08
んー気持ちよさそうに寝ている。
意外といびきなんかもかいていなくて静かな感じだ。
なんかずっと見ていても飽きない。
でも、自分がこれをやられたら嫌なので途中でやめて天井でも見ておくことにした。
この部屋が暗くなってからもう数時間は経過しているはずだからすっかり慣れてしまった。
ではない、昼寝とかをしたわけでもないのになんで眠気がやってこないのか。
夜も一緒にいられて、物足りなさなんかはなかったはずなのに実は違ったとか?
夜も一緒にいられる前提ではなかったからこそ変わったことで舞い上がってしまったのだろうか。
「トイレ……」
び、びっくりしたあ。
流石にこちらが起きていることには気づかずに出ていってくれた。
別になにか悪いことをしてしまったわけではないものの、あの子が戻ってくるまでは寝ているフリをしておくことにする。
「はぁ……咲のせいで起きることになった――」
「しーっ」
むぎゅっと掴んで喋らせないようにしている内にのそのそ戻ってきてふみは隣に寝転んだ。
今回ばかりは羨ましいと感じるぐらいにはすぐに寝息を立て始め、私はあずさを掴んだまま部屋の外に出る。
「起こしてごめん、だけどこのまま朝まで付き合ってほしい」
「徹夜とかやめておいた方がいいと思うけどね」
「でも、寝られる気がしないんだよ」
「まさかふみ相手にドキドキしているとか?」
うん、さっきはドキッとしたからあまり間違っていないな。
わざわざ口にしなくてもある程度は伝わってしまうのか「咲は馬鹿だね」と冷たい顔で言ってくれた。
「本当はふみと過ごせて嬉しかったんでしょ」
「それはそうかもしれない」
「だから狂ってしまったんじゃない」
いや待て、これはもう馬鹿にしたいだけではないだろうか。
まあ、本命と過ごせなかったから仕方がないか。
「ほら、いつものようにしていいよ」
「……別にそんなのしたくないし」
「はは、そう言いながら張り付いているじゃん」
んー風邪のときに張るジェルシートの真反対版みたいな感じだろうか。
おでこだけでも温かいと言うのはいいね。
他の人には見えないから私だけ授業なんかのときでもチートを使っているみたいな状態になる。
とはいえ、夏にされたら……あ、いや、夏ならあずさが嫌がって離れるか。
「ふみとばかり盛り上がっていて嫌だった」
「気にせずにこうしておけばよかったのに」
「だってふみが……いや、なんでもない」
「うん?」
私ガチ勢みたいなあの子でもあずさ相手に嫉妬したりはしない。
その証拠に「くっつかなくてもいいの?」と聞いていたのはふみだ。
なのに今回みたいに「別にいい」と断ってしまったのがあずさで、私も私で本人がしたくないならと終わらせてしまった。
あそこで動いておくべきだったか。
「ごめんね?」
「謝らなくていい」
「朝になったらまたあずさがいきたいところにいこう」
あの階段でもいい、地味にいい運動になる。
特に決めずに歩くのもいいし、どこかお店にいってもいい。
「それならあやさのところ、だってこれだと一人だけ仲間外れみたいな感じだから」
「はは、分かった」
「あ、変な勘違いは駄目だから」
「違うよ、私も一緒に過ごしたかっただけ」
またハムスターみたいになられても困るからね。
「まだ三時か、朝まで長いね」
「寝た方がいいよ」
「んーやっぱりそうしようかな」
ふみは抱きしめられないからあずさを抱きしめながら寝る。
実を言うといつも内で寝られてしまって気になっていたのだ。
寝相なんかは悪くないから押しつぶしてしまうなんてこともない、安心してくれていい。
「ぎゅー」
「ふみが怒るよ」
「怒らないよ。おやすみ」
多分、すぐに寝られたと思う。
やっぱりより温かいそれがよかったのかも。
でも、何故か起きたときに暗い顔をしたふみに見つめられていたけどね。
切り替えるのが遅かったか、それでも私も自分の見られない顔はともかく、こうしてふみを見てしまっていたわけだから責めることはできない。
あと、現実逃避がしたいわけではないとしてもふみの寝相がよくなっていることにおおとなっているところもあった。
「私が寝ている間にまたこそこそあずさちゃんと仲良くしていたってこと?」
「寝られなくてね、ちょっと付き合ってもらったんだよ」
「だったら起こしてくれた方がよかった」
「気持ちよさそうな顔で寝ていたんだから仕方がないでしょ、流石にあそこで起こせるような鬼じゃないよ私は」
今日は作りたい気分だったのでふみを連れて一階へ。
「朝ご飯を食べて少ししたらあやささんのところにいこう」
