おほほぉ……
迎えた休日。
土曜日。
俺は麗奈に指定された場所へとやってきた。
どこに行くのかと聞くと、映画だと言う。
というわけで、俺は今、映画館の前にいる。
ちなみに、家は近いけれどあえての現地集合だ。
麗奈が曰く「そうした方がデートっぽいじゃん」とのこと。
俺はてっきり人混みの中で密着しての爆散必死デートを想像していたので、正直ホッとしている。
いやまあ、どちらにせよ、今日は秘策があるのだから問題は全くない。
俺はさすりと、服を撫でる。
そして、その下にあるものに対する絶対的な安心感が俺の心を落ち着かせる。
「蓮、遅れてごめん」
がやがやとした喧騒の中で、麗奈の声がこちらに届く。
それはまるで、短距離を羽が生えたかのように駆け抜ける、彼女のような真っすぐさを持っていた。
秘策ゆえの余裕な俺は、声のした方に視線を向ける。
「んぐほぉ!」
思わず叫んだ。
こちらに手を振る麗奈は、その褐色の肌が映える白のワンピースに身を包んでいた。
まるで、そこだけスポットライトが当たっているかのような美しい存在感に、俺の全身、そして魂が震える。
制服姿の時もギャップを感じたが、これはその比ではない。
夏に近づいて来たとは言え、まだ少し春が残る気温。
ワンピースの上には淡いピンクのカーディガンを着ている。
それがまた肌とワンピースのギャップの強烈さをいい具合に緩和し、全体的なまとまりを生み出している。
胸はあえて強調されない、ラインの緩いワンピース。
それがまたエロい。
「慣れないヒール履いたから、なかなか速度でなくてさ」
俺の前へとやってきた麗奈は申し訳なさそうに苦笑いする。
「う、うん。それは仕方ないさ」
「うーん?」
こちらの動揺を察したのか、麗奈は苦笑いからしたり顔へと変わる。
これもまたギャップだ。
麗奈は俺を爆散させないように、元気溌剌といった表情を常に作っていたようで、麗奈が自身を開放してからずっとその表情はコロコロと変わる。
「もしかして、エロス感じた?」
「……」
「感じたのか? このこの」
麗奈は俺の脇腹を人差し指でつついてくる。
「ちょ、ちょやめ……。感じた。感じたから、やめて」
「正直でよろしい。今の感じだと、肌着四十枚ってとこかな?」
「ま、まあ、そうだな」
俺はやや歯切れの悪い返事をする。
「……? ま、とりあえず、中に入ろ」
俺の態度にやや違和感を覚えたようではあったが、麗奈が追及してくることはなかった。
うん、大丈夫だ。先ほどのを耐えられたのであればいける。
俺は秘策にさらに自信を深めていく。
映画館の中に入り、麗奈が予約をしてくれていたチケットを発券する。
そして、フードコーナーでポップコーンとジュースという映画鑑賞では定番なモノを買い、シアター内へと入った。
薄暗いシアター内に俺は安堵感を覚える。
昔から、落ち込んだときはよく映画を見に来ていた。
常に爆散に怯え続けた俺だが、映画館では映画だけに集中すればいいというシンプルなシステムのおかげか、爆散が気になることもなかった。
見るのは麗奈のチョイスで人気のホラー映画。
これまた助かるチョイスだ。
エッチなシーンの入り込むラブストーリーとかだったら、流石にマズかったかもしれない。
でも、たしか麗奈ってホラー苦手だったはず。
なんでだ?
「実は私、ホラー克服したんだよね」
俺の隣に座った麗奈は自信たっぷりに胸を張る。
「ほう。いつの間に」
「何事も負け続けるのは嫌なの。勝つことが重要。いつまでもホラーに負けてなんかいらんないの」
「そっかそっか」
俺は思わずにやけてしまう。
「な、何で笑うの?」
「いや、変わったようで変わっていないなって思ってな」
「何それ。私はこんなにも変わったのにさ」
「見た目はもちろん変わってるよ。でも、中身はこれまで通りの麗奈だなって思っただけだ」
「ふーん。よくわかんないけど、悪い気はしないかな」
麗奈も笑う。
俺も笑う。
社会的孤立に頭を抱えたここ数日が嘘のように、麗奈をまっすぐに見れている。
映画館という安心感もあるのかもしれない。
「でも、映画を選んだのはそれだけが理由じゃないよ?」
「んんっ!」
するりと、俺の太ももに伸びてきた麗奈の手。
そのまま、太もものラインがなぞられていく。
あまりの刺激に俺の体はビクンと跳ねる。
「映画館ってさ、上映中は暗いから、周囲が何をしてるのかわかんないよね。もちろん、それは周囲から見た私たちも同じ。何をしているのか、わかんないの。このまま映画中に爆散したら、映画終了後のライトアップとともに蓮は社会的に死ぬの。逃げも隠れもできないこの密室の中で、君は社会的な終わりを迎えることができるんだよ。ふふふ。楽しみだね」
「おほぉ……」
想像以上の策士・麗奈さんに俺の額にはじっとりと汗が滲む。
思い出と安心の映画館が乱されていくぅ。
だが、秘策がある。それに今日は万が一に備えていつも以上に服のストックを持ってきた。
ってあれ?
服の入ったバッグは?
「バッグなら私の足元に置いたよ」
見ると、麗奈の足にがっちりと俺のバッグが挟まれていた。
「さあ、ショータイムの始まりだね。あと二時間で君が私だけのものになるなんて、近未来パーティータイム過ぎ」
「おほほぉ……」




