第107話「フィフスとの接触」
6月11日。
エリスとの協力関係を結んだ日から二日が経った今日、オレは一人で学園の外に出た。
今はとある目的のため、アストラムの中を適当に歩いている。
エルトシャンから頼まれる仕事の関係もあるため最近は一人で街に出ることも多く、この街の風景にも見慣れてきたものだ。
ちなみに、リダンが歩いているにも関わらず街の人間にはほとんど動揺が見られない。この街の人間はリダンの顔を既に知っているはずなのに、だ。
これはつまり、リダンという存在もこの街にとっては日常の一部になっているということだろう。この街にはエルトシャンの仕事を手伝っているという噂が広まっているだろうし、それも大きいかもしれない。
しばらく街中をブラブラしていると、覚えのある痛みが体に走ってくる。四日前にエリスと共に町へ来た時に刺さった感覚。これはそれと同じものだ。
オレはその痛みの発信源に気付いていないフリをして、そのまま足を動かす。
それから数十分の間、何事もなかったかのように振る舞っていると、次第に痛みの発信源は数を増していく。頃合いだと判断したオレは、周囲を警戒している素振りを見せながら街の外に出た。
痛みの発信源たちは少し遅れてオレの後をつけてくる。もしかしたら街の外まではついてこないかもしれないと思っていたが、上手いこと乗ってくれたようだ。
オレは警戒している素振りを続けながら、アストラムが見えなくなる場所まで進む。
そして、周囲に無関係な人間がいないことを確認してからとある魔法を発動した。追いかけてきている何人かはオレが何かをしたことには気づいたようで、警戒心を強めている様子だ。
「貴様ら、オレに何か用か?」
周囲にいる相手に向けて声をかける。だが、何も返事はない。向こうからしたらこちらがカマをかけている可能性もあるため、不用意に反応しないのは当然だ。
エリスからの情報を真とするなら、向こう側はまだリダンと直接相まみえるつもりはないはずだし、ここで姿を現したくはないのだろう。
「街からつけてきているのは分かっている。さっさと出てきたらどうだ?」
オレは再度声をかけ、姿を現すように促す。だがそれでも向こうからは何も反応がない。
仕方がないので、オレは一番近くに隠れている相手に向けて闇の第1位魔法『ダークネス』を放つ。それを避けるため、流石に動かざるを得なくなった相手がようやく姿を現してくれた。体格とマナの感じからして、恐らくアニマ族の人間だ。
「...さて、もう一度問おう。オレに何か用か?」
オレは姿を現した相手に近づきながらそう話しかける。
「...」
だが、相手はこちらを警戒しながら睨むだけで反応は帰ってこない。
「何も話すつもりはない、ということか」
どうやら、こちらと対話をするつもりは一切ないらしい。
オレは再びダークネスを発動し、隠れている人間に向けてそれを放つ。それによって更に三人があぶりだされ、オレの前に現れた。今度の三人は、恐らくフィル族が二人とアニマ族が一人だ。今はあまり重要ではないが、フィフスには亜人種の人間が多いという情報と合致する。
「では今度はそちらの貴様らに聞こう。何故オレをつけてきた?」
「...」
分かってはいたが、やはり誰も口を開かない。こちらに対して不用意に情報を渡さないためだろう。
それから少しの間様子を見ていると、突然大きな音が鳴り響き、それに呼応するように遠くで隠れていた数人がオレから離れるように動き出した。
状況から察するに、今の音は撤退の合図のようだ。このまま全員が成す術もなくやられるよりも、逃げられる人員は撤退して応援を呼ぶか、本隊に戻ってこの予定外の状況を報告しようということだろう。
「ふん、そっちにいた奴らは逃げ出したか。どうやら貴様らは捨てられたようだな」
オレがそう言って逃げた奴らがいる方向に視線をやると、これまでほとんど動きを見せずに黙っていた四人がその方向への進路を塞ぐように立ちふさがり、その内の二人が武器を具現化させた。一人は刃渡りの短いナイフ、一人は片手持ちの鈍器だ。
「やる気か?」
「...」
「この人数でオレに向かってきたところで結果は見えている。貴様らは死ぬのが怖くはないのか?」
「...」
「この状況になってもだんまりか。大したものだな」
仲間からは切り捨てられ、普通に考えれば死が確定したこの状況でも目的のために冷静に行動している。フィフスという組織はかなりの統率が取れているようだ。
ただ、冷静ではあるがこいつらは感情を殺しているわけではない。むしろ、今も熱く黒い感情を燃やしているようだ。それは体に刺さるこの感覚からも間違いはない。冷静に自らの命を捨てられるほど、リダンを殺すという目的にそれほど強い思いを抱いているということだろう。その感情が自然と発生したものなのか、あるいは誰かによって意図的に作られたものなのかは分からないが、どちらにしろ素晴らしいことだ。
目の前に立ち塞がっている四人は一瞬だけ目配せをし、その内の二人、ナイフと鈍器を持った奴らが二手に分かれて挟み撃ちを狙う動きでオレに近づいてくる。それと同時に、残りの二人はそれぞれの瞳を青色と赤色に光らせて『アクア』と『ファイア』を発動しようとしている。
オレは闇の第6位魔法『グラビティ』を射程5m程度で発動し、接近してくる二人を迎え撃つ。二人はこの速さで反撃がくると思っていなかったようで、のしかかる重力に耐えられず地面にひれ伏した。
更に闇の第5位魔法『ダークバインド』を発動して残りの二人を拘束。二人は準備していた魔法で水球と火球を5発ずつ発射してきたが、オレはマナ障壁を展開してそれを防ぐ。
