第109話「レイの実力」
ゲートから出ると、そこには想像していたよりもハードな状況が待ち構えていた。
まず目の前にはイアハートと拘束されたエリスの姿。イアハートの手には具現化した薙刀が握られており、その刃先はエリスの首筋に添えられている。恐らく、ゲートが開いたと同時に警戒を強め、その態勢に切り替えたのだろう。
それに加え、周囲にはフィフスのメンバーだと思われる人間が100人以上。この状況では下手な動きは取れない。
先ほど周囲を歩き回った際に大勢が潜んでいることは確認していたが、既にこんな状況になっているとは思わなかったな。魔道具から聞こえてくる声はエリスとイアハートの二人だけだったし、周囲にはこの二人だけか、いるとしてもエリスを拘束するための数人がいるだけだと思っていた。
「おやおや、まさかこんな登場をしてくれるとは思っていませんでしたよ。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことでしょうか。」
イアハートは嬉しそうにこちらに語り掛けてくる。顔は笑っているが、もちろん内心は真逆だ。
「貴様は誰だ。フィフスの人間か?」
「私はフィフスの副リーダー、イアハート・ユーデリアス。あなたを殺す人間です」
「随分と素直に名乗るのだな」
先日あったフィフスの人間と違い、イアハートにはこちらと対話する意思があるようだ。
「名を知られても不都合はありませんからね。どうせあなたはここで死ぬのですから」
「貴様にオレが殺せるのか?」
「状況は見ての通りです。そこから一歩でも動いたり、魔法を使おうとすればその瞬間にエリスの首をはねます。エリスの命が惜しければ、あなたは大人しく私たちに殺されるしかありません」
当然近づくことはできないし、遠距離から魔法で攻撃しようとしても発動前に瞳を光らせる必要があるため気付かれる。無属性魔法ならば瞳を光らせる必要はないが、無属性魔法にはこの距離からイアハートを攻撃できる魔法は存在しない。
つまり、普通の方法ではイアハートに攻撃が届く前にエリスが殺されてしまう。
「そいつがどうなろうとオレには関係のないことだ。その程度の脅しでオレに勝てると思っているのなら滑稽なことだな」
「そうですか。ではどうぞ動いてみてはいかがです?」
オレの発言をはったりだと思っているのか、イアハートは余裕の表情でオレを挑発する。
「やはり動けませんか。はっはは、これは傑作ですね、悪魔にも他人を慮る心があったとは。エリス、あなたも最後くらいは役に立つものだ」
しばらくしてもオレが動き出さないのを見て、イアハートがおかしそうに笑う。
「この状況でオレを悪魔だと揶揄するか。こんなやり方をする貴様のほうがよっぽどその名が似合うぞ」
「なんとでも言ってください。あなた達悪魔を葬るためならば、私はどんな卑劣な手段だってとりましょう」
「貴様らはなぜそれほどオレを、闇属性の人間を殺したがる?オレの存在が貴様らに何か悪影響を与えたか?」
「おかしなことをいいますね。あなた達のような悪魔の力が流れる外道は、生きているだけで悪影響しかないじゃないですか。あなた達が生きていることが、あなた達を殺す理由です」
イアハートは燃え盛る黒く熱い感情を、穏やかな口調と共にぶつけてくる。見たところ、イアハートはロイヤ族の人間。歳についてはいまいち分からないが、エルトシャンと近いような気がする。もしかしたら、過去に闇属性絡みで色々とあったのかもしれない。
これ以上の問答は無意味だと悟ったオレは、イアハートから視線を外して拘束されているエリスの方を見る。エリスは今何を思っているのだろうか。恐怖か、怒りか、憎悪か、絶望か。あるいはリダンが助けに来た事に希望を抱いているか。
ふと、エリスとオレの視線が重なる。とても不安そうなその視線は何かを訴えているようにみえた。