「私も手伝う」
「うん、やろう」
ふみやあやささんが泊まってくれたときは自然と朝ご飯も私が作れるようになるからありがたい。
嫌でもご飯を作り続けなければならない仕事なのだから意地を張っても疲れるだけだ。
「お母さんおはよ……またこれか」
「ははは、楽でいいでしょ?」
ありがたいけどよくはない。
でも、もうほとんどできているみたいだったので食べさせてもらうしかなかった。
「あずささん、あーん」
「あむ――うん、美味しい」
「そうですかっ」
そういえばこの前、ふみがやたらと慌てていたけどあやささんは普通にご飯を作ることができていた、なんならお菓子だって作れるみたいだ。
ということでさっきからずっとあずさは餌付けされている、もうあれでクッキー十枚目だ。
「ねえふみ、この前あやささんが頑張るって言っていたときになんで慌てていたの?」
「だ、だってさ」
「だって?」
「あやささんが上手に作れることが分かっちゃったら困るでしょ」
というか、それなら手伝おうとするあやささんを止めていなければ意味がないのでは? なんとも中途半端だ。
「別に心配しなくてもあやささんにばかり求めようとする私は出てこないよ」
みんな作れるからやるとしても交代交代で――んー私のことだから滅茶苦茶自信があるというわけではないとしても自分が作り続けるみたいになってしまいそうだ。
「……そうやって求め続ける咲が出てこなくても『美味しい』と笑って言う咲を見たくなかったの……」
「え、じゃあふみのときにも言わない方がいい?」
「意地悪っ」
あたっ!? なにも押し倒さなくてもいいのに……。
女の子版のアメリカンフットボールやラグビーフットボールがあったら活躍できそうな威力だ。
「咲もこれ、食べた方がいいよ」
「うん――もが!?」
あ、美味しい、紅茶の味のクッキーもいいね。
「そういえばお菓子作りって一回もしたことがないなあ」
「私はあるよ、お菓子を作るなら材料費はお母さん達が払ってくれるからね」
「えーそのために作るのは……」
「よ、喜んでくれるからっ」
いや、自業自得なのに新しい端末を買ってもらってしまった私が偉そうに言えることではないか。
なんか急にグサリと刺さってしまいそうになるのが怖いな。
しかも、それが全て自分のせいなのだからうーんとなる。
「興味があるなら一緒にやりましょう」
「あーそこまでは……私はちゃんとご飯を食べてお腹いっぱいになった方がいいという考えなので」
くれると言うのなら貰って食べさせてもらうけどやっぱり私は別にお菓子がなくても普通に生きていける人間だ。
「な、なるほど、確かにそうですね、お菓子をいっぱい食べてしまったばかりにご飯を食べられないなんてことになったら怒られてしまいます」
「あやささんにもそういう経験が……?」
「ありますあります、子どもの頃なんか特に。私、昔から本を読むことが好きだったんですけどその際にお菓子を食べつつ……みたいなことをしてしまっていまして。何故か口寂しくなってこう、どんどん……。それでなにかをしながらだとお菓子ってすぐに終わってしまうんですよね、だからおかわりをしたことも何度もありました」
へえ、意外だ。
「分かるよその気持ち!」
「ふみさん!」
食べること好きーのふみなら分かるよね。
勉強をするために集まっていても買ってきたお菓子ばかりをもしゃもしゃしているのでどうしてもこちらの方が早く終わる、それだというのにまるで私が付き合いが悪いみたいに言い出すから困る子でもあるけど。
「んーだけどふみさんは本を読んではくれませんよね? 前々から『一冊でもいいのでお願いします』と言っても『いまは手が疲れているから無理』などと躱されてきましたし」
「そ、そのときは手が疲れていたんだから仕方がない」
「それなら――」
「いまはみんなといるから本なんて読んでいる場合じゃないんだよ、だってそれは空気が読めない行為でしょ?」
「本なんて……?」
「こ、この話は終わり! 私にもクッキーを食べさせてよ!」
その点に関しては全く言うことを聞いていないのによく貰いにいくなあ。
怖い顔になっているのに必死にスルーしながら「こ、これ美味しい!」となんとか空気を変えようとしている。
「そうか、咲に構ってもらえなくて暇なときは本を読んでおけばいいのか」
「でも、それだと本だけ浮いていることにならない?」
「ふふ、隣の教室とかで本だけ浮いていたらそれだけで面白い――」
変に注目を集めてしまうと学校に連れていけなくなってしまうので我慢してもらうしかなかった。
