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諦めない

「ちょっと質問変えるね。蓮君には美里ちゃん、どう映ってる?」

「そう、ですね。表裏がなくて、明朗快活という感じですかね」


 出会った日から、美里はずっとまっすぐだった。

 俺に想いを伝え、麗奈にも想いを伝え、そして何より、俺たちを慮ってくれる。

 そんな存在だ。

 まあその、麗奈とバチバチな時は緊張するけども。

 でも、今では大切な友人。

 そう思える。


「実はそのイメージが私とは違うの」

「どういうことですか?」


 俺は先生の意図するところがわからずに首を傾げる。


「私が知ってる美里ちゃんはね、どちらかと言えば引っ込み思案で、見た目も今とは違って大人しい感じだったの。だからこそ、私、美里ちゃんが他県で一人暮らしを始めたって聞いて驚いたし、心配で一度見に来たの。そしたら、そこには私の知らない妹がいた」


 先生は微かに目じりを下げる。


「年が離れているからかもだけど、私は美里ちゃんがとっても可愛くてずっと大切に想ってきた。だからこそ、私の見たことのない美里ちゃんの溌剌とした笑顔に嬉しくなりつつも、少し寂しくなっちゃったの。だから、思い切って私も傍でその笑顔見たいなって思ってこの学校に来た。歓迎してくれるかな、喜んでくれるかもって思って。でも……」


 拒絶されちゃった、と先生は小さく呟いた。


「美里ちゃん、明らかに私が来たことに動揺してたし、それに私が来てからなんだか様子もおかしいしで……。もう私どうしたらいいのか」


 先生の言葉は弱弱しく落ちていく。


―――なんでお姉ちゃん来るの!

 

 俺の脳裏を過ぎったのは美里の言葉。

 美里は先生が来ることを望んでいなかったように聞こえた。

 先生の話を聞く限りだと、先生は美里のことを大切に思っているようだし、仲が悪かったようには聞こえない。

 となると、先生にはわからない美里の事情があって、先生と距離を取っているのかもしれない。

 その一方で、俺はふと浮かんだ疑問を先生に投げる。


「でも、先生は生徒の悩みや相談事に親身になって乗っていますよね? 美里にも同じようにすればいいんじゃないかと思うんですが?」


 俺の提案に小さく先生は首を振る。


「それは先生と生徒の関係だからできるんだよ。先生だから、生徒を客観的に見て、必要なものを届けることができる。生徒だって、先生だからそれを受け取ることができる。でも、肉親は違う。蓮君も親から正論を言われたらイラっとすることない? それは姉妹でも同じ。特に、私が来てから美里ちゃんが変になってしまったのなら、なおさら聞けなくて……」

「そう、だったんですね」


 先生と生徒。姉と妹。その境界線の違いと曖昧さはきっと先生にしかわからない。

 だからこそ、先生然としている人が、こうも弱っているのを見過ごすわけにはいかない。

 それに、俺だって美里の本心を知りたい。


「わかりました。俺も美里のことは心配だったので、何とかやってみます」

「本当に⁉ ありがとう、蓮君!」


 先生は花も霞むほどの笑顔を見せる。

 俺はそこに自然と美里を重ねた。

 美里が見せてくれていた笑顔を。

 見せてくれなくなった笑顔を。

 痛いほどに、重ねた。

 瞬間、理解した。

 俺は自分が思っている以上に、今をすごく大切に思っているんだと。

 先生への想いは確かに大切な思い出だし、おそらく、当時は恋に近い感情を抱いていたのかもしれない。

 爆散する病の端緒にもなった人だったがゆえに、その存在は俺の中で大きいものだった。

 けれど、こうして再会し接していく中で、先生はどこまでも先生で、そして、新しく出会った美里は美里なんだと実感する。

 恋かどうかはわからない。

 でも今、俺は美里と麗奈への想いを募らせている。

 そう、素直に感じることができた。


「先生、ありがとうございます」


 深々と頭を下げる。


「お礼を言うのはこっち。美里のことよろしくお願いします」


 先生も頭を下げる。

 しばらく、二人で頭を下げあった後、なんだかその状況がおかしくなって顔を上げて笑い合った。

 去り際、「あ、蓮君、爆散してたんだね。ごめんね。今着せるから」といつもの亜音速ではなく、丁寧に着せてくれた。

 その優しさが心にしみた。


 先生が去った教室で俺は美里の事を考える。

 何とかやってみます、とは言ったものの俺だってコミュニケーションをとれていない。

 俺たちとコミュニケーションをとらないということは、美里の中でとりたくない理由があるからだろう。

 そんな美里に対して無理に行くべきかどうか、正直、悩む。

 だが、と俺は後ろ向きな考えを振り払う。

 俺は美里を、美里との繋がりを諦めたくない。

 もしこのまま切れてしまえば、きっと俺は後悔する。

 諦めたくない。

 俺は強く想う。

 美里と麗奈と過ごした日々を思えば、ここで諦めると言う選択肢はない。

 俺の美里に対する想いはその程度じゃない。

 美里がしてくれたように、今度は俺が、俺たちが気持ちを届ける番だ。

 美里が何に悩む、七瀬先生を拒絶し、

 俺はスマホを取り出し、麗奈に連絡を取った。

 美里を諦めないための行動スタートだ。

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