「そんな顔をするな。安心しろ、すぐに助けてやる」
オレはエリスに向けて優しく声をかける。
「エリスの心配をするなんて随分と余裕ですね」
「実際に余裕があるからな」
「もしや、これがただの脅しだとでも思っているんですか?私は本気ですよ?」
「...っ!」
イアハートがエリスの首筋にあてていた刃を少しだけ食い込ませ、傷口から光る粒子が飛び散る。エリスは痛みと恐怖からか、少し顔をゆがめた。
「そいつには手を出すな」
「はぁ...。もう少し動揺するかと思いましたが、存外冷静ですね」
イアハートは期待外れだとでも言うように大きなため息を見せる。
「もういいだろう。やるならさっさと来い」
「...そうですね、おしゃべりはここまでと致しましょう」
イアハートは瞳を金色に光らせ、こちらに向けて光の第1位魔法『シャイン』を発動する。弾の数は20個程度。これだけで、イアハートがそれなりの実力者であることが伺える。
そして、周囲を囲んでいた人間達もイアハートと同時に魔法で攻撃を仕掛けてきた。
全方位から大量の魔法がオレに向かって飛んでくる。
だが、どれ一つとしてそれがオレに被弾することはなかった。オレに向かってきた全ての魔法は、オレに届くすぐ手前で光る粒子となって消えてしまう。
「この程度か?」
「なっ...。なっ...。何故!どうなっているんです!」
「次はこちらの番だな」
「何をするつもりですっ!少しでも怪しい動きを見せればエリスの首をはねますよ!」
イアハートはエリスを盾にしながらオレに向けてそう叫ぶ。
オレはその様子を一切身動きせずに見守った。
「はっはは、やはりエリスを人質に取ってしまえば身動きはとれませんか」
理解できない現象が起きたことで一瞬焦っていたイアハートだったが、オレが反撃してこないとみると、また余裕の表情を浮かべる。
「先ほどの奇妙な現象はあなたの仕業ですか?」
「だと言ったら?」
「はぁ...。恐ろしい悪魔ですね。何をしたのかは分かりませんが、次同じことをすればその時もエリスの首をはねます。エリスの命が惜しければ、大人しく死になさい」
イアハートと周囲の人間達が再び瞳を光らせ、魔法を発動する。オレは当然身動きをとることはできない。傍から見れば、この状況は絶体絶命のピンチに見えるだろう。
だがその次の瞬間、エリスをその場に残してイアハートが大きく後ろに吹き飛んだ。
「なっ...!」
オレはすぐさま身体強化を発動し、エリスを保護する。
「無事か?」
「え...と...。うん...大...丈夫...だけど...」
「すぐに終わらせるからもう少しだけ待っていてくれ」
何が起きているのか分からないからか、エリスは助かった安堵感よりも驚きの方が勝っている様子だ。
「さて貴様ら、覚悟はできているんだろうな?オレを殺しにかかったんだ。殺されても文句はあるまい?」
オレは周囲にいる全員を威圧する。
「はぁぁぁぁ..」
すると、遠くで立ち上がったイアハートがこれまでで一番大きなため息を吐いた。
「はぁ...。これが悪魔の力ですか...。はぁ...。やはり忌々しい力ですね...。はぁ...。少しばかり甘く見ていたようです...。はぁ...」
「貴様に勝ち目はない。一瞬で潰してやろう」
「はぁ...。もう勝ったつもりですか?こちらは100人以上。対してあなたは1人なんですよ?」
「だからなんだと言うんだ?」
「1人でこの人数に勝つつもりですか?」
「当然だ。数などオレの前では何の意味もない」
「はぁ...。そうですか。ではその余裕の表情を歪ませてあげますよ」
イアハートが臨戦態勢を取り、周囲の人間もそれに続く。
(なあリダン、ちょっと聞きたいことがあるんだが)
オレはふとあることを思い、リダンに声をかける。
(なんだこんな状況で)
こんな状況というが、オレにとっては大した状況でもない。
(リダンって人を殺したことはあるか?)
