07
「お待たせ、ちょっと時間がかかっちゃってごめん」
友達と遊びにいきたそうなところで残ってもらったのだから謝る必要なんか全くない。
「謝る必要なんかないよ、残ってくれてありがとう」
「うん。それで、咲は試したいことがあるって言っていたよね、なにがしたいの?」
「ふみ、触ってもいい?」
「え、ど、どうしたの?」
いまはなにも聞かないでほしいけどこれだけでは確かに不安になるか。
「攻撃したりしたいわけじゃないから信じてほしい」
「あ、いや、別にいいんだけど急すぎたから……」
「じゃあ、触らせてもらうね」
あやささんのときは手を繋ぐ形になったことであずさが見えるようになったからまずはそれを試してみることにした。
「どう? なにか変わったことはない?」
「んー黒いモヤモヤは依然として見えるけどそれ以外は……」
それなら次は結構飛ばして両頬に。
「さっきも分かっていたことだけど咲の手は冷たいね」
「それはごめん」
駄目かあ。
なんでだろう、やっぱりあやささんは過去にあずさと出会っていたとかなのかな。
というか、温かくて離したくなくなってしまった。
まるで磁石みたいにガチンとくっついたままで、お互いに至近距離から見つめ合う変な時間となってしまったという……。
「咲」
「なに?」
見えた、という表情ではないよなあ。
それこそ、この前のあやささんみたいに真剣な顔だ。
頑張れば茶化すこともできるけどそんなことをしても無駄に終わる感じ。
「これからまた戻すからね。つまり、咲といっぱい一緒にいるってこと」
「別に無理をしなくても、他の子と楽しそうだったし」
「やっぱり咲といっぱいいられないと駄目なんだよ」
ふみも不思議な子だ。
でも、本人がこう言ってくれているのならと甘えておけばいいだろう。
「あやささんとは会っているの?」
「うん、それで『あやささん』と名前で呼ぶようになったよ」
私から動いたわけではなくてあやささんが頼んできた。
少し悩んだものの、やっぱりふみと同じように表情で揺さぶろうとしてくる人なので受け入れるしかなかった。
自分で言うのもあれだけど私はちょろいと思う。
「え……なんでそういうことを言ってくれないの?」
「すぐに知りたかった?」
「うん、咲に関することならそうだよ」
「まあ、こうしてちゃんと言っている時点で分かるでしょ」
隠していることはあずさのことぐらいだ。
「それじゃあ嫌だ、遅くても五分以内に知りたい」
はは、と笑えることなのかなこれ、なにがそこまでふみを動かすのか。
私の情報なんてすぐに知ることができたところで数分後には出ていってしまうようなことだ。
一瞬でも脳の無駄な容量を使用することになってしまうのだからやめておいた方がいいと思うけどね。
「よし、確認したいことも確認できたから帰ろ?」
「も、もしかして……私が好きかどうかを確かめたかったとか……?」
「え?」
「な、なんでもない! 帰ろう!」
い、痛い、このままだと騙しているみたいで駄目だ。
ズンズンと歩いていこうとするふみを強制的に止めてこちらに意識を戻させた。
あー……変なことをしたせいで真っ赤になってしまっているぞ……。
「あーえっと、あずさという子が――」
「また新しい女の子!?」
とは言うけどあやささんを巻き込んだのは彼女だけどね。
「聞いて。多分だけどふみが見えていた黒いモヤモヤがそのあずさだと思うの」
「あやささんはそれを……」
「うん、もう知っているよ、なんなら見えているぐらいで――」
「咲のばかあ!」
さっさと言っておくべきだった。
泣きそうに――いや、本当に泣いてしまっていたから顔を抱きしめて見られないようにする。
これなら誰かが来ても問題ない、また、私も見えていないから大丈夫なはずだ。
五分ぐらいぐすぐすしていた彼女も落ち着いたのか「もう大丈夫だから……」とかなり小さな声で教えてくれたので離した。
「あ、もしかしてあずさちゃん?」
見えるように条件が分からないなあ。
なんかもっとこう、これだ! という風になってくれないと困る。
だって、急に私達以外の人に見え始めてしまったら大変だからね。
「その指先にいるのは確かにあずさだけど見えるの?」
「うん、こんな子だったんだ」
結局、あずさにその気があるかどうかなのだろうか。
いまは凄く眠そうにふわふわしているだけ、これでいいのならもっと早い段階でこうなっていても……と考えてしまう。
「あ、普通に触れた」
「ふみ」
「は、はいっ」
「素直になれない咲のためにももっといてほしい」
「わ、分かりましたっ」
この前のあずさではないけど甘えている時点で素直になりすぎてしまっているところだ。
他人に厳しくはしていないつもりで、そこを守れているのはいいとしても自分にダダ甘なのはどうなのかと言いたくなる。
「はは、なんで敬語?」
「なんか気になって……」
「敬語なんていいよ、あとあずさって呼んで」
「あ、あずさちゃんで」
「ふみもちょっと面倒くさいのかも」
ははは、言うなあ。
でも、これでみんなに見えるようになったからあずさが飽きてしまうようなこともないだろう。
最初から移動も普通にできるし、もっと自由に、もっと楽しんでもらいたかった。
「とうとうやってきましたよこのときがね!」
「クリスマスか、今日も二人は仕事があるからあくまで普通の一日だよ」
お店も鳥の料理はあるけどクリスマス向け! という感じではないからね。
これは毎年そうだった、でも、あの二人は気にしているみたい。
ただ、クリスマスに盛り上げようとせずにあくまで普通の一日~みたいな人は私達以外にもいるだろうから気にする必要もない。
というか、こうしてお昼にでも楽しんでいたら結局私も大多数の側の人間になるし。
「だから私達だけでも盛り上がろうって話でしょ!」
ドーンッ、と効果音が鳴った気が――いや、実際に机を叩いたことで鳴った。
人の家の物なのだからもう少しぐらいは考えてもらいたいところだけど。
「あやささんは今日も普通にお店で働いているけどいいの?」
「だ、だって、夜には集まれないんだから仕方がないでしょ、別に意地悪をしているわけじゃないんだから気にしなくていいんだよ」
夜に集まれないと言うのは彼女はイブも本番もご両親と過ごすからだ。
だから毎年、お昼はこんなテンションになっている。
それでも、特別ができればいつかその当たり前が崩れていくのだろうか?
