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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第5章「協力者編」
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第106話「レイの行動原理」

(おいレイ)


 エリスと別れた後、リダンが少し気が立った様子で声をかけてきた。

 なんとなくその原因は想像できるため、先回りして聞いてみる。


(どうしたんだリダン。もしかして、エリスと協力することが気に食わないのか?)


(そうではない。あの女と手を組む価値があることは理解している)


 オレの予想と反して、リダンはエリスと組むことに納得しているようだ。

 リダンはエリスの事を相当嫌っていたようだったが、手を組むメリットがその気持ちを上回ったということだろうか。それとも、エリスの話を聞いて心象に変化でもあったのか。どちらにしても、今までエリスが関わるだけで機嫌が悪くなっていたことを思えば意外なことだ。


(そうなのか。じゃあなんでそんなに気が立っているんだ?もしかして何か怒らせることをしたか?)


(別に憤っているわけではない。ただ、一つ聞いておきたいことがある。...貴様は何故こんな手荒な真似をした?)


(何の事だ?)


(とぼけているのか?あの女を脅して追い詰める真似をしたことだ。手を出すつもりはなかったようだが、一歩間違えれば面倒なことになっていた。貴様ならばそのくらいのことは分かっているだろう)


(ああ、そういうことか。まあエリスの出方次第では明日から新しい悪評が立っていたかもな。余計な波風を立てることになっていたかもしれない)


(それを理解していながらなぜこんなことをする。貴様らしくもない)


 確かにリダンの言う通り、今回はオレがこれまでやってきた方針とは異なる方向性に舵を切っている。学園に入学してからこれまでは、なるべく周囲との間に亀裂が生まれないように行動し、荒波を立てるやり方はしてこなかった。

 だがこの数ヵ月ほどがそうだったというだけで、オレ自身がそういう人間かといえば全く違う。むしろ、今回の行動を自己分析するのなら、オレは間違いなくオレらしい行動だと思っている。

 オレの行動原理は全て、自分自身にとって損か得かという合理性に基づくものだ。そこにそれ以外のものが介入することはない。...いや、オレの人格ではそもそも介入できないといったほうが正しい。

 だからオレが得だと判断すればいつものように慎重なやり方もするし、今回のように大胆なやり方もとる。

 当然、良いとか悪いとかそういう事も全く関係ない。自らにとって得であるならば、情に厚い心優しい人間にだってなるし、人を貶める非情な人間にだってなる。

 今回だって、エリスの出方によっては穏便なやり方を取った可能性も、逆にもっと手荒なやり方取っていた可能性もある。


(オレにも色々と考えがあるんだ。...というか、そういうリダンの方こそ外聞を気にするなんてらしくないじゃないか。少し前までのリダンは、他人にどう思われても関係ないってスタンスだったはずだろ?)


(...。...別にそんなことを気にしているわけではない。ただ俺は無駄に敵を増やしたくないだけだ)


(今一瞬間があったな。何か思うところでもあったか?)


(うるさい黙れ。とにかく今後は勝手にこういう真似はするな。いいな)


 学園に来てからの数ヵ月で、リダンは間違いなく変わってきている。もちろんその心境だって変化しているだろう。

 自分を信頼してくれているナディアやイヴ、それから一応アースとラース。リダンの周りに集まり始めた彼ら彼女らが離れていくことを恐れているのかもしれない。もしそうなのだとしたら、とても良い傾向だ。

 とは言え、今後の展開を考えるとここでリダンの要求を呑むわけにはいかないな。


(悪いけど、それは約束できない。オレにはオレの考えがあるんだ)


(ならばその考えとやらを話せ)


(それもできないな)


(何故だ。俺に話すと不都合でもあるのか?)


(それも話すつもりはない)


 珍しくリダンがしつこく食いついてくるが、オレはそれを全て受け流す。

 リダンに何も話さないのは、リダンに話すと不都合があるというよりただ単に話すメリットがないからだ。


(...。...どうやら俺が何を言っても無駄なようだな)


(そういうことだ)


(...)


 オレが何も話すつもりはないと悟ったリダンがようやく黙った。...かと思ったが、少ししてまたリダンが声をかけてくる。


(...ではこれだけ確認させろ。...貴様はいつも俺の迷惑になること、不利益になることはしないと言っているな。今もそのスタンスは変わっていないと考えていいのか?)


(...?...ああ、そのつもりだが)


 リダンからの質問の意図は分からないが、とりあえず聞かれたことを素直に答える。


(そうか、ならばもう何も言わん。貴様の好きにしろ)


(...いいのか?)


 リダンから出てきた意外な言葉に、オレは思わず少しだけ言葉に詰まった。


(これ以上言ったところでどうせ意味はないだろう。...それと、これまでのことを評価して今は貴様のその言葉だけは信用してやることにした。不本意ではあるがな)


 あのリダンが、一部分とは言えオレのことを信用すると言った。正直なところ、予想外過ぎて少しばかり混乱している。

 先日のネルの一件もあったし、てっきりリダンはオレに不信感を募らせているだろうと考えていた。だが今の言葉を素直に受け取るならば、むしろその逆らしい。

 一瞬何か企んでいるのかとも考えたが、リダンがこういう場面で嘘や駆け引きをするタイプとは思えない。

 まあリダンの真意は分からないが、今は都合の良い要素が一つ増えたと思っておこう。


(そうか。ならその信用を裏切らないようにしないとな)


(当然だ。分かっていると思うが、俺が不利益を被るようなことがあればただではおかんぞ)


(ああ。肝に銘じておく)


 少しずつ、だが確かに変わっていくリダン。

 そんなリダンを見て、オレは思い描く未来と自らの現状について疑問を持ち始めていた。

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