些細なことにも敏感に
学校もつつがなく終わり、放課後になる。鷲衣さんはお友達と少し出掛けてくるみたいなので、私一人での帰宅となる。友達付き合いは大切なので、
(まだ二日くらいなのに、もう寂しいな……夕飯の下準備だけして、パラユニにログインかな)
冷蔵庫と相談して、夕飯はパスタにする事にした。忘れないようにキッチンにスパゲッティを出しておき、自分の部屋に戻り部屋着へと着替えてから、パラユニにログインする。
今日はシェリアさんもアルティさんもいないので、一人きりだ。なので、ユートガンマからユートデルタへと向かう事にする。
防具は初期装備だけど、道の真ん中を通れば問題ないはず。そもそもヴァイオリンを買った関係でお金もないから、防具を揃えることもできないのだけど。
(ライブしても良いけど……まぁ、大丈夫かな。黒帝の攻撃力を信じよう。どうせ、ボスには挑まないし)
パラユニの良いところは、道の中央を歩けば安全ということだ。観光気分でゲームを楽しめる。ちょっと逸れたらモンスターが襲ってくるようになるけど。
気楽な散歩で、次の街に行ける。戦闘が苦手な人でも楽しめる良いシステムだ。
ユートガンマからユートデルタへの道のりは、ピースフォレストではない。同じ森エリアだけど、こっちの方が暗い。名前はレイヴンウッドというらしい。
「ある程度舗装されている道だし、見失う心配もなさそう。でも、ピースフォレストよりも少しわかりにくいかな。優しい設計だけど、ちょっとずつ難易度は上がるってことかな。まぁ、そうじゃないとゲームじゃないよね」
黒帝を手に持ちながら、道の中央を歩いてユートデルタへと向かう。学校終わりということもあり、そろそろ夕方になる。夜になればモンスターが厄介な種類に変わる。
黒帝の攻撃力なら問題ないとは思うけど、まずは安全に次の街への転移ポータルを開放して、路上ライブができる街を増やす。
頭の中で軽く作曲しながら、レイヴンウッドを歩いていると、視界の端で何かが光ったような気がした。
「何だろう?」
森の中に入らないと、その場所に行くことができない。
「大丈夫……黒帝があるし」
しっかりと自分に言い聞かせて、私は道を外れる。何かが見えた場所に向かって真っ直ぐ進む。もう一回くらい光ってくれると正確な場所が分かるのだけど、あの一回だけしか見えていない。
「気のせいだったのかな……」
すぐに見つかってくれると思っていたから、段々と奥に進むにつれて不安が大きくなっていく。そんな私の耳に犬のような鳴き声が聞こえてきた。
そちらを見ると、犬というよりも狼のようなモンスターが向かってきていた。ファングウルフって名前から噛みつきが強いモンスターと考えられる。
即座に黒帝でノイズを発生させて攻撃する。ファングウルフにダメージエフェクトが発生し、一瞬怯むけど、ピースフォレストのモンスター達とは違い、そのまま立ち止まる事はなかった。
(一方的な攻撃ができない……)
ゲームからここからが本番だと言われているかのような感じがした。私は横にステップを踏むようにして跳びかかるファングウルフを避ける。直線的な攻撃なので、このくらいなら簡単に避けられる。
相手の動きを見ながら、黒帝によるノイズ攻撃を続ける。避けながら演奏する事も特に問題なく出来ている。演奏を使った戦闘にも、ちゃんと慣れてきているのが分かる。
そのままファングウルフを倒す。
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リラ Lv21 職業:ストリートシンガー
HP:140/140
MP:65/65
力:5
防御:25
速度:65
器用:17
魔力:155
運:5
SP:55
スキル:【歌唱Lv48】【演奏Lv69】【浄化Lv8】【整理整頓Lv3】
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ライブと今の戦闘で上がったレベルから、SPを魔力に90と速度に50割り振った。これで攻撃力と移動速度が上がる。
それにしても【歌唱】と【演奏】が馬鹿みたいに上がっている。本当にライブしかやってこなかった事が分かってしまう。ちょっとだけ家の掃除をしたりしているからか、【浄化】も上がっているけど。
「最近図書館のお手伝い出来てないなぁ……時間を見つけてお手伝いにいかないと」
厳密には行かなくても問題はないのだけど、ずっとやっていたから、ちゃんとやらないといけないって認識が出来ているのかもしれない。そこまで苦な作業でもないし、図書館を綺麗にしたいという気持ちもあるので、私にとっては趣味みたいなものだ。
「魔力を上げたし、これでファングウルフを倒しやすくなるはず」
攻撃されるまでの間に倒せない場合に備えて、避けるための移動速度も上げた。これで安定して倒せるようになるはず。
「ここら辺だった気がするんだけど……」
時折襲い掛かってくるファングウルフを黒帝のノイズ攻撃で倒しながら、周辺を探していく。でも、周辺に光って目立つようなものは見当たらない。
「気のせいだったのかな……ん? もしかして……」
周囲を見回していると、木の洞が目に入った。
「もしかして……」
私の目線よりちょっと下くらいにある木の洞を覗きこむ。すると、その中に何か結晶みたいなものがあるのが分かった。手に取って見ると、内部に金属板を含んだ結晶だという事が分かる。アイテムの名称は技能結晶というらしい。
「攻略情報にあったやつだ。これを使うとスキルを得られるんだっけ。ランダムだし、既に持っているスキルも手に入ったりするし、そこまで良いものじゃないって評価だったけど……そもそもどうやって使うのかは調べてなかったや」
メニューから技能結晶を調べる。
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技能結晶:内部に技能の情報が書き込まれた金属を閉じ込めた結晶。一体何故、どのように結晶の中に閉じ込められたのか。その全てが謎に包まれている。結晶を飲み込む事で内部に閉じ込められた技能を得られる存在がいると言われている。
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最後にスキルを得られる方法が書かれていたけど、その内容は正直唖然としてしまうようなものだった。
「これ飲むの……?」
結晶は栗くらいの大きさがある。これを丸呑みしろというのは、結構勇気が必要になる。ゲームだから大丈夫なのだろうけど。
「スキルが手に入るし……やってみよう」
私は技能結晶を口に含んで飲み込む。喉に引っ掛からないか心配だったけど、すんなりと嚥下できた。
『技能結晶の摂取に成功しました。スキル【聖歌唱】を獲得しました』
ちゃんとスキルを手に入れた。
【聖歌唱】というスキルは、歌唱に聖属性を付与して回復浄化効果を与えるものらしい。どのくらい使えるスキルなのかは分からないけど、問題は黒帝がヴァイオリンだから弾きながら歌うのがやりづらいって事だった。
「ちょっと歌ってみようかな」
攻撃には使えないけど、アコギを出して軽く演奏をしながら『昼つ方シンフォニー』を歌ってみる。『昼つ方シンフォニー』を選んだ理由は、このゲーム内で作られた曲なら、何かしらの影響が出ると思ったから。
歌自体に大きな影響はない。でも、少し身体が温まるような感覚を覚える。これが回復効果とかなのかな。
夕方の赤とオレンジの世界の中。私の歌声は森の中に響き渡っていく。大自然の中で歌うのも気持ち良いものだという事がよく分かる時間となった。




