表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

パーン

「ご、ごめんね。いっぱい泣いちゃって」


 かれこれ一時間ほど麗奈は泣き続けた。

 さすがに通行人の目を引き過ぎたので、途中近くにあった公園に移動し、ベンチに座ってもらった。

 美里はその間、通行人をうまく受け流してくれていた。


「ううん、大丈夫だよ。麗奈ちゃん、スッキリした?」

「う、うん。もう大丈夫」

「そうか、それはよかった」


 俺と美里は顔を見合わせて胸を撫でおろす。


「えっと一つ確認したいんだけど……」


 麗奈はもじもじと指を絡める。


「美里ちゃんの部屋に行ったのは、その、なんで?」

「あー、あれは虫が出たからとってほしいって言われただけだよ」

「うん。そうそう。虫とったらすぐに蓮君部屋出て行っちゃうんだもん。どうせならそのまま一緒の部屋で寝たかったのに」


 美里は頬を膨らませて不満を提示する。


「じゃ、じゃあ、蓮はずっと旅館の中をウロウロしてたの? でも、全然眠そうな気配なかったし、やっぱり美里ちゃんの部屋で……」

「いや、それがさ、旅館の中をウロウロしてたら従業員の人が声かけてくれてな。事情を話したら、特別にって従業員の休憩室を使わせてくれたんだ。旅館の人に確認してもらってもいいぞ」


 俺は力強く親指を立てた。


「そう、だったんだ。何だか一人で勘違いしちゃって恥ずかしい」


 麗奈はへなへなと尻餅を着く。


「いや、俺の方こそすまない。麗奈の態度の異変に気付いた時点でしっかりと話し合うべきだったんだ」


 俺は麗奈に頭を下げる。


「そんなしないでよ。私だって、勘違いしてめちゃくちゃ恥ずかしい迫り方してたし」


 麗奈は麗奈で真っ赤になった顔を両手で覆う。

 うん、まあ確かに、かつてないほどの迫り方だったな。

 俺の心臓は未だに跳ねている。


「はいはい、私がいることも忘れないでね」


 美里が俺と麗奈の間に入り込む。


「まあでも、私の完敗だね。私もずっと繋がってきたけど、一方的過ぎたね。あーあ、もっと早くに転校すればよかったなー」

「いや、そんなこと……」


 言いかけた俺の唇に美里の人差し指が触れる。


「言わなくて大丈夫。恋に破れた乙女にかけることのできる言葉なんてないんだよ。今は何言われても私、傷つくから。失恋以外の傷はつけてほしくないな。私の推しの蓮君は、そんなことしないよね?」

「美里ちゃん!」


 美里に思い切り麗奈が抱き着いた。


「本当にありがとね。私、美里ちゃんがいなかったら、ずっとウジウジと蓮の傍にいただけだったと思う。美里ちゃんがいたから、いてくれたから自分に素直になれたの」

「うん……。うん……」


 美里も麗奈を抱きしめ返す。

 そこには俺との繋がりとは違う、温かさが確かに存在しているように思えた。


「よく頑張ったな、蓮」


 ぱちぱちと拍手をする音が聞こえたかと思うと、近くの家の物陰から先生が出てきた。あ、ちゃんと見てたんだ。


「えっと、蓮君、その人は?」

「俺の主治医の坂崎先生だ。麗奈には昨日話したけど、この旅行は先生が影ながら付き添ってくれてたんだよ。そのおかげで、俺たちは高校生三人で旅行をすることができてたんだ」

「そうだんたんだ。えっと、蓮君の先生、ありがとうございます。とっても素敵な経験と思い出ができました」


 美里はぺこりと頭を下げる。


「あ、私も、その、ありがとうございました」


 麗奈もつられて頭を下げる。


「いや、こちらこそありがとう。蓮の病気を治すことができたのは、君たちのおかげだ」

「え? じゃあ、やっぱり……」


 先生の口から洩れた言葉。

 俺はその意味を理解しつつも、どこかはっきりとしたピントを合わせることができない。

 本当に、本当なのか?


「ああ、これで蓮の服が爆散する病も完治したはずだ。麗奈ちゃん、美里ちゃんと言ったね。本当に蓮を支えてくれてありがとう」


 先生も二人に深々と頭を下げる。

 その姿を見て、俺も思わず二人に頭を下げる。

 そして、ようやく思考のピントが合った俺の口から、自然と言葉が漏れる。


「俺からもありがとう。これでようやくしっかりと歩いて行ける。麗奈。麗奈には本当に迷惑をかけたと思う。傷つけてしまうこともあったはず。それなのに、ずっとそばにいてくれてありがとう」


