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「「どっちへの気持ちが大きいの?」」

 結論、行けることになった。

 先生との会話から数日後、まず俺の親からオーケーが下り、そのすぐ後に麗奈、美里から「「楽しみだね」」と連絡がきた。

 どうやったんだ? 

 俺の親ならともかく、麗奈と美里の親を説得するのは無理だろうと思っていたのに。

 そもそも、どうやって二人の親の連絡先を把握できたんだ?

 お礼を伝えるために先生に電話し、そのついでに疑問をぶつけてみたけど、『医者ってのはね、社会的信用だけは高いんだよ。それを利用したまでさ。君が知る必要はない。ふふふ』と言っていた。

 いや、ほんとにどのような説得したのか気になる。


「蓮と旅行できるなんて夢みたい! しかも泊りがけ! 嬉しくて、この旅行決まってからあんまり寝れなかったよ」


 俺の横で、より女の子という存在の輝きを増していく麗奈がこちらに笑顔を向ける。

 寝れなかった、とは言ってはいるが、その肌は艶めき、目はいつも以上にくりくりとしている。

 服装もこの前のガーリーな感じとはまた打って変わって、ジーンズにTシャツというラフ目。


「あ、服のこと気になる? 前みたいにボーイッシュな雰囲気の時に着るジーンズってイメージそのままで捻りがないけど、映画に行った時みたいにガーリーな感じの服装から無地T&ジーンズ切り替えるとさ、たまんなくない?」


 麗奈は見せつけるように、手を後ろに回して軽く胸を張り、悪戯な笑みを浮かべる。

 もともと張っていたTシャツがさらにきゅっと張る。

 視界的破壊力がしゅごいぃ。

 もちろん、肌着が爆散する。

 今回の旅行のためにいくら肌着を着てもいいように、絞りに絞り込んだ肉体。

 その上に重ねた計五十枚の肌着のうち、軽く半分は爆散した。

 そんな俺の様子を見て、麗奈は満足そうに眼を細め、口端を上げる。


「うぐぅ……。正直、それはある。その、すごく、いい。好みだ」


 俺は爆散に多少の動揺をしつつも、素直に言葉を発する。

 すると、麗奈はキョトンとなる。

 直後、ボンっと顔が真夏のトマトよりも濃い赤に染まる。


「あ、ずるーい。私も褒めてよ蓮君」


 麗奈を挟んで反対側にいる美里がこちらを覗き込んでくる。

 美里はこれまでの七瀬先生を意識した格好とは違い、前に写真で見せてくれた時のような静を揺蕩わせる格好をしている。

 黄色い七分丈のカットソーが初夏の日差しに映え、フレアスカートが自身を彩るライトブラウンを楽し気に揺らしている。

 コンタクトから眼鏡にも戻したようで、より顔全体の印象が締まって見える。

 破壊力すごい。

 何より、俺を応援し続けてくれていた美里というバックボーンが今の姿からは滲み出すぎていて、緊張する。

 正直、ちょっと心配していた。

 推し活など諸々が判明した美里は、その後は吹っ切れたのか、スクールバッグに俺のキーホルダーをつけてきたり、教室で俺の顔のうちわを使ったりと何かと推しっぷりを見せていた。

 周囲のクラスメイトも、美里の変貌っぷりに驚いてはいた。

 もちろん、一番驚いていたのは七瀬先生だが。

 けれど、これまで以上に幸せそうな本人を前に、皆が皆、なんだかんだ優しい視線を送っていた。

 今回はさすがに旅行ということもあってか、俺成分は少ない。

 顔がプリントされたシャツだったらどうしようとか思っていたけど、本当によかった。

 あれ? 

 ちょっと待って。

 美里の耳に俺の顔ついてない? 

 もしかして、イヤリング、俺の顔? 

 俺の顔のイヤリングつけてる? 

 駄目、見ないで。

 俺、こっち見ないで。

 そんな気づきたくはなかった気付きを胸に仕舞い、俺は美里に言葉を返す。


「美里も、アレだな。素敵、だな。こう、試合会場での美里のことを思い出せて、なんだかホッとする」

「推しの蓮君に褒められるのいい! たまんない! でも、なんだかキャラじゃないような?」


 美里は嬉しそうに頬を弛めながらも、しかし、不思議そうに首を傾げる。

 この前から『コンタクトやっぱり辛い』と言ってつけている眼鏡のフレームが光る。


「……だよ! そうだよ! どしたの? 蓮」


 麗奈は俺のどこか悪いのかという感じで、体中をベタベタと触る。


「いやなに、シンプルな考えだ。これまでは、爆散するからこそ、エロい方面も含め、色んな感情や想いを抑え込んできた。でも、二人としっかりと繋がるためには、そうじゃ駄目だと思ったんだ」


 二人は俺に対する想いを伝えてくれた。

 傷ついてもいい、傷つけられてもいい。

 その覚悟をもって、二人は俺の傍にいてくれている。

 なら、俺も覚悟を決めるべきだ。

 麗奈や美里に伝えてきたことよりも、もっと深いところにある想いを届ける覚悟を持たないといけない。

 きっと、二人は俺以上の感情でここにいるはずなのだから。

 そう考え、俺はこの旅行中は積極的に二人に自身の想いを伝えることに決めた。

 言語化することで、自身の気持ちもはっきりとしてくるかもしれない。

 奇しくもそれは、俺が爆散を回避するために体の中に溢れるエロスを言語化していたことと同じと感じる。


「今回の旅行では、俺のことを好きだと言ってくれている二人とちゃんと向き合いたい。今までの距離感では、俺だっていたくない。もっと、近づきたいって思っている。けど、恋というものと向き合うって正直わからないから、まずは二人に対して思ったことを素直に出していこうかなと。爆散じゃなくて、きちんと自分の言葉で」


 本音だ。

 友情というものは少なからずこれまでの関係性でも培ってきたものになる。

 しかし、恋というものはこれまで俺が病ゆえに意識してこなかったステージだ。

 そうであるのなら、二人に対する想いを言語化することで、その意識を高めていきたい。


「そういうことだったの」


 麗奈は得心したと言わんばかりに、頷きつつ、頬を弛める。


「じゃあ、蓮がその気なら、私も本気で向き合う。本気で爆散気にせずぶつかって、蓮に私への恋を自覚させてあげる! でも、その途中で爆散で社会的孤立しちゃうならそれはそれでいいけどね。恋関係なく、私が一生傍にいてあげる」

「えー、普通に恋でいこうよ。社会的孤立しちゃって美里ちゃんだけのものになったら、私が推せなくなっちゃうじゃん。恋だけなら推しても問題ないんだから」

「え、美里ちゃん、蓮が私と恋人同士になっても推すの?」

「え、もちろん? 推しって恋関係ないし? なんなら、将来的に二人が結婚したとしても推すよ?」

「メンタル強い! 蓮! 美里ちゃんのメンタルエグい!」

「まあ、それは後から考えよ? それよりも……」


 と、美里はこちらを目を細めて見てくる。

 獲物を狙うような視線に、俺の背筋に緊張が走る。


「蓮君は私たち二人に特別な感情をもってくれてるってのは、認めてくれるんだね」

「そ、そうなる、かな」

「なら、どっちへの感情が大きいの?」

「たしかに! それ、気になる!」

「え、えっと……」

「「どっちへの気持ちが大きいの?」」


 ぐいっと二人の顔が俺に近づく。

 うぐう、眩しい。

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