無意識に行う大胆な行動
皆でお姉ちゃん達のライブを観に行くことになったところで、私達はログアウトした。明日も学校があるからだ。
「あっ、琴坂さん、ちょっと良い?」
「え、あ、うん……」
トイレから帰った私がベッドに腰掛けると、鷲衣さんも隣に腰掛けた。そして、スマホを構えて自撮りモードにする。
「すっぴんだけど、二人に送る写真撮っちゃおう。当日にどのくらい化粧するかわからないし」
「あ、う、うん……」
何か私も化粧をするみたいな感じがした。多分、気のせいかな。自分じゃ化粧なんて出来ないし。うん。
鷲衣さんは、カメラの角度などをしきりに調整している。これが陽キャのやっている盛れる角度探しというやつか。私にはよく分からないけど、あんな角度を調整するものなのかな。滅茶苦茶腕も動かしているけど。
そして、ちゃんと二人で入れる距離まで近づいて、二人でピースをしながら写真を撮る。それを鷲衣さんがグループメッセージで送る。
直後に、シェリアさんから『イメージ通りだわ』という返信がきた。多分、私の方を言っているのかな。
(服とかもイメージ通りに根暗な感じが良いのかな)
そんな事を思っていると、鷲衣さんが難しい表情で写真を見ていた。そのまま私の方を向くので、私の視線が自ずと下がっていく。
「……琴坂さんと私って、あまり座高変わらない?」
「あ、え、ど、どうだろう……」
身長は私の方が高い。それは確実だ。鷲衣さんの頭頂部も見ようと思えば見る事が出来るし。ただ座高に関しては特に気にした事がなかったため、答える事ができない。
確かにベッドに座った感じは、立っている時よりも差がないように思える。
「琴坂さんって思ってたよりも脚が長いんだね。こうやってみるとよく分かる。私も脚は長い方だけどね」
鷲衣さんが足をピンと伸ばす。鷲衣さんのすらっとした白い素足が彫刻で作り上げた芸術作品のように見える。
私は無意識に鷲衣さんの脚に手を伸ばして指で撫でていた。彫刻かと思ったその脚は柔らかく弾力を含んでいる。でも、彫刻と似ているのは凹凸がなくどこまでも滑らかで心地よい触り心地をしていた。
そして、自分がしでかしている事を自覚した瞬間、私は一気に顔が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめんね……つい……」
すぐに謝って鷲衣さんの方を見ると、顔を真っ赤にしていた。口を真一文字に引き絞っているけど、口角が少し上がっている。
「あ、う、うん。さ、触りたいなら全然……ちょっと恥ずかしいけど……」
恥ずかしがっている鷲衣さんはいつもよりも可愛さが際立っていた。一瞬見惚れちゃったけど、すぐに我に返る。
「ご、ごめんね……あ、わ、私も触って良いよ……」
「?!」
やってしまったものはもうどうしようもない。それなら、私から差し出せるものは同じものを差し出すことくらいだ。鷲衣さんと違ってちょっと太いけど……まぁ、太腿って名前だし太いのは問題ないはず。
鷲衣さんは、私の太腿を凝視する。何か滅茶苦茶血走り始めて、瞳孔が少し開いているような感じがする。
たっぷり一分くらい凝視してから、首を横に振った。
「ううん。そういうのは、もうちょっと仲良くなってからにしよ。まだまだ私達の間には壁があるから」
鷲衣さんはそう言って肩をくっつけてくる。肩から鷲衣さんの体温が伝わってくるような感じがする。互いの寝巻きという壁があるはずだけど、それでも少し突き抜ける感じがする。
これが本当に体温なのか。それとも、鷲衣さんという質量が感じさせている重みを脳が勝手に変換しているだけなのか。何にしても普段なら、反射的に避けようと思ってしまう密着具合だけど、ちょっと心地よく感じている。
(京花ちゃんとくっついた時とは違う。京花ちゃんは、安心感をくれる。でも、鷲衣さんは……何かそういうのじゃなくて……安心感と……何だろう? でも、私は好きな感覚だな……)
その感覚に集中していたら、だんだんと瞼が重くなってきた。ちゃんと横にならないといけない。そう思いながらも、この感覚に浸っていたいという欲求が強く、私の意識は途絶えた。
────────────────────
天花はパニックになっていた。勇気を出して肩をくっつけてから五分もせずに伊織が寝息を立てながら全体重を天花に押し付けてきたからだ。
意識がなければ、伊織自身が体重を支えることはない。つまり、天花が支えなければいけないのだが、身長差から生まれる当然の体重差により、天花は伊織の下敷きになった。
先程伊織が無意識に太腿も触ってきた時とは比べ物にならない程の熱量が天花の中で生成されていく。
(ふえ!? ふええええ!? ど、どうしてこんな事に!? ちょっと距離が縮まってるのかもって思って、大胆な行動に出たから!? あっ、琴坂さんから良い匂いがする……いやいや! 違う違う! そうじゃないでしょ!? この状態はヤバい! 琴坂さんのあんなところやこんなところが密着してる!? 太腿触るとかどうとかいう次元を超えた状態なんだけど!? 今、琴坂さんの太腿に触れたらヤバいと思って自重したのに! 役得……役得なのか!?)
