逃げられない
その後は、なんとか麗奈の動きを読みながら不意打ち耳エロスを回避した。
腕にひっつく麗奈を引きはがすことはできなかったけれども。
よかった。
色んなスポーツやってきて。
反射神経だけは抜群だ。
麗奈は不満そうにしていたけど、さすがに人通りの多いところでの爆散はヤバい。
本当に社会的孤立に陥ってしまう。
「あ、蓮君おはよう」
学校の正門を抜けたところで、後ろから美里の声が聞こえた。
「えっと、隣にいるのは……」
美里は不思議そうな声を出しつつ、俺たちの前に回り込む。
と同時に、目を見開いた。
「え? 麗奈、ちゃん?」
「あはは。びっくりしたでしょ? 変……じゃないかな?」
「ううん。すっごく似合ってるよ。スポーティな麗奈ちゃんも素敵だったけど、今日のはまた違う魅力があって素敵!」
美里は本心からそう思っているのだろう。
いつものきらめきを瞳に乗せて、麗奈を見つめている。
「そっか! 美里ちゃんがそう言ってくれるならきっと大丈夫だね」
「えっと、それと、何だか今日は距離が近いね?」
美里は俺と麗奈を交互に見る。
その視線には大きな戸惑いが見て取れた。
それはそうだろう。
つい先日まで、親友的な関係性がはたから見てもわかるくらいだったのに、急に男女的なそれに代わっているのだ。
美里も戸惑って当然だ。
当事者である俺ですら、未だに整理できていないのだから。
しかし、そんな美里の戸惑いを、麗奈は軽やかな笑みで受け流す。
「たまには、ね」
言って、麗奈は俺の耳に口を近づけ、美里に聞こえないほど、小さな、それでいて確かに脳髄に届く声で呟く。
「だって、好きなんだもん。引っ付いていたいよ」
あああああああああああああああ耳元で好意を囁くことで、純と不純が混じり合ってめちゃくちゃエロいいいいいいいいいいいいいいいいい!
くそ!
油断した!
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ俺の衣服ぅ!
ここで全裸になったら、あっという間の社会的孤立with麗奈になってしまう!
体の中でエロスを起点とした爆散の予感が巡るのがわかった。
こんなにはっきりとした輪郭でエロスを感じるのは初めてだ。
そして、体内でエロスと葛藤が互いに巻き付くように巡り巡る暴走の末、俺の右腕へと押し寄せてくる。
「うぐっ!」
結果、麗奈の抱き着く右腕部分の制服が爆散した。
麗奈はその衝撃をものともせず、俺の腕に抱き着いたままだ。
さすが、麗奈。鍛え方が違う。
混乱しすぎて、謎なタイミングで麗奈への畏敬の念が溢れる俺。
いや、ほんとにどうしよう。
「んんん?」
美里はなにが起こったのか理解できないといった感じで目を丸くし、こちらを見つめてくる。
「あ、いや、これはだな……」
必死に言い訳を考える俺。
しかし、そんな俺の口元を、麗奈の人差し指が制する。
「ふふっ。なんだろうね。ま、なんでもいいじゃん。ほら、二人とも行こ行こ」
麗奈は含みを持たせた言い方をしながら、俺と美里の背中を押す。
そのまま、俺も美里と会話をするタイミングなく、教室に入り、そして、教室に入るとすぐに先生がホームルームのために入室をする。
いや、俺の右腕の露出具合。
そこからはまさに麗奈劇場だった。
俺を衆人環視状態の中で爆散させるべく、あの手この手でアタックしてきた。
授業中に自身のスカートから覗く太ももの映った写真を送ってきたり。
トイレに行く俺に、思い切り後ろから抱き着いてきたり。
昼ご飯の時は、席と体を俺にくっつけ「あーんして。ほら、蓮の好きな唐揚げだよ。あーん」と甘い声と態度でこちらを誘惑してきたり。
俺は麗奈の猛攻を凌ごうとするが、麗奈のあまりのエロスと、そして何より、こちらを好きという真摯な気持ちに押されてなすがままに全てを受け入れた。
結果、消えていく肌着。
隙間時間を活用して、毎度三十枚肌着を着込んでいくが、麗奈の一回の攻撃でそれら全てが消える。
足りるか?