つまり、変なことを言っているふみは放っておいてちゃんといい子でいてほしいということだ。
そうしてくれれば私もあずさのために動く。
「やるなら私達だけしかいないところか、家でしてね」
「分かった」
「むぅ、なんであずさちゃんもそこまで聞き分けがいいの」
「咲に嫌われたくないからだよ」
まあ、他の人に迷惑をかけていないのであれば少し暴走したぐらいで嫌ったりはしないけどね。
自分で言うのもあれなものの、怒り耐性というのはそれなりに高いと思っている。
「あやささん、またお勧めの本を教えてください」
「分かりました」
「むぅ、仲間外れにするのは駄目なんだから!」
ただ興味があったからでしかないとしてもあやささん的に買ってもらえるのなら大きいはずだ。
なので、今回も気分がよかった。
「お疲れ様」
「お母さんもね」
「今日は一緒にお店で食べよう」
「お、珍しいね?」
「そうしないと咲が利用してくれなくなっちゃったからね」
ああいや、別に不満があるとかではないのだ、最近はふみとかあやささんを優先しすぎてしまっていただけでね。
そうでもないときはあずさと一緒にだらだらするのが好きだからというだけ。
一階と二階で別に繋がっているわけでもないから寒いのも影響していた。
「あれ、お昼なのに誰もいないのか……」
「もう年末だからね」
まあ、いいか。
店員さんである母とゆっくりお喋りしながら食べられるのは大きい。
いつものように生姜焼き定食を頼んで点けられているテレビを見ていた。
「行列ができるお店だって」
改めて見てみなくてもこことは違う。
テレビの音だけというわけではなくてもこう……ね? もう少しぐらいは賑やかであってほしい。
「他所は他所、うちはうちだ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だ。でも、ふみちゃんとかにもっと利用してもらえたら嬉しいぞ」
「今度また誘うよ」
「おう」
それでも今日誘ったりはしないけどね。
ふみだって私といたくないときだってあるだろう。
最近は泊めたり、泊まってもらったりが当たり前だったから沢山の時間をあの子と過ごしている。
つまりあの発言通り、本当に一緒にいてくれているということだ。
別にいまだから、ああ口にしてしまったから、ではないと思う。
「お母さん、私がふみと付き合い始めたらどう思う?」
「男の子とお付き合いをするよりも想像しやすいかな」
「反対じゃない?」
「うん、好きな子とそういう関係になってほしいよ」
願望かもしれないけど無理やりそうやって片付けようとしているようには見えなかった。
「できたぞ。だけど意外だなあ」
「意外?」
「いやほら、ふみちゃんは咲のことを気に入っていたけど咲は違うと思っていたからさ」
いやなにそれ……最近は極端なだけで昔は違ったでしょ。
私が面倒を見る側ではなくて見てもらう側だったから本人がいるわけでもないのに恥ずかしくなってしまった。
そもそも、あんまり両親がいる前で二人で楽しんだことはなかったからね。
「いやでも、本気で好きになれるような子がいてよかったよ。なにより、変な野郎と付き合うよりよっぽどいい」
「はは、そっか」
「子どもは見たかったけどなー」
「多分、男の子を好きになっていても子どもを見る機会はこなかったと思う」
「ま、それならそれでずっと家にいてくれたからいいけどな」
ふみとの関係が変わったらどうなるのか。
「二人だけのお家が欲しい!」とか言うのかな。
「咲、早く食べないと冷めちゃうよ」
「あっ、いただきます!」
先のことよりもいまのことか。
そもそも、向こうの中になにもなければ意味のない話だ。
でも、いつそうなってもいいようにお金を貯めておかないとな。
別になにも起きなくてもお金がちゃんとあるというだけで安心できるものだから。
「今日も美味しい」
「はは、ありがとうございます」
「お父さんも食べてよ」
「もしそうなったらお金を貰うわけにはいかないなあ」
「あっ、そういうの駄目だからね?」
その作戦には乗らない。
というか、普通は家族相手でもそういうところだけは厳しくしなければならない。
ご飯を作って、それを食べてもらって稼いでいるのだから。
「別に気にしなくていいのになあ」
「ズルをしている気分になるから駄目」
「咲は頑固な子だ」
両親がお店をやっている他の子だって同じようにするよ。
寧ろありすぎて困るぐらいのお金持ち家でもない限りはこうなるはずだった。




