09
「もう新しい年かあ」
「私達ももう三年生になるってことだね」
日付が変わっても二人でダラダラしていた。
今日はもう寝るつもりがないので既にハイになってしまっているのかもしれない。
普段はお菓子を食べない私でも今回ばかりは彼女に合わせて食べて、それからしゅわしゅわで内側を苛めていた。
「三年生になるとかどうでもいいんだよ、その前のイベントが大事なんですよ」
「その前のイベントとなると――あ、バレンタインデーか」
「わざと言っているでしょ、咲のお誕生日があるでしょ」
ああ、そういえば年内に「早く一月になってほしい」とかなんとか言っていたか。
「んーだけどさ、なんで本人よりもふみが楽しみにしているの?」
「いやそれは咲がおかしいだけだから」
本番まで時間があればみんなこんな感じだと思うけどね。
あと、休日ではないからお昼に彼女が動けるようなことはない。
いつものように学校にいって、放課後になったら帰って両親作のご飯を食べるだけだ。
そのときばかりは母がこちらを優先してくれるからそのことは嬉しいかも。
「平日だけどそんなのは関係ないからね」
「と言うことは夜もいてくれるんだね、嬉しいよ」
「へ?」
「え、違うの? じゃあ、なにをするつもりだったの?」
昼も無理、夜も無理となれば放課後にちょろっと話すだけ? って、普通はそんなものか。
友達が誕生日だからとふみが頑張りすぎる必要は全くない。
普通は「おめでとう」と言葉だけか、それプラス贈り物を渡して終わりだろう。
「夜までいていいの?」
「え、あ、逆に夜は一緒にいたくないなんて言うと考えていたの?」
「だ、だってほら、ご両親とさ」
「んー結局その日だって変わらずにお店で働かなければいけないわけだからね」
母だってご飯作りに集中していたらそう会話ばかりに意識を向けているわけにもいかないし、それだとなんか寂しいから相手をしてくれるということならありがたいけど。
「だからふみが来てくれるなら嬉しいよ?」
「……そんなことを言われたら期待しちゃうよ」
「す、すれば?」
当日になって「やっぱりなし」なんて言わないよ。
私的には十分だけど美味しいご飯を作ってくれてそれを食べたら終わり、だからね。
少し変わったものの、クリスマスのときとそう変わらない。
ご飯の内容が豪華になるだけでほとんど他の日と同じなのだ。
「なんかふみっていちいち大袈裟だよね」
「はは、そう言ってあげないの」
「普通に参加したいって言えば咲なら『いいよ』で終わっていたのに」
たまに断られる前提で動いているところがあるから謎なのは分かる。
「い、言っておくけどね、夜までいるとなったら帰らないからね?」
「いやうん、いまだってこうして真夜中に一緒にいるんだから普通じゃない?」
寒い中、家まで送りたくないしね。
それにこれもクリスマスのときと同じで、そこまで一緒にいられるとなったら私が別れたくないだろう。
なので、帰ろうとしていても必死になって止めているはずだ。
ただ、それでもそこでだけは素直になれなくて「咲は馬鹿だね」と言われているところも想像できなくはない。
「なんか咲のせいでお腹が減ってきちゃった」
「なんでそうなるのか……夜にあれだけお蕎麦だって食べていたというのに」
「い、いまからコンビニにいってなにか買って食べない?」
「んー下にはないからなあ」
作る気もないからあり……かも?
「よし、年内最後ぐらいいいでしょ、いこう」
「いいねっ」
二人でこそこそーっと一階まで移動して、
「いまからどこかにいく気か? それなら俺も付いていくぞ」
静かにした意味がないぐらいの結果になった。
「お母さんにも付き合ってもらえばよかったのに」
「いつも母さんには頑張ってもらっていたから三日まではゆっくり休んでほしかったんだよ」
「お父さんが誘えばちゃんと付き合ってくれたよ」
なんなら母の方から誘わなかったことが意外だ。
お店の中でもそうだけどお客さんがいない家の中で二人でゆっくりできた方がいいに決まっている。
寝室でいつまでも仲良くされると怪しい雰囲気になってしまうかもしれないからリビングでやってくれた方がよかった。
「でもなあ――あ、悪いなふみちゃん」
「いえっ、気にしないでください!」
この二人はあんまり一緒にいないものの、お互いに緊張するような感じではない。
なんなら「一時間ぐらい話していて」と言われても二人なら問題なくできてしまうぐらい。
「つか、これなら買いたい物を聞いて俺だけでいくべきだったか、大人が子どもをこんな時間に連れ歩いているってやばくないか?」
「気になるならお父さんは外で待ってくれていればいいよ」
「いやそういうわけにもいかないだろ」
まあ、こうして一緒に出てきている時点でこうなることは確定していたか。
父が色々と負けてしまう前にコンビニでの用をささっと済ませた。
「あ、あのさ」
「うん」
「俺も一緒に……いいか?」
「大丈夫ですよっ、一緒に盛り上がりましょう!」
別にいいけど本当に母を誘えばよかったのに。
ふみが陽キャラさんではなかったらここでは断られて一人寂しく飲むことになったのだから尚更そうとしか言えなかった。
「うわっ」
あ……寝てしまっていたか。
眠たい目を擦りつつ体を起こすと「もしかしてみんなここでなにかしていたの?」と聞かれたから頷いておいた。
「えっ、酷いよ咲!」
「私はお父さんにお母さんを誘った方がいいって言ったんだけどね」