敵の無力化に成功したオレは、できるだけ外傷をつけないように四人を適度に弱らせてから闇の第9位魔法『ディープリズン』を発動した。この魔法は相手の意識を奪い、心地よい夢を見せるという魔法だ。
闇の第3位魔法『スリープ』と似ているが、この魔法はただ眠らせるスリープとは違い相手を攻撃するための魔法。心地よい夢と共に相手を昏睡状態にし、醒めない夢の牢獄に閉じ込めることができる。
この魔法にかかった場合、かけた本人以外が解除するのは少し難しい。『ディスイル草』という薬草を使うか、光の第9位魔法『ディスペル』や第10位魔法『エクスヒール』という魔法を使う必要がある。
大昔にはこの魔法を使った大事件があったと言う記録があるくらい凶悪な魔法だ。
とは言え、無条件に相手の意識を奪えるわけではなく、事前に相手を弱らせて抵抗力を奪っておく必要があるため万能ではない。
敵の意識を奪ったオレはダークバインドを使って四人の体を持ち上げ、逃げた奴らがいる方向へと向かう。
程なくして、何もない場所に攻撃を繰り返す三人の人間を視界にとらえ、オレは声をかけた。
「オレから逃げられると思ったか?」
オレが声をかけると三人はこちらを振り返る。その視線はオレがダークバインドで持ち上げている四人の方を一瞬だけとらえたが、すぐにオレの方に戻った。
オレは持ち上げていた四人を三人の近くにそっと置いて口を開く。
「殺してはいない」
「...」
「既に気付いていると思うが、貴様らはそこから先に進むことはできない」
「...」
今、三人の目の前には見えない壁が発生している。その壁はこの周囲をぐるりと囲うように作られており、三人はこの囲われた空間から外に出ることはできない。持っているかは分からないが、ポータブルのような通信手段を持っていたとしても使えないし、声すらもこの壁から外には届かない。
これはもちろん、オレが発動した魔法の効果だ。エリスを部屋に呼んだ時に使ったものと同じ魔法で、こいつらを閉じ込めた。
「貴様らはフィフスの人間だな?」
「...」
「隠しても無駄だ。オレはエリス・ミューラーから貴様らの事を聞いている。あいつは貴様らを裏切りオレについた」
「...」
エリスの裏切りを伝えてみても反応はない。折角ならば何か情報を得られないかと思って色々と揺さぶってみたが、やはり無駄なようだ。ならば、さっさと目的を果たしてしまおう。
オレは先ほどのように三人を無力化し、ディープリズンを使って相手の意識を奪う。そして、先に倒した四人と合わせて七人を一ヵ所にまとめ、マナの操作を行う。
今から行うのは記憶の改ざんだ。この七人の直近一時間程度の記憶をオレに都合の良いものにすり替える。
以前に裏切り者への対処法としてこの方法を考えた時は複雑な処理が必要だったため断念したが、今回のように直近の記憶をいじる程度はオレにかかれば簡単だ。
まずは直近の記憶をきれいさっぱり消し去り、新しい記憶を刷り込むためにオレはマナを操作しながら七人に語り掛ける。
「貴様らはリダン・ブラックヘローを追いかけてアストラムを出て、リダンとエリスが密会している現場を目撃。そして貴様らは二人の話を聞き、貴様らが四日後にリダンを襲撃しようとしている地点に罠を張る計画があること、明後日リダンとエリスが二人でその場所に現れることを知った」
これで、この七人の記憶ではリダンとエリスがこの場所で密会していたことになる。今日はエリスは学園から出ないらしいから、奴らが街でエリスを見かけて矛盾に気付くことはないだろう。エリスに持たせている魔道具も学園内を示している。
「エリスとリダンは相当に親しい関係だ。四日後に襲撃する計画は変更し、二人が二日後に罠を張りに来た際にエリスを人質にとってリダンを殺すのが良いだろう。エリスを人質に取ってしまえばリダンは何もできない」
そして、こいつらがオレの計画通りに動くように刷り込んでおく。
更にオレは闇の第8位魔法『エモスパンド』を発動する。エモスパンドは人間が元々持っている考えや感情を少しだけ増幅させることができる魔法だ。これによって、この七人がリダンやエリスに抱いている感情を少し増幅しておく。目覚めた時にはリダンとエリスに関する記憶がより鮮明に残ることだろう。
これで今日の目的は果たした。後はこいつらを目覚めさせ、記憶に違和感が出ない様に適当な場所においておけばいい。
こいつらがフィフスでどんな立ち位置にいるのかは分からないが、今刷り込んだ情報は組織全体に共有されるはずだ。明後日、エリスと襲撃地点に行けば必ずこいつらも姿を現してくれるだろう。
*
その日の夜、明後日に向けて細かい準備を進めているとポータブルが光り出した。相手を確認してから応答する。
「オレだ。変わりはないか?」
『大丈夫だよ』
通話の相手はエリスだ。協力関係を結んだとき、計画の日まで毎晩連絡するように言ってある。昨日もこの時だけ所有権を譲ってもらった。
「油断はするなよ。行動を不審に思われれば貴様の裏切りを勘付かれる可能性もある。それと、奴らに何かされそうになったら迷わずオレを呼べ。すぐに助けに行く」
「うん、分かってる」
「ならばいい。では、明日もまた連絡をくれ。ではな」
それだけ話し、エリスとの通話を終了する。
二日後、フィフスとエリスがどのような選択をするのか、しっかりと見せてもらおう。
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