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ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ……

 数日後の昼休み。

 俺と麗奈は美里が教室から消えたことを確認し、足音を忍ばせて後を追った。

 美里は亜音速、とまではいかないにしてもなかなかの速さで校内を駆けていく。

 俺たちは引き離されないよう必死に食らいつく。

 美里はそのままの足で特別教室のある棟に入り、使用されていない教室へと入っていった。

 なるほど。

 最近、昼休みはここで過ごしているのか。

 そっとドアの隙間から覗くと、美里は窓際の席に座り、ぼんやりと空を見上げている。


「やっほー」


 そして、麗奈はそのまま教室に突入し、ドカッと美里の横に座った。


「美里ちゃん! 今日はここでご飯食べちゃう?」


 隣に座りつつ、ぎゅっと美里に肩を寄せる麗奈。


「よし、ここで食べちゃうか」


 俺は二人の前に座り、弁当箱を机に置いた。

 俺と麗奈の作戦はシンプルだ。

 麗奈に七瀬先生から得た情報を共有すると『おそらくだけど、蓮に好きになってほしくて転校前に自分を変えたんだと思う。それを七瀬先生を通して知られることが怖ったのかも。私だって蓮に好きになってほしくて自分を変えたけど、やっぱり蓮に見てもらうまでは怖かったもん。違う自分を見られるってことは、否応なしに蓮の反応とセットだしね。もちろん、蓮がそんな奴じゃないことは私も美里ちゃんもわかってる。でも、それくらい恋する心は繊細なの』と考察してくれた。

 その時、俺はふと美里の言葉を思い出した。


―――女の子が変わりたいって思うのは、大切な人のためであることが多いの


 以前、美里はそう言っていた。

 もしかしたら、あの時美里は自分にも言い聞かせていたのかもしれない。

 そうであるのなら、俺は美里が変わったという事実を受け止めたい。 

 そう思えた。

 これらを踏まえて、俺と麗奈は、美里が何を話してもあえてこれまで通りに接しようとなった。

 美里がどんな美里でも、俺たちは態度変えないから安心してほしいという意思表示だ。

 これを根気強く続ければ、美里も前のように戻ってくれるのではないか。

 そう考えた。

 ややパワープレイ感は否めない、かつ、麗奈が『私が蓮を諦めそうになった時、散々煽り散らしてくれたんだから、ある程度の攻めは許されるよね』と暗黒微笑を浮かべていたことは気がかりではあるが。

 いや、考察時の優しさどこいった。


「ポ、ポインセチアですか⁉」


 美里は突然の強襲に戸惑う。

 しかし、俺たちはひるまず続ける。


「そうそう、今日のお弁当は唐揚げ入ってるんだよね? 美里ちゃんはコンビニのおにぎり? 栄養偏っちゃうからちゃんと食べないと。私の唐揚げあげるね」

「ポインセチアですか⁉」

「あ、じゃあ、俺も美里に何かあげるよ。美里、何がいい?」

「ポインセチアですかポインセチアですかポインセチアですか⁉」

「そっかそっか、美里は卵焼きほしいのか。じゃあ、ついでにこのミニトマトもあげよう」

「ポイン! セチア! ですか!」


 美里は何とか切り抜けようとポインセチアですかを繰り返すが、俺たちは意に介さず会話を続ける。


「美里ちゃんは夏休み何するの?」

「いや、夏休みの前に期末だな」

「あー、蓮、現実的過ぎること言わないでよ!」

「ポイン……セチアですか?」

「美里は海行きたいのか。爆散を考えるとリスキーだが、三人でなら楽しいかもな」

「それだね! 私も部活忙しいだろうけど、行きたい!」

「ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ……」


 俺と美里の言葉に挟まれて、美里が小刻みに体を揺らし出す。


「インセチアですかあああああああああああああああああああああああああ!」


 そう叫ぶと同時に、美里は席を立ち教室を出て行ってしまった。

 俺と麗奈は美里の去った教室内で深く頷き合う。

 やはり、美里は完全に俺たちを拒否することができていない。

 いや、拒否する意思が強くはない。

 ということは、少なからず、こちらとの関りを切りたくないと思っているということ。

 本当に切れてもいいのなら、無視すればいいだけの話なのだから。

 というわけで、俺たちはとことん美里とコミュニケーション(・・・・・・・・・)をとることにした。

 学校の登下校時。

 休み時間。

 昼休み。

 授業時間でも、隙あれば美里に小声で話しかけた。

 ちなみに、授業は七瀬先生の時のみにしている。

 先生にも事前にこういう作戦でいきますと伝えている。

 クラスメイトの危機だ。

 七瀬先生も先生という立場から了解してくれた。

 こうして俺と麗奈は、時間、場所を問わず、美里といられることのできるときは常に美里といて、美里のポインセチアですかを受けながら、会話(?)を紡いでいった。

 俺たちは、美里を諦めたくない。



 週末。

 土曜日。

 私はベッドの上で背中を丸め、膝に浅く唇を当てる。

 私は戸惑っていた。

 二人の怒涛の勢いに。

 てっきり、変なキャラというか、態度を演じれば自然と二人が離れて行ってくれると思っていた。

 けれど、二人は戸惑いながらも離れてはくれなかった。

 むしろ、離れないように、距離を詰めてきている。

 こちらの意味不明な返しにも動じず、会話をしてくれている。

 もう何日も。

 周囲からは奇異の目で見られているし、蓮君や麗奈ちゃんの人望はすごいとは言え、さすがにおかしいと思い始めている人も多い。

 それにも関わらず、蓮君も麗奈ちゃんも、私と向き合おうとしてくれている。

 それが私は嬉しかった。

 けど、同時に苦しくなった。

 二人がまっすぐにこちらを向いてくれていることがわかればわかるほど、私の心には大きな影が落ちていった。

 私なんかに構わないでほしい。

 私なんかに手を差し伸べないでほしい。

 私なんか相手にしてほしくない。

 だって私は、蓮君に|酷いことをしたのだから《・・・・・・・・・・・》。

 自分可愛さに、嫌われても仕方のないことをしたのだから。

 自分勝手なことをしたのだから。

 それなのに、嫌われる勇気がなくて、バレるのが怖くて、距離だけを取ろうとしている私になんか手を差し伸べないでほしい。

 離れてほしいのに、嫌われたくない。

 大きな矛盾を孕んだ私の心は、静かに、静かに落ちていく。

 自分だけが可愛い卑怯で矮小な私。

 どんどんどんどんと溜まっていく膿は、私の心を苛んでいく。

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