「そっか……だって咲とふみちゃんは元々二人で楽しむつもりだったんだもんね。それを私に隠したうえに邪魔をしたのがお父さんと……」
うわこわあ……。
怖いから今回ばかりはふみを起こしてここから逃げることにした。
ついでにあずさも内から出てきてもらって巻き込まれないように距離を作る。
「怖すぎて挨拶をするのを忘れちゃったよ」
「後ですれば大丈夫だよ。結局、逃げ続けているわけにはいかないんだからね」
「そ、それをいつでも内側に隠れられるあずさに言われると複雑だけど」
「でも、特定の人だけにしか見てもらうことができないよりはよくない?」
うぐ、これは彼女が正しい、これだと無自覚に傷つけてしまったことになる。
「た、確かに……ごめん」
「いや謝らなくていいけどさ。それより、ふらふらしているふみをしゃきっとさせないと」
「ああ、それならこのおにぎりをこうしてー」
「……すんすん――おにぎり!」
ふふ、ちょろいぜ。
コンビニで複数個買っておいてよかった。
「あ、あれ? なんで廊下にいるの?」
「ふみ、いまリビングには戻らない方がいいよ」
もっとも、物理攻撃を仕掛ける人ではないからおかずが消えるとかその程度だ。
それでも、父だって食べることが好きだからノーダメージとはいかないだろうな。
「ごめんね、もう入ってきていいよ」
「うん」
ちらりと確認をしてみるとうつ伏せで寝転がっている父が……。
大きい声が聞こえてきたというわけでもなし、大きな音が聞こえてきたというわけでもなし、結局はなにもせずに見ていただけなのだろうか。
「咲、お雑煮でも作って食べようか」
「私も食べたいです!」
「ふふ、ふみちゃんは朝から元気だね」
真夜中から答えようとする前に元気なふみに動かれてしまう繰り返しだ。
とはいえ、意地でも作りたがる母が誘ってくれているので元旦からいい気分になれた。
これが続けばいいけど……三が日が終わった頃にはまた戻ってしまっているだろうな……。
「あ、今更だけど今年もよろしくね」
「うん、よろしく」
で、真夜中から朝近くまでバクバク食べていたふみさんはここでも誰よりも多く食べていた。
私としては未だにうつ伏せで寝転がったままの父が気になって近づく、肩に触れて確認をしてみるとどうやら普通に眠ってしまっているみたいだった。
これだと風邪を引いてしまうので余った部屋から布団を持ってきて掛けておいた。
「そのままでよかったのに、なんてね。ありがとう」
「うん」
やっぱり仲間外れにされて寂しかったのだろう。
なんとなく廊下で食べたくなって食べていると「私も少し食べたい」と久しぶりに食事に興味を持ってくれた。
というか、これまでなにも口にしていなかったのにどうやって生きているのだろうか?
「あずさ、私からなにか吸っているとかない? ――いやっ、そうであってほしいからそうだと言ってほしい」
「あー実は――なんて、全くそんなことはないよ。なんだろうね、でも、私は至って元気だよ」
「きゅ、急に弱ってしまうとかないよね?」
なんて、それが分かるのなら苦労はしないか。
心配になるからいつでも顔に張り付いていてほしい。
授業の時間とか、歩いているとき以外なら目のところに張り付いていてもいいからどこかにいかないでほしい。
「さあ、これからはどうなるのかなんて分からないから。でも、私は咲から離れないよ」
「うん、そうしてくれるとありがたいよ」
「後であやさのところにいこ」
「はは、そうだね」
流石に正月からお店はやらないだろうからいつもよりは気にせずにゆっくりできる――ではなく、たまには誘って来てもらえばいいのか。
「咲……?」
「あ、なんかここで食べたくなったんだよ」
どこでだってぼうっとしたくなるときはある。
なんとなく階段の段差に座ってみたり、玄関の段差に座ってみたり、結局は座っていれば落ち着けてしまうというわけだ。
「それはいいんだけど壁に向かって話していたの?」
「ああ、最近は独り言が増えているんだよね」
「し、心配になるから私とかふみちゃん相手に話してね」
んー彼女が見えていないとはいえこの反応は……。
なんか私が若い頃からやばい人間みたいな扱いに見える。
でも、人間ではない彼女が見えてしまっている時点で結局は同じレベルなのかな……。
いやいやっ、あずさという女の子と話せるようになったのは絶対にいいことだっ、自信を持とう!
「ふみ、後であやささんを連れてくるね」
「んー」
流石に突撃する前に連絡をしてからだけどね。
断られたら仕方がない、三人で盛り上が――ることはできるのだろうか。
少しだけしか寝られていないからお昼頃にはみんなで寝てしまって夜になっていた、みたいになりそうだ。
「お、反応してくれた、しかもあやささんの方から来てくれるって」
「ん……どうせここで集まるんだからあやささんが来てくれた方がいいね」
「そうだね、甘えさせてもらおうかな」
ただ、せめて玄関前で待っておくことにした。
いまは動いていた方がいいのもある。
「咲さーん」
一応、あやささんのときはちゃんとした挨拶をしておいた。
なんかここでやっと新しい年を迎えた感が強くなった。
「咲さん達の学校がなくて、お店もお休みだからこそできることですね。今日はもうずっとここにいたいです」
「どうせずっとふみはいるでしょうからあやささんも真似をしてください」
「はい」
それでも、また拗ねられてしまわないように上手くやらないとな。
拗ねられたら間違いなくそのまま寝られてしまうのでいつもよりも気を付けなければならなかった。




