自分のやりたい事に正直な気持ち
ユートエーまで行った翌日。今日は四人揃ってライブをする日となっている。ちょうど全員の予定を合わせられたからだ。
『一歩踏み出せずとも』『時食み』『トキシックメロディ』の三曲を披露してから、屋敷へと戻る。今日はゲリラでやったけど、それぞれお11万マニーの分け前になる投げ銭を貰えた。
「さてと、今日の反省点をリラから」
「え、えっと……ち、ちょっとギターが走ったかと……」
「まぁ、そうね。私もそこは気になったわ。ほんの少しだけだけど、気を付けなさい」
「は、はい……」
「後は、私のコーラスが少しズレたのもあるわ。ごめんなさい」
「い、いえ……あ、あまり気になりませんでしたし……」
「練習が足りないわね。今日は後の時間を練習にしても良いかしら?」
「は、はい……」
「良いと思います」
「だね」
今回のライブで練習不足を自覚した私達は、残りの時間を四人での合わせ練習に費やす事にした。四人での練習はこういうときにしか出来ないので貴重だ。
「ふぅ……大分良くなったね」
「そうね。欲を言えば新曲もやりたいところよね。いくつか詞が完成したら、アルシャに任せて良いかしら?」
「良いけど、リラちゃんに頼んでみたら? 別の化学反応があるかもよ?」
「リラはリラでいくつか抱えているだろうけど、どうかしら?」
シェリアさんとアルシャさんが私を見て訊いてくる。実際、現状二曲作っている最中ではあるので、いくつか抱えているというのは間違っていない。
ここからもう一つ増えるとなると、大変さが増すというのもちゃんと自覚出来ている。でも、それ以上に他人の作詞というものを見てみたい。そこに音を付けたいという欲求も湧いてきていた。
自分の中に音楽に対する欲求がここまであったのかという驚きと共に、自分もお母さんとお父さんの子供なんだという実感を得る。
「だ、大丈夫です……が、頑張ります……」
「そう? なら、データで送るわね。何か聞きたい事があったいつでも連絡しなさい。遠慮はなしよ? リラはすぐに遠慮しそうだから」
「は、はい……」
まだ短い付き合いだけど、私の事を完全に理解されていた。まぁ、コミュ障なんて大体そんなものだろうから、分かり易いだけだと思うけど。
「そういえば、リラは楽曲をネットに投稿してみようとかは思わない?」
「ね、ネットですか……?」
「ええ。MVとかで投稿したら、宣伝にもなるし、お金にもなるわよ。再生されればだけど」
「な、なるほど……と、特に考えてなかったです……」
「そう? お小遣い稼ぎだと思って、ご両親に相談してみたら? ステラミルクでの曲にするなら、収録も手伝うわよ? ね、アルシャ?」
「そうだね。必要なら喜んで手伝うよ」
「ちょ、ちょっと考えてみます……」
「それが良いわね。やりたいってなって、私達が必要だと思ったら、これも遠慮せずに頼りなさい。これでも頼りになる年上のお姉さんなんだから」
「お姉さんなら普通に年上だと思うけど」
「アルシャうるさい」
いつも通りのやり取りに思わず笑みが溢れる。
(ネットに……作った曲を投稿するって話は昔からある。それこそ、音声合成ソフトを使った曲なんて、何十年も昔から続いている音楽だし。歌に自信がなくても曲を出せるっていうのが大きいのかな。私の場合は、自分で歌って投稿って事になるのかな……お小遣い稼ぎ……オリジナル曲だったら、再生数とか広告収入でお金が入るんだっけ? ゲーム内のバンドだけど……あっ、そっか。これもシェリアさんの策の一つだ。ここで現実の音楽活動にも興味を持たせて、一緒にバンドをしようっていう……でも、不思議とやりたくないって気持ちは出て来ない……)
現実でライブをやるのは、まだ難しい。理由としては、こっちでは私は私じゃない。琴坂伊織ではなくリラとして歌を歌っているから。琴坂伊織として前に出てライブをするとなった場合、本当にちゃんと歌えるかどうか自信がない。
一緒にバンドをするとなれば、シェリアさんは、私にボーカルを任せるはず。こっちと同じようにやりたいだろうから。
結局、私のコミュ障陰キャあがり症な部分が邪魔をしている。でも、やってみたいという気持ちは僅かながらに心の端にあった。
今日はこれでログアウトし、夕食の時間となる。今日の夕食は、デミグラス煮込みハンバーグだ。ご飯とポタージュ、ほうれん草ときのこのバター炒めもある。
「琴坂さんは、音楽の道に進みたいの?」
「え?」
食事の時間に、鷲衣さんから訊かれる。今日のシェリアさん達との会話から出て来た話題だと思う。
「う、う~ん……ま、まだはっきりとは……で、でも……お、音楽は好きだから……や、やりたいって気持ちはあるかも……」
「事務所からお誘いが来てるくらいだもんね」
「で、でも……こ、こんな性格だから……」
「琴坂さんは美人だし、歌も演奏も上手いから自信持ったら良いのに。頼りないかもだけど、私が保証するよ?」
「う、うん……あ、ありがとう……」
鷲衣さんに言われると、途端に自信が芽生えるのだから、我ながら単純だ。まぁ、芽生えるだけで成長しないから、ちゃんとした自信にはならないのだけど。
「わ、鷲衣さんは……す、スタイリストだっけ……?」
「うん……そうなんだけど……最近は音楽活動も良いなって思ってるよ。琴坂さんと一緒にやるのが楽しいんだよね。でも、やっぱりスタイリストとしての仕事にも興味はあるかな」
「そ、そうなんだ……」
「うん。そうだ。琴坂さんさえ良ければだけど、琴坂さんにお化粧をしたりしても良い?」
「え? わ、私……? で、でも……も、もっとちゃんとした人の方が……」
鷲衣さんがやっているから、ちょっと興味は出ていたのだけど、私みたいな陰キャをお化粧しても楽しくないだろうという考えが先行してしまい、断りの言葉の方が先に出てきてしまった。
「そんな事ないよ。琴坂さん綺麗だもん。そんな琴坂さんを、更に魅力的に彩りたいんだ」
「あ、うぅ……」
綺麗とか褒められると、恥ずかしさが前に出てしまう。なんでこんなに褒めてくれるのだろうと思いながらも、やっぱり興味がある事を自覚する。
「最初のステップでお揃いのマニキュアとかどう? フルメイクよりもハードルは低いと思うんだ」
「お、お揃い……? い、良いの……?」
「うん。琴坂さんとお揃いだと私は嬉しいな」
鷲衣さんとお揃い。それは私も嬉しいと思う。京花ちゃんともお揃いのキーホルダーとか付けていた事もあるし、友達の証としてはこれ以上ないものとなる。
「わ、私も嬉しい……お、お願いできる……?」
私がそう言うと、鷲衣さんは目を輝かせて頷いた。
「うん! 任せて! じゃあ、お風呂上がりにやろう!」
「あ、う、うん……」
こうして、私の初めてのマニキュアが決まった。自分では何をすれば良いのか分からないから、全部鷲衣さん任せだ。色はリラの髪色と同じピンク色。爪床と同じような色だから抵抗感とか違和感もない。そういうのも意識してくれたのかな。
鷲衣さんも同じ色の爪になり、二人揃って爪の写真を撮った。
夜寝る時に、自分の爪を見て思わず笑みを浮かべてしまうくらいには、私も気に入っていた。これはマニキュアがというよりも、鷲衣さんとお揃いのものが出来た事に対するものかな。友達とお揃いって嬉しいものなのだなと改めて認識出来た。