肌着!
俺はストックを気にする。
しかし、問題はそこだけではない、
いつもと違う距離感の二人に、周囲が反応をする。
「もしかして、二人って付き合ってるのかな?」
「てか、麗奈ちゃん、ビジュ強くなりすぎてヤバい!」
「蓮君もまんざらでもなさそう」
こうなってくると、みんなの視線がいつも以上に集まることになる。
これまでは、あまり注目の集まらないところでの爆散が多かった。
しかし今は、これまでの比ではない衆人環視の中で、俺は爆散しないように耐えなければいけない。
プレッシャーがのしかかってきて、胃がキリキリとし出す。
そんな俺を見て、麗奈は嬉しそうに笑みを零す。
これまでにない、麗奈のイタズラさを過分に孕んだ瞳に、俺は思わずドキリとする。
いや、ほんとにまずいな。
そして、なんとか数百枚単位の肌着を犠牲にすることで迎えることのできた放課後。
俺は日直の役割である日誌の提出をすべく、職員室へと向かっていた。
既に麗奈は部活へと向かい、俺はようやく訪れた安息の時間を楽しむようにゆっくりと廊下を歩く。
しかし、そんな安息の中、俺は麗奈の想いへと心を向ける。
麗奈は俺のことを好きだと言ってくれた。
正直に言って、麗奈からの好意は嬉しい。
もし、俺も麗奈を好きだと言ったら、彼女からの攻撃も収まるのかもしれない。
いや、きっとそうなるだろう。
けど、嬉しいということが、好きとイコールになるのか俺にはわからない。
病を患ってから、他者というものに可能な限り深入りしないようにしていた自分に、恋というものがわかるのか、わかっているのかが不安だ。
傍にいてくれた麗奈が好きと言ってくれたから、嬉しいという感情が湧くのも当然と言えば当然な気もする。
そうであるからこそ、麗奈が長年秘めてきた好意に、こんな曖昧な気持ちで触れるのが申し訳なくもある。
じゃあ、どうすればいいのか?
つい抵抗はしたが、爆散によって社会的孤立からの麗奈のモノになるのもありなのかもしれない。
と、考えはしたものの。
「でも、それもなんだか違うような気がするんだよな……」
「れーん!」
思考を巡らせていく俺の後ろから声がかかると同時に、背中に柔らかな何かがあたる感覚を覚えた。
「麗奈おおん! 部活に行ったはずじゃ……」
聞き慣れた声と、そして新しく覚えた柔らかな感触からすぐさま麗奈だと察した俺。
しかし、そんな俺の意識よりも早く体内を駆け巡ったエロスにより、全ての服が爆散する。
今日は身構えていた分、不意打ちに完全にやられてしまった。
露わになる俺の俺たち。
「……っ!」
咄嗟に、近くにあった教室に入り、そのままドアの傍に身をかがめる。
たぶん、誰にも見られなかったはず。
そんな俺をゆるりと追って来た麗奈は、俺の前にしゃがみ込む。
奇しくも、今日の朝と同じ構図になる。
「もう、爆散するならちゃんとみんなの前でしてよー」
「いや、だからそれは無理だ。社会的に死んでしまう」
「それでいいって言ってるのに。蓮には私だけいればいいのに。それとも、蓮は私だけじゃ不満なの?」
「麗奈だけって……それは、そのだな……」
まあでも、と麗奈はこちらの答えを遮るように舌なめずりをする。
「必死に我慢している蓮も、可愛いから楽しいんだけどね」
「っ!」
俺は既に爆散する服がないというのに、まるで爆散してしまったかのような感覚に陥る。
心臓の鼓動が速くなり、全身を血という血が駆け巡り、すさまじく熱くなる。
「ふふっ。まだまだ、ここからだよ。君を私だけのものにすることに、私は何のためらいもないから、君も覚悟しててね」
「覚悟……って」
「というわけで、次の休み、デートしよ?」
俺は逃げられない。
麗奈の瞳から、逃れることができない。