天花は、段々と冷静さを取り戻して、伊織を起こさないように下から抜けようとする。直後、伊織は自分の布団を逃さないかの如く、天花を両手で捕まえる。
(え? えええええ!? そ、そんな大胆な!?)
天花は、陽キャの装いをしているが、その心はピュアな面が多々あるのだった。自分でも距離感を間違えた行動をとる事があるが、それはほとんど無意識下での行動。意識的にここまで近づくのは、もう少し心の準備が必要だった。
そして、その準備をする時間は存在しなかった。完全な密着状態になり、伊織に抱きしめられている天花は、自身の許容値を超える伊織成分により気絶した。
────────────────────
朝のアラームが聞こえ、目を開くと、そこには鷲衣さんの姿があった。鷲衣さんの綺麗な寝顔が目の前にあり、私は鷲衣さんを抱き枕にしていた。
(?)
状況がよく分からない私は、鷲衣さんを起こさないように手を引き抜き、鷲衣さんをベッドの中央に移動させて掛け布団を掛けてから、顔を洗いに向かう。
歯磨きと洗顔を終えたところで、ようやく思考ができるようになった私は先程の状況を思い出して、紅潮する。
(あ、あれ!? わ、私普通に寝なかった!? あ、そ、そうだ。鷲衣さんに寄りかかられて、そのまま眠くなっちゃって……そこから鷲衣さんを抱えて寝ちゃったって事!? や、やらかし過ぎた!! わ、鷲衣さん……家に帰っちゃうかな……)
自分のやらかしにハラハラしながら、朝食とお弁当の準備を進めていく。多分、私のせいで寝にくかっただろうし、もう少し眠らせてあげる事にした。
昨日のうちに鷲衣さんが準備しておいてくれた挽肉をスプーンで丸めて焼いていく。
「照り焼きで良いかな」
照り焼きのソースを作り、焼いたミートボールにかける。半分に切ったミートボールを味見で食べる。
「うん。美味しい」
鷲衣さんの味付けは優しめだったので、照り焼きにしても味が濃過ぎるということはなかった。
同時並行で作っておいたほうれん草のおひたし、卵焼きと鷲衣さんが作ってくれていたきんぴらと一緒にお弁当箱へ詰めていく。
その段階になると、上の階から慌てて動いている足音が聞こえてくる。鷲衣さんが起きたみたい。ここまで足音がするってことは、相当焦って走っている時だ。
寝巻き姿の鷲衣さんがリビングに降りてくる。
「ご、ごめん! 寝坊しちゃった!」
「あ、う、ううん……だ、大丈夫だよ……そ、それより……き、昨日はごめんね……わ、私、わ、鷲衣さんを抱き枕に……」
「あ、うん。全然気にしないで。うれ……わ、私もすぐに寝ちゃったから。寧ろ、布団よりも心地良かったりして」
「……あ、べ、ベッドの方が良い……?」
布団よりも心地良かったということは、ベッドの方が身体に合っていたのかもしれない。それなら、私と交換する形が良いのかな。
「あ、ううん。そういうのじゃないから。あ、私、顔洗ってくるね!」
鷲衣さんは早口でそう言うと、逃げるように上に走っていった。
(そういうのじゃない……どういうの? ベッド以外に変わった点って……私がいるかどうか? つまり……抱き枕があると寝やすいとかなのかな? わたしのぬいぐるみ達を貸してあげたら寝心地の改善に繋がったりするかな?)
そんな事を考えながら、お弁当への詰め込みを終えて朝ごはんの用意をする。お弁当の残りがあるので朝ごはんはこれで良いかな。お弁当と全く同じだとお昼に飽きる可能性もあるので、ただの白米じゃなくて鮭おにぎりにしておこう。
朝ごはんの準備が出来たところで、鷲衣さんが改めて降りてくる。二人で食卓に着いて、朝ごはんにする。昨夜の一件は、特に何事もなく処理されたみたいで、いつも通りに鷲衣さんと話しながら一日が始まった。