(...いや、ないが)
(そうか、分かった)
リダンからの回答を聞いたオレは、周囲を見回して状況を確認する。
周囲にいる人間の内8割ほどは魔法を発動しようとしており、残りは武器を具現化して身体強化をしながら接近してきている。近距離と遠距離の連携でこちらを崩そうということだろう。一昨日接触したときもそうだったが、フィフスは連携を活かした戦い方に大分慣れているように見える。
闇属性の人間を殺すため、日々色々な訓練をしてきたのだろう。一生懸命鍛錬を行い、戦術を学んだのだろう。
だが、そんなことはなんの意味もない。絶対的な力の前ではそれらは無価値だ。
オレはマナを操作し、周囲一帯にとある魔法を発動する。
その瞬間、オレとエリス以外の人間は全員倒れこみ、発動しようとしていた魔法はすべて解除された。
まばたきすらも許さない一瞬の間に、辺りは静寂に包まれる。
これで戦いは終わりだ。リダンは戦いが楽しいと言うが、こんな作業の何が楽しいというのだろうか。
オレは少し遠くで倒れているイアハートにゆっくりと近づく。イアハートは倒れたまま顔だけをこちらに向け、かすれた声を上げた。
「...あ...く...ま...」
イアハートはそんな言葉を残し、意識を失う。気を失っただけで死んではいない。他の倒れている連中も同様だ。
オレ以外の人間はこの場所で何が起こっていたのかほとんど理解できていないだろう。
今回オレは三つの『とっておき』を使った。
一つは、先月のネルとの一件でも使った『リバースマジック』。魔法を発動するマナの動きに対して全く逆の動きを行わせることによって魔法を打ち消すことができるものだ。相手が発動した魔法に対して使うことによって魔法を消滅させることができる。前に使った時は消えたゲートを再構築するために使ったが、本来は今回のように相手の魔法を無効化するためのものだ。
二つ目は、イアハートを吹き飛ばした力、『バニティ』。これは属性を付与していない無属性のマナを弾丸にして相手にぶつけるというもので、イメージとしては『ダークネス』や『アクア』などの各属性の第1位魔法の無属性版といった感じだ。理屈だけだと簡単に聞こえるが、無属性のマナを弾丸にしてもすぐに離散してしまうため、ダークネスやアクアとは比べ物にならない技術を要求される。これの利点は、無属性のため瞳で発動がバレない点と、なにより不可視の弾丸であるため相手を奇襲しやすい点だ。今回のように全く相手に悟らせずに攻撃することができる。
そして三つ目。100人以上の相手を一瞬で葬った魔法、『ルーラルーム』。オレの持つ『とっておき』の中でも、トップレベルに強力なものだ。これは、周囲にマナで作った見えない空間を展開し、その空間内で起こる事象をコントロールすることができる魔法。当然なんでもできるわけではないが、その対応範囲はかなり広い。
今回の場合は、空間内のパーソナルマナを制限した。パーソナルマナが体内を巡らなくなれば、体は動かないし当然魔法も使えない。エリスとリダン以外のパーソナルマナを停止させれば、先ほどのような現象が起こる。
イアハートが少しの間だけ意識を保っていたのは、オレが殺さないように手を抜いたから。全てのパーソナルマナを停止させてしまうと即死してしまうため、命が助かる程度には残しておいた。
ちなみに、エリスを部屋に呼んだ時や一昨日フィフスを閉じ込めた際に使った魔法も同じものだ。この時は、一部例外を除いて空間内の物質が外に出られないようにした。空間内の物質が外に出られなければ、音や光も外には届かないし、ポータブルなどの通信手段も使えなくなる。
(レイ、貴様は...こんな力を持っていたのか)
戦いを終えたオレにリダンが声をかけてくる。
(なんだ、驚いてるのか?)
(こんなものを見せられば当然だろう。俺が勝てないと思った相手は貴様が初めてだ)
(それは光栄だな)
(...貴様を見て、俺を恐れる雑魚共の思考が少しだけ理解できた。圧倒的な力を持つ人間は...弱者からはこのように映るのだな)
(リダンは今のオレに恐怖を感じているのか?)
(少しだけだがな。だが、それでどうということはない)
(そうか)
リダンが強者への恐怖を知ることができたというのなら、多少リスクを冒して力を見せた甲斐があると言うものだ。
さて、この力を見たもう一人はどんな感情を向けてくるだろうか。
視界の先でこちらを見つめて佇む少女に近づき、オレはそれを確かめに行く。
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