モチベーション維持の秘訣?
森の中で歌う事に夢中になっていた結果、ユートデルタに着くのは、ログアウトしないといけない時間の直前となってしまった。なので、ユートデルタの中を見回る前に転移のポータルを開けてログアウトする事になる。ユートデルタは、煙突が多い街だった。多分、鍛冶とかが盛んなのかな。
街の探索はまた今度にして、ログアウトした私の視界に最初に入って来たのは、こちらを覗きこんできている鷲衣さんの綺麗な顔だった。部屋着に着替えているから、帰ってきて少し経っている事が分かる。
「あっ、ご、ごめんね。そろそろ夕食を作る時間になるから、起きるかなって思って見てたの」
「あ、う、うん……だ、大丈夫だよ……」
私が起きた事に気付いて、少しだけ鷲衣さんが慌てたような感じを出していた。覗きこんでいる事に後ろめたさがあったのかな。夕食を作る時間だからって理由があるから、そこまで気にしなくても良いのに。ジッと顔を見られていたというのは、ちょっと恥ずかしいけど。
身体を起こして、鷲衣さんと一緒にリビングに降り、一緒に夕食を作る。今日はパスタ、野菜スープ、サラダの三つだ。パスタはカルボナーラを作る。素はないけど、生クリームがあったから、自分でソースを作る事になる。私は前にもやった事があるので、普通に作れる。なので、パスタは私が担当する事になった。
「それじゃあ、ユートデルタまで行けたんだ。あそこって、確か鍛冶が盛んなんだよね。琴坂さんにはあまり関係ないかもしれないけど」
「う、うん……あ、そ、そうだ……レ、レイブンウッドで技能結晶を手に入れたよ……」
「技能結晶? レイブンウッドで? そんな話あったかな……クエストか何か?」
「う、ううん……き、木の洞で……」
見つけた場所を伝えると、鷲衣さんは目を丸くしていた。どうやら技能結晶がよくある場所ではないみたい。
「木の洞? そんなところも再現されてるんだ。う~ん……でも、その攻略情報は見たことないな。早い者勝ちなのかな。そうじゃないと、ファーム出来ちゃうよね。技能結晶で得られるスキルは微妙なものだったりする事が多いけど、あるのとないのだとかなり差があるし」
確かに、スキルを得るための手段が行動である以上、その行動以外にスキルを得る手段である技能結晶は手っ取り早く強くなるために使えるものだ。それを定期的に確実に手に入れられる場所があるとなれば、そこでどんどんと技能結晶を手に入れて、スキルを沢山手に入れるとかがで来てしまう。
さすがにバランスブレイカーになりかねないので、この辺りは運か、早い者勝ちになると思う。時々手に入れられるくらいがちょうど良いバランスのはずだから。
「ところで、どんなスキルを手に入れたの? というか、どうやって使うの? 私、見つけた事ないんだ」
「あ、そ、そうなんだ……え、えっとね……こ、このくらいの結晶を飲むの……そ、それでね……せ、【聖歌唱】ってスキルが手に入ったよ……」
興味津々の鷲衣さんに説明してあげると、鷲衣さんは呆然としていた。私が指で作った円を自分でも作って何度も私の方と交互に見る。
「えっ……この大きさの結晶を……?」
「う、うん……」
「飲むの? というか、飲んだの?」
「う、うん……」
「木の洞にあったやつを?」
「う、うん……」
そう言われると、木の洞にあった結晶を飲み込んだヤバい奴という風に見えるかもしれない。まぁ、ゲームだから気にしても仕方ないのだけど。
「何か攻略情報に敢えて書いてないのって、それを知った時の驚きをとっておくためだったのかな……」
「で、でも……け、結構簡単に飲めたよ……」
「まぁ、ゲームだからっていうのもあるんだろうね。後は【聖歌唱】かぁ……聞いた事ないなぁ。そもそも【歌唱】も琴坂さんが初めてだもんね。偶然だけど、同系統のスキルが手に入ったのは運が良かったのかも。どんなスキルなの?」
「う、歌に聖属性が付いて回復浄化機能が付くよ……」
「ふ~ん……サポート系スキルかな。でも、黒帝を使いながら使える?」
「む、無理だと思う……」
「だよね。別の武器も用意した方が良さそうだね。武器に防具……出費が増えるし、金策を進めないとね」
「う、うん……」
実際お金は足りない。防具を揃えるのもそうだし、歌を武器にする事を考えれば、それに合わせた魔法楽器が必要になる。それに新しい楽器も欲しい。いや、厳密には楽器は揃っているから要らないのだけど欲しい。
「明日は普通に帰る予定だし、二人でライブする? シェリアさん達はバイトとかがあるみたいだし」
「あ、う、うん……わ、私もやりたい……」
聞いてくれる人がいれば、ライブは良い金策になる。投げ銭してくれる前提だけど、現実のお金じゃない分、パラユニでの投げ銭の抵抗感は薄い。現実の財布が痛まないというのは、こういう面で大きい。
「あ、で、でも……ま、まだあの曲完成してなくて……」
鷲衣さんと二人で出来る曲である鷲衣さんが大元を作ってくれた曲は、大部分が出来上がってはいるけど、まだ完成していない。ヴァイオリンのパートがあと少しで完成する感じだから。
「うん。普通にいつもの曲で良いと思う。琴坂さんが納得いくまでやってくれた方が良いものになると思うし」
「う、うん……が、頑張る……」
夕食を作り終えて、二人で食べていく。
「わっ!? 美味しい! お店のカルボナーラみたい。いつも家では素を使うけど、それより美味しいよ」
「よ、良かった……ひ、人に食べてもらうのは初めてだから」
「琴坂さんのご飯美味しいんだよねぇ。毎日食べたいくらい」
「あ、ありがとう……」
毎日作ってあげたいのはあげたいけど、今はお母さんがいないから作っているだけで、基本的にはお母さんが作ってくれる。でも、時々鷲衣さんのために作ってあげるのも良いかな。
鷲衣さんはいつも美味しそうに食べてくれるから、作るのも全然苦に思えないし。私も作ってあげたいって思える。
やっぱり美味しいって言ってくれる人がいるっていうのは、料理のモチベーションに繋がるという事が分かる。
夕食を終えた後は、それぞれお風呂に入ってから軽く防音室で練習をしてから眠りに就いた。




