10
「咲、いい?」
「なにを?」
「このまま……」
何故かあやささんが寝てしまってからこうなっていた。
あずさは本を読むことが好きになっていていまは私の部屋にいる。
朝はあれだけ寝ていた父もいまは母とお出かけ中だ。
「真夜中の私はどうかしていたんだよ、二人きりなのをいいことにしたいことがあったのに食べ物を食べることに集中しちゃった」
「でも、楽しかったよ?」
「そうだけど……このままだと嫌なんだよ」
ついにこのときがきたか。
「私はてっきり、誕生日に動いてくるものだと考えていたけどね」
「ああ、それでもよかったんだけど近いからこそもどかしいときってあるでしょ?」
「あるある、そういうときは時間の経過が遅く感じたりするよ」
いつだって同じ進み方をしているのに早く感じたり遅く感じたり、とにかく不思議だ。
「あやささんに取られてしまう前に咲を私のものにしたいの」
「それはいいけどそんなことを言われてもあやささんも困るでしょ」
ただ一緒にいただけなのに変な勘違いをされて無駄に警戒されるのは嫌だと思う。
そう考えながらあやささんの方を見てみたら、
「お、起きていたんですね」
「すみません咲さん」
結果はこれだった。
「あ、もしかしてまたふみに頼まれていたとか……?」
「はい……」
「謝らなければならないのはこっちの方です、本当にごめんなさい」
変な勘違いをされたうえに協力もさせられた、なんて……。
普通ならやっていられなくなって帰ってもいいぐらいなのにそうしようとせずにあやささんは「大丈夫ですよ」と答えてくれた。
「でも、少しだけ寝たフリをやめるのが早かったみたいです。私は廊下にいかせてもらうのでその間にどうぞ」
更に空気まで読んでくれようとしているというやばさ。
「咲のことが好きなの」
「私だってふみのことが好きだけどこれからはこういうことはやらないでね」
巻き込むのは私だけにしてほしい――というのは今度は関係が変わったからと調子に乗りすぎだろうか?
でも、私としてはまだまだこれからもあやささんと一緒にいたいから堂々としておけばいいか。
「うん。あやささんごめんね?」
「大丈夫です、おめでとうございます」
「ありがとうございます」「ありがとう!」
あずさも下りてきて「おめでとう、だけど咲から離れないよ」と言ってくれた。
私とふみはほとんど同じ時間、起きていたのに自由にやられていて少し気になる。
「ふん、結局こそこそしていたのはふみってことだよね」
「ご、ごめん、だけどあずさちゃんが『協力してあげる』って言ってくれたから……――あっ、あやささんに連絡をしたのもあずさちゃんだからね!?」
「ふーん、そうなんだ」
「あ、煽りたいわけじゃないけどそういうのって私がやる側じゃない……?」
って、どちらにしても関係が変わったからと調子に乗っている人間になってしまったようだ。
いつものように恥ずかしくなってきてあずさを抱いて廊下に逃げる、なんならそのまま客間的なところに入ってズバンとダイブした。
「い、いまの怖かったんだけど……そんなにふみとこそこそしていたことを怒っているの……?」
「ち、違うよ、ただ凄く恥ずかしかっただけでね」
「潰されるかと思った……」
ああっ、本気で怯えたような顔をされているぞ!
こ、これも全てふみ――いや、私のせいか。
ちゃんとごめんと謝って仰向けに変える、すると木! という感じの天井が見えてきて少し落ち着けた。
「あやさって大人だよね」
「え、うん、あやささんは大人だよ」
「じゃなくて、自分の理想通りの展開にならなくても『おめでとう』なんて言えるんだからさ」
こ、これはどう反応すればいいのか。
しかも、その後すぐに本人が入ってきて「理想通りになんていきませんよ、咲さん達だって多分どこか違っていると思います」と言っていた。
「でも、咲とふみは付き合い始めたんだよ?」
「それは本当におめでたいことです」
「はあ……やっぱりあやさのそれは大人じゃないかも」
「ふふ、そうですよ、私はいい大人ではいられていません」
いい子どもでいられているなんてとても言えないのでまた少し不安になってきてしまった。
だから、のそのそと入ってきたふみを見て自分を安心させる、うん、効果はあるようだ。
「ふみ、あやさが怖いから後はよろしく」
「え、怖いかな?」
「怖いよ」
あずさは出ていき三人になった。
「仕方がないからこれからは私も本を買ってあげるよ」
「む、無理をしなくても……私としてはお店に来て元気な顔を見せてくれるだけで十分――」
「絶対に買うからっ、読むから!」
私としては本好きが増えてくれるなら嬉しい。
同じ本について感想を言い合えるのなら絶対に楽しいから。
「咲さん、ふみさんはどうしたんでしょう?」
「あー多分……ふみなりにお店を支えたかったんだと思います。ほら、お店が続けばあやささんも笑顔になるということで、少し恥ずかしいのであくまでお店優先みたいな――」
「よ、余計なこと言わなくていいから!」
「とまあ、これがふみの答えです」
ははは、告白だってできてしまうのだから素直になればいいのに。
でも、私はあのやり方にした意味をまた二人きりになったときに知ることになった。
「ふ、ふみでもそういうことを考えてあげられるんだ?」
「あ、当たり前でしょ!」
「ごめんごめん」
ま、まあ、何故かよく気にかけてくれていたからまさか!? とはならない。
「はは、彼女が優しい子でよかったよ」
「……というか、優しくなければ受け入れたりしないでしょ」
「確かに、これは受け止めきれないぐらいの真っすぐだね」
「咲相手ならいつもこうだよ」
「そっか、嬉しいよ」
さっきから手と手がよくぶつかる。
もちろん、偶然なんかではなくて私と手を繋ぎたがっているのだ。
もう既に矛盾してしまっているようなものの、いちいち口にはせずにこちらから握っておいた。
そうしたらへにゃっとした笑みを浮かべて「咲、ありがとう!」と言ってくれたからこちらも「ふみ、ありがとう」と言っておいたのだった。




