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夏色に溶けていく

 なんとか美里を見失うことなく後を追うことができた俺と麗奈は、美里が立ち止まると同時に叫んだ。


「美里!」

「美里ちゃん!」


 俺たちの声に一瞬肩をビクッと震わせた美里。

 また逃げてしまうかもしれない。

 けれど、俺と麗奈はこれまで紡いできた絆を信じて名前を呼ぶことしかできなかった。

 すると、美里はゆっくりとではあるが、こちらを向いてくれた。

 その目には未だ涙が溜まり、ぼたぼたと地面へ落ちていく。


「どうして……諦めてくれないの? 私なんか……私みたいな奴なんて二人の傍にいる資格……ないのに……」

「美里、俺を見てくれ!」


 俺は叫んだ。

 美里は溜め込んだ涙を無視してくんと目を見開く。


「俺は美里があの時、自分を見てほしいと言ってくれたから変われたんだ。ずっと病気に苛まれ続け、他人との関係をある種諦めていた俺を変えてくれたのは君なんだ。きっと、君と出会う前の俺なら、もっとスマートに距離を置けたと思う。お互いに痛みを感じることなく離れることのできる俺だったかもしれない。でも今は、痛みを受け入れてでも美里と繋がっていたいと思っている。君が、諦めない俺を作ったんだ。だから、俺を見てくれ!」


 今度は俺が届けるべき言葉だ。

 もし美里が何かを抱えて俺を、俺たちを見ずに悩んでいるのなら、俺たちを見て悩んでほしい。

 その上で、離れると言う選択をするならそれでもいい。

 けど、俺たちを見ることで何か変わるのなら、そうあってほしい。

 痛みがあってもいいんだ。

 俺は美里からそう教えてもらったんだ。


「ほんとにそうだよ」


 麗奈も言葉を届ける。


「美里ちゃんが来る前って私たち、割とうまくやれてたんだよ? それなのに、美里ちゃんが来てから蓮は変わっちゃうし、私も変わらざるを得なくなるしで、大変だったんだよ?」

「それは……ごめん……なさい」

「あーあ、困るなー。困っちゃうなー。私と蓮のこと、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して逃げ出すなんて美里ちゃん、そんな無責任だったっけ?」

「そんな、ことは……」


 麗奈は飛び切りに意地悪な笑みを浮かべている。

 これまでの快活さからは想像できないほどの笑み。

 美里が来るまでドライな付き合いに徹してくれていた麗奈の、見たことのない深みのある表情に俺は息を飲む。


「美里、君のおかげなんだ。君のおかげで俺たちは痛みの先で、確かな絆を感じることができたんた。俺たちは美里のことを大切に思っている。美里に傷つけられても、もう離れられないほどに、大切に思っている。もし美里が俺たちの事も傷つけてもいいくらい大切に想ってくれているなら、話してくれないか? 美里が抱えていることを。俺たちから離れたいと思っている、思ってしまう理由を」


 俺は覚悟を口にする。

 美里に、美里の心に届いて欲しい。

 そう願いながら。



 私の心は射抜かれる。

 蓮君の真っすぐな言葉に。

 麗奈ちゃんの真っすぐな瞳に。

 どこまでも自分本位な心を、射抜かれていく。

 空いた穴に流れ込んでくる二人の想い。

 私は、私の心は、言葉を生み出していく。

 二人に知ってほしくて。

 二人に醜い私を知ってほしく。

 でも、知ってほしくなくて。

 それでも知ってほしくて。

 言葉が漏れていく。

 


 こちらの言葉を受け取って美里は逡巡するように目をきつく閉じ、大きく深呼吸をする。

 美里は両手の甲で涙を拭う。

「私……ね、私……」

 一拍。

「蓮くんが爆散するって、困るってわかってたのに、わざとお姉ちゃんを真似して近づいたの」

 美里はぎゅりっと両の腕を強く抱え込む。

 語ってくれたのは美里の過去。

 そして、そこから繋がる今。

 彼女の告白は夏色に溶けていく。

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