 俺は麗奈を見る。

 麗奈の瞳からは涙が溢れていた。


「ううん。いいの。こうして蓮が私を見てくれていることが嬉しい。好きだよ、蓮」

「ああ、俺も好きだ」


 しっかりと届け合う好きという想い。

 俺はあまりにも暖かな心のやり取りに涙腺が自然と緩む。

 だが、まだ終わりじゃない。

 俺は美里を見る。


「美里もありがとう。美里には情けない姿を見せてしまったけど、美里のおかげでこうして自分に正直になれた」

「なんだか照れるね。でも、本当によかった。麗奈ちゃんにはとられちゃったけど、これからもカッコいい蓮君を推させてね」

「ああ。もちろんだ」


 俺は力強く頷いた。

 これから先、爆散しないからこそ、油断せずに生きていきたい。

 そう思えた。


「素晴らしい関係性だ。友情、そして恋とはこうも美しいものなのだな。まあ、私は友人と遊ぶ暇も、恋する相手も時間もないけどな!」


 昨日、俺に醜態を見られたからか、何かが振り切れ始めた先生。

 いや、初対面二人もいて、なおかつそこそこ感動的なシーンにその冗談はきついです。

 こうして俺の爆散する病との日々は終わりを告げた。

 得も言われぬ安堵感と、麗奈への恋心への自覚が混ざり合い、俺の心はフワフワと浮いている。

 心地いい。


「さあ、私の車で帰ろうじゃないか」


 どうやら先生は車で来ていたらしく、帰りは乗せてくれるとのこと。

 たった一泊二日だったけれど、密度の濃さゆえに疲労が溜まっていた俺たちは好意に甘えることにした。

 俺たちは荷物をトランクに乗せた後、先生の車へと乗り込んだ。

 なぜか、後部座席に三人。

 俺を真ん中にし、麗奈と美里が両隣に座る。


「いや、なぜこの配置?」

「だって、せっかく蓮と両想いになれたんだから、少しも離れたくなくて」

「うーん、私は最後まで三人で来たんだってことを実感していたくて」


 二人は俺越しに視線を合わせ、そして、笑い合った。


「まあ、二人がこれがいいならそれでいい、かな」


 バックミラー越しに、先生の目が血走っていることは気のせいだろう。

 きっと、昨日飲み過ぎたせいだろう。

 出発した車内。

 俺たちは他愛のない、それでいてどこか愛溢れる会話を紡いでいく。

 この一泊二日の旅行で、俺たちの距離は心地よく縮まったように感じる。

 もちろん、麗奈との関係は大きく変化したが、それと同じくらい、三人の関係も深まったと思う。

 しかし、いかんせん山道。車は右に左にと振られる。

 その度に、俺は両隣の二人にどうしても寄りかかってしまう。


「蓮、もっと寄っていいよ」

「あ、ああ、ありがとう」

「蓮君、私の方にも遠慮なく、ね?」

「すまない」


 俺は気づいてしまった。これまではエロスの先に爆散があったので、エロスに支配されながらも、その実、きちんとエロスを堪能できていなかったことに。

 今は全てのエロスを純たる心で捉えることができてしまっている。

 だからこそ、両隣に座る二人の匂い、触れ合う肌、漏れる吐息、体温、その全てがめちゃくちゃにエロく感じてしまう。

 ヤバい。

 普通の人はこれほど純度の高いエロスを日々感じていたのか。

 鼻血が出てしまいそうなくらい、脳に血がいっているのがわかる。

 だが、そのエロスが爆散に繋がる気配はない。

 俺の心の中には麗奈への好きという想いが溢れているだけ。

 うん、爆散はしないというものはいいことだ。


「きゃっ!」


 急カーブに差し掛かったとき、美里が俺に思い切り寄りかかってきた。

 自然と、美里の胸が俺の二の腕付近を包み込む。


「え?」


 パーンと乾いた音が社内響いた。

 爆散する病が完治した俺。

 そうであるはずなのに、なぜか俺の服は美里の乳圧を感じた瞬間、爆ぜてしまったのだ。

 これまでにないほど軽やかな音を立てて。

 車内全裸。

 幸い、股上に置いていたスマホが俺の俺を隠してはくれた。

 だが、それ以外は隠せていない。

 というか、なぜ爆ぜた? 

 俺の全身から一気に冷や汗があふれ出してくる。


「蓮? どういうこと? 私のこと、もう好きじゃなくなったのかな?」


 麗奈の瞳から光が消える。

 先ほど両想いになったばかりの彼女。

 こんなにも早くハイライト消えちゃう? 

 いや、好きだよ。

 俺、麗奈のことちゃんと好きだよ。

 俺は心の中にある麗奈への想いを確かめる。

 ちゃんと彼女への暖かな想いが俺の中を漂っている。

 麗奈の顔を見るだけで、じんわりと熱が広がる。

 これは好きということに間違いない。


「え、もしかして、まだチャンスあるのかな? 蓮君、この旅で私にも深い絆感じてくれていたから、完全に麗奈ちゃんに恋したってわけじゃないのかな? だから、私が隙間に入り込んだ分で爆散したのかな?」


 一方、美里はチャンスだと感じたらしく、さらに胸を押し付け顔を近づけてくる。


「どういうこと?」

「まだ頑張っていいのかな?」


 俺は必死に二人からの攻めに耐えつつ、先生に訴える。


「せせせせせせせ、先生! どういうことですか?」


 すると先生はにかりと笑う。


「うん。私にもわからん。後で調べておくから、とりあえず今は耐えてくれ」

「おん」


 そのまま、俺は自分でも答えを出すことができずに、これまでとは異なる圧力に晒されながら全裸で過ごした。

 幸い、真ん中に座っていたこともあり、周囲から気づかれることはなかった。

 たぶん。

 たぶんだけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