最低だ
自分の住むアパートに着いた後、私はここまで抑えてきた心臓の鼓動を開放する。
一気に全身に血が流れ始め、ドクンドクンと耳の中がうるさくなる。
そのままベッドに倒れ込み、私は息を細かく吐き出していく。
体は小さく小さくダンゴムシのように丸まっていく。
ぎゅり、と肺が押しつぶされていく。
「ふっふっふっふっふっ……」
押し出された息が部屋に散っていく。
その息に、私の不純さが混じっていそうで思わず顔をしかめる。
麗奈ちゃんの純たる蓮君の想いに、私の心は酷くひりついていた。
彼女のあまりにも美しい涙に、繊細な心に、私の心はどうしようもなく自身の情けなさを蔑み始める。
わかってはいた。
麗奈ちゃんの想いと私の想いが違うことは。
それでも、蓮君の傍にいることで、私は麗奈ちゃんと対等になったつもりでいた。
そんなわけはないのに。
だからこそ、麗奈ちゃんが蓮君のことを諦めるって言った時、正直、嬉しかった。
だって、蓮君が私のものになるかもしれないって思ったから。
どこかで勝てないと思っていた麗奈ちゃんがあきらめるのなら、と考えてしまった。
でも、それと同じくらい諦めてほしくないと、私の心は叫んでしまった。
そんな相反する感情がせめぎ合った結果、気が付けば私の口からは麗奈ちゃんへの盛大な煽りが飛び出していた。
あんな言葉遣いと口調、人生で使ったことなんてないのに。
「嫌われてないよね? 大丈夫だよね?」
私は少しだけ目じりに溜まり始めた涙を手の甲で拭う。
せっかく仲良くなれた麗奈ちゃんと仲悪くなるのは嫌。
恋敵だけど、麗奈ちゃんの真っすぐさに私は惚れている。
でも、やったことは間違っていないと思う。
だって、麗奈ちゃんが諦めるべきじゃないから。
ずっと、自分を犠牲にして蓮君に全てを捧げてきた麗奈ちゃんが、ここで諦めるなんて絶対に間違ってる。
蓮君を傍で支えてきたのは彼女。私は傍で見て来ただけの存在。
私だって蓮君が好き。
けど私は、蓮君に好きになってもらう資格はきっとない。
絶対にない。
私の好きは純粋じゃないから。
真っすぐに蓮君を好きと言える麗奈ちゃんとは違う。
私がしたことを思えば、そんな感情抱く方が間違っている。
だって、だって私は……。
―――彼の病気のことを知っていたのだから
爆散が激しくなって申し訳ないって言ったけど、そんなこと思ってなかった。
知っていたうえで、彼が爆散するように仕向けていたのだから。
彼の服が爆散することで己を満たしていたのだから。
私は、最低だ。
最低なの。
「ふぐう……」
だけれど、せめて今はこの幸せな関係の中で笑っていたい。
いさせてほしい。
そう願いながら、私は溢れる涙を無視するように、静かに目を閉じた。




