、ユートデルタ、ユートエーと違って煙突から煙りがもくもくと出ている事はない。そもそも煙突もそこまで多くない。色々なところに布が掛かっており、染色もしている事が分かる。
「みた通り布作りも含めて色々とやってんの。NPCもね」
「へぇ~、だから、ここに布系装備が集まるって事なの?」
「そういう事。素材を集めやすいから。品質も良いしね。さてと、転移座標は解放出来た?」
「うん」
「それじゃあ、戻ってボス戦に行くよ」
これでボス戦で死んだとしても、いつでもユートゼータに転移する事が出来る。当初の目的をしっかりと果たす事が出来たので、心置きなくボスに挑む事が出来る。
「ここのボスは、クローパンゴリン。分かり易く言えば、センザンコウだね」
「あの壁を壊す?」
「まぁ、そうだね。爪による攻撃が主な攻撃だけど、その威力が凄まじい。タンクじゃないと、一気に一割か二割くらい持っていかれる。通常攻撃でね。紙装甲のリラなら、一撃死の可能性もあるからちゃんと避けてよ? リラなら大丈夫だろうけど」
変なところで、キューちゃんからの信頼がある。
「ハイスペック陰キャの実力をちゃんと見せてよ?」
「キューちゃんはそう言うけど、私、そこまで動けないと思うよ?」
「全く……動けない陰キャは体育の成績で平然と5は取らないっての。ボスの目の前で戦わせてあげようか」
「キューちゃんの鬼……」
「鬼で結構。リラが成長するなら、私は喜んで鬼にも悪魔にもなるから」
キューちゃんは、本当にそういう風に行動するので、私の成長を考えてくれているという事はよく分かる。本当に双子のお姉ちゃんみたいな人だから。
「基本的に私が前衛で戦うから、リラはバフに専念。攻撃は……魔力参照なら、まぁ通るか。クローパンゴリンは、防御形態もあって、身体を丸めると物理攻撃が通りにくくなるから」
「じゃあ、その間は攻撃役交代?」
「いや、防御の上から叩き潰す。そのためのバフだから」
「そ、そこまでのバフじゃないと思うよ……」
「そんな前線レベルのバフは期待してないって。このゲームのバフって実数増加じゃなくて倍率なんだよね」
この話は初めて聞いた。フォルティさんもシェリアさんもアルシャさんも、私よりは早いとはいえ、始めたのは最近だ。だから、この辺りの詳しい設定は知らなくてもおかしくない。
「倍率って?」
「まぁ、大体一・一倍とか一・二倍とか。そういう感じ。この辺りの武器とか初期のスキルの効果とかだったら、本当にそのくらい。前線プレイヤーになると一・五倍とかもあるよ。二倍はまだないかな」
「じゃあ、バフを受ける人のステータスが高ければ高い程」
「効果を発揮する。とは言っても、低ステータスだと意味がないわけじゃない。あるとないのでは大きく違う。微増でもステータスが増えるって事は、SPを割り振っているのと変わりないから。所謂レベルアップと同じ」
「なるほど……」
バフの重要性はゲームのよって様々だけど、バフが存在しないでも良いというゲームは多分存在しない。なくても進められるというものはいっぱいあると思うけどね。
「リラのバフがどのくらいか分からないけど、例え一・一倍でも私にとってはかなり大きい。欲を言えば、倍率が高い方が良いけどね。リラのバフはどのくらい持つの? 効果時間の秒数とクールタイムで調整してバフを掛けるのがバッファーの役割だから、そこら辺の意識も身に着けよう」
「演奏している間だよ」
「はぁ? 何そのぶっ壊れバフは。下手したら、無限にバフ掛け続けられるじゃん」
演奏している間は、ずっとバフが掛かるというのは、キューちゃんにとってはぶっ壊れ性能らしい。これで倍率も良かったら、キューちゃんが理不尽に怒り出すかもしれない。
「でも、演奏している間だから、複数のバフを同時にって事は出来ないよ? 私が出来るのは、攻防上昇(中)と速度上昇(中)防御低下(中)行動停止(弱)だし……このどれかになるよ」
「中……確か、大体一・三から一・五か。演奏って難しい?」
「ループ出来るものだから、楽譜を覚えれば無限に続けられるかな」
「ああ……そこの難易度が高いわけね。そして、楽譜を覚えるなら、リラの得意分野。しっかりと噛み合った武器って事ね。私には使えなさそう」
やっぱり黒帝は結構良いものらしい。ただし、それを扱うにしても、ヴァイオリンを扱える技術力と楽譜を覚える記憶力と戦闘中に演奏出来る技術力が必要になる。
良い効果を持っていても、黒帝を十全に使えるだけの技量がなければならず、こと楽器に関しては、その技量が私にある。
「リラに適した装備を見つけられたって事ね」
「そうみたい」
黒帝は、思っていたよりも私に合った武器だった。いや、魔法楽器がと言った方が良いか。この力をもっと引き出せるように私も頑張ろうと思える。
「でも、それだけで戦うのは難しいでしょ。特に接近された時とか。今日見ていた感じも基本的に避けてたし」
「まぁ、近接攻撃は出来ないし」
近づかれれば基本的に避けて距離を維持しながら、ノイズ攻撃をし続けるしかない。
「だから、その対策を教えるって言ってるの。新しいスキルを取る。武器スキルだと、切り替えが大変だから素手のね。ナイフは今回いたスクイーズウィードの対策とかで使えるから、持っていても良いけど。
まずは、ユートアルパ周辺のモンスターを拳と蹴りで倒しな。そうしたら、【格闘術】ってスキルが手に入るから」
「素手で戦えるようになる?」
「そういう事。普通に剣とかを持っていても蹴りの威力補正が入ったりするから。リラにぴったりでしょ?」
「まぁ……」
格闘が出来るようになるのなら、戦闘の幅は広がる。戦闘の幅が広がれば、それだけ私の安全性が向上する。
「でも、戦闘系のスキルなら、チュートリアルクエストで取れないの?」
「無理。これだけは普通にモンスターと戦って手に入れるスキル」
「そっか……」
「オフラインのソロゲーで格闘系のRPGやってたでしょ。大丈夫だって」
私が不安になっている事を見透かしたキューちゃんはそう言ってくる。確かに素手で戦う系のRPGはやっていたから、素手での戦いもある程度は経験がある。キューちゃんがおすすめしているし、ちょっと頑張ってみようかな。
こんな話をしながらも、しっかりと歩みは止めていなかったのでボスエリアヘの転移場所に到着した。
「さてと、ひとまず役割分担に関してはそんな感じ。それじゃあ、早速行くよ」
「うん」
作戦会議も済み、私達はとうとうユートゼータ前のボスに挑む。




