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ポインセチアですか?

 七瀬先生が来てから二週間ほど経ち、徐々にクラス全体の七瀬先生ムーブが落ち着いて来た。

 ただ、それは彼女の人気の陰りを意味しているわけでもなく、依然として先生の周りには生徒が集まっている。

 テンションが落ち着いて来たという感じに近い。

 ちなみに、俺は落ち着き始めたクラスの隅で静かに爆散をする。

 そして、亜音速で先生が俺をフォローアップする。

 そんな光景が当たり前になりつつあった。

 そして、俺は俺で一つの確信へと近づきつつあった。


―――七瀬先生に対して爆散し続けている

 

 俺は最初、七瀬先生に再会したことで爆散しなくなる、つまり、恋というものを自覚する可能性もあると考えていた。

 けれど、再会してから二週間、その気配は全くない。

 むしろ、先生の矯正下着に包まれたボディを想像して爆散している。

 人として! 

 人として駄目だ! 

 でも止められない! 

 だって、ファースト性癖だったから。

 あれが原初体験過ぎたから!

 そんな言い訳をしながら、俺は爆散に抗えないでいた。

 しかし、その一方で先生に抱いたものが恋ではない可能性が高まってきた。

 実際、俺は先生を見てエロスを覚えたり、先生としての頼もしさや安心や安堵、懐かしさを感じたりすることはある。

 でも、それ以上ではないのだ。

 ただ、恋をすれば爆散しなくなるというのをまだ二人に伝えられていないがゆえに、先生で爆散してしまう俺に対する麗奈の視線は冷たい。

 そう、麗奈は。

 俺は隣に座る美里に顔を向けた。

 そこには、これまでの明朗さがどこかへと消えてしまった美里がいた。

 休み時間になると机に顔を伏せ、放課後になるといつの間にか教室からいなくなっている。

 ここ最近は特に、まるで存在感を消すように美里は行動をしている。

 もちろん、俺と美里も気にかけて声をかけるのだが……。


「美里ちゃん、今日は一緒に帰ろう? 部活休みなんだ」


 麗奈が机の前に行き、美里に提案をする。

 先に約束を取り付けてしまう。そういう作戦のようだ。

 すると、美里はぐりんと顔だけを上げる。


「ポインセチアですか?」

「美里ちゃん?」

「それは、ポインセチアですか?」

「蓮! やっぱり美里ちゃんおかしいよ! ここ数日、ずっとこんなんだよ!」

 

 そう、美里は徐々に存在感を消すだけでなく、コミュニケーションがまったくといっていい程取れなくなってしまったのだ。

 何かを語り掛ければ、脈絡のない言葉が返って来る。

 ポインセチアですかって何? 

 せめてヒントをくれ! 

 美里、君がそうなってしまったヒントがほしいんだ!


「ネクストコナンズヒント?」


 俺の心を読んだかのように、美里はこちらに顔をぐりんと向け、言葉をくれた。

 美里!


「ポインセチアですか?」


 脈絡!


「美里!」

「美里ちゃん!」


 俺と麗奈は叫んだ。

 もはや、どうしていいのかわからずじまいだ。

 一体全体どうしてこんなことに……。

 そんな俺たちをしり目に、美里は再び顔を伏せてしまった。



 放課後。

 結局、美里は気が付けば教室から姿を消していた。

 ホームルームが終わった瞬間に、俺は隣を見たが既にいなかった。

 どうなっている。

 姉妹揃って亜音速を出せるのか?

 麗奈は結局部活だったらしく、名残惜し気に部活へと向かった。

 最近まで賑やかだった俺の周り。

 緊張感がありながらも、どこかお互いに楽しさを孕んだ関係性が一気に消え去ってしまった。

 美里が来てから一気に麗奈との関係も変わって、美里はそこを繋いでくれて、それでいて俺のことを好きだと言ってくれた。

 俺はしばらく一人ぼんやりとした後、教室を後にした。

 静かさが溢れ始める世界。

 俺は廊下から差し込む、少しだけ夕焼けがかったオレンジ色に胸を締め付けられる。


「蓮君」

「え?」


 名前を呼ばれたと同時に、俺は手を掴まれ、傍にあった教室に引きずり込まれてしまった。

 既視感のある流れ。 

 そして、聞き慣れた、しかしそれでいて最近は遠く感じていた声。


「美里か?」


 嬉しさを潜ませながら、俺の手を掴んだ人を見る。

 けれど、そこにいたのは七瀬先生だった。

 俺の勘違いの先で、先生は苦笑いを浮かべている。


「ごめんね。美里ちゃんじゃなくて」

「あ、いえ。こちらこそ間違えてしまってすみません。先生と美里、声が本当に似ているので」

「それ、よく言われるよ。顔よりも声が似てるって」

「……それで先生どうしたんですか?」


 俺は本題に入る。

 先生がわざわざ人気の少ない場所、時間帯を選んで俺を教室に引き入れたのだから、何か人には知られたくないことなのだろう。

 それならば、可能な限り短い時間で済ませた方がいい。

 そう考えた。

 ちなみに、俺の服は先生と気づいた時点で消し飛んでいる。

 しかし、なぜか先生は着せてくれない。

 まあ、先生ももしかしたら今はそれどころじゃないのかもしれない。

 そう信じ、とりあえず俺は全裸のまま先生との話を進める。


「実は、蓮君に相談したいことがあって」


 先生はポリポリと頬を掻いた。

 その様子は、教室で見せている頼もしさを纏った姿とは大きく異なって見えた。


「美里ちゃんのことなんだけど、蓮君は何か聞いていないかな?」


 先生は美里の今現在の不思議な言動について聞きたいのだろう。


「いえ、俺も麗奈もつい最近まで特に問題なく美里と接していたので、急にああなってしまってどうしたらいいのか」

「そうだよねぇ……そうだよねぇ……」


 先生は眉間に寄った皺をほぐすように、人差し指と親指でぐりぐりする。

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