そこまでしても優先しようとするふみを……いつか見ることになるのか。
「じゃあ、あやささんの家でやらせてもらう?」
「おっ、それなら美味しい食べ物を買ってあやささんの家にいこう!」
いやいや、だからそういうことを考えること自体が駄目だって。
なにかがあっても、それがいいことなら応援するべきなのだ。
「これぐらいでいいかな?」
「こんなに食べられるの?」
「余ったら咲に全部あげるから大丈夫!」
えぇ……。
そうなったらあやささんにも協力してもらおう。
タダほど怖いことはないなんてことも聞くけどタダで貰えてありがたいときもあるからね。
「こんにちはー!」
「こんにちは」
あれ、今日はいないや。
出てきてくれるまでお店の本を見ておくことにした。
ここに並べられている本達は堅苦しくて肩や目、脳にダメージを与えてくるけどそろそろ次を買ってもいいかもしれない。
「す、すみませんっ、いまと、トイレにいっていまして!」
「いきなり来た私達が悪いんだから謝る必要ないよっ、それよりこれでお昼から盛り上がろう!」
働いているとはいえ、終わった後に会う相手とかいないのだろうか。
「ほらほらっ、ケーキとかチキンとかサラダとかクリスマスに食べる物を買ってきたよ!」
重かった、お財布的にもノーダメージとはいかない。
それでも、彼女が笑ってくれているとどうでもよくなる――少なくとも一人になるまではそうなる。
お金だけで繋がっているわけではないし、普段貯めていたお小遣いを出すことでこうなるなら、うん。
「わあっ、美味しそうですね!」
「紙コップも買ってきたからこれで無駄に食器を使わせてもらわなくて済むよ! 飲み物もいっぱいあるよ!」
「でも、これだと気になってしまうので――そうだっ、レシートを見せてください、最低でも半分ぐらいは払わないと……」
「気にしなくていいから!」
はは、また無茶をしているよ。
しっかり話し合いをしたのに私が払ったのは千円だ、彼女が出したのは三千円以上。
笑っている場合ではなくてここは全力であやささんに乗っかっておくべきか。
私だっていちいち気にしながら食べたくなんかはない。
「四千七百二十一円だけど面倒くさいから四千七百円ということにして、そうなると三人で割れば――うん、千五百六十六円か。これまた細かいのは面倒くさいからはい、千六百円ね」
「それなら私も。えっと――はい、千六百円です」
「むぅ、なんでこういうときは聞いてくれないの」
「ふみに申し訳なさを感じながら食べたくはないからさ、どうせなら楽しくやりたいんだよ」
盛り上がりたくて集まっているのなら誰だってそうだろう。
仮に私だけだったとしても私はそうだからという理由で払わせてもらうだけだ。
「さ、夜に響かないように食べようよ」
「温めてきますね」
「手伝います」
五千円近くの量だから三人の割には多い。
置くのも、運ぶのも大変だろうから――いや、そうではなくても手伝おうとするか。
ちゃんと温かくなった物から運んでふみさんに食べてもらうことにした。
「ふぅ、やっと食べられる……」
「そ、そうですね」
「二人ともっ、早く食べた方がいいよ!」
食べるさ、払ったからにはね。
途中、あずさにあげようとしたらなにも言わないまま顔に張り付かれて不思議だった。
それでもおでこに張り付いてくれたから食べるのには苦労しなかった。
こうして美味しい物が目の前にあるというのに他のことを優先しようとするのはすごい。
ましてや、こんないつでもできてしまうことを優先してしまうというのは……。
「あずさちゃん食べないの? 早くしないと終わっちゃうよ?」
「食べ物を食べることよりもこれがなによりも効くから」
「へえ、じゃあ後でやってみようかな」
なーにを言っているのか。
同じようにやられたらペシャンコになってしまいそうだから逃げ続けようと決めた。
そんなことをしてこなければお互いにとって平和なままで終われるので考えて行動に移してほしかった。
「あそこ、よく続けられているね」
「ちょ、ふみ……」
「でも、気にならない? 物好きな咲が買う以外はたまに人が来る程度だよ?」
もう別れていてよかった。
ちなみに、あやささんもご両親と過ごすそうだ。
私達が知らない人と会うとか、実はこそこそふみと会っているとかはなかったらしい。
いやでも、ふみが私と別れた後は分からないか。
「でも、ずっと昔からあるんでしょ? だったら問題はないということなんだよ。余計な心配を働かせていないでふみはご両親と楽しめるようにしっかりお腹を空かせておかないと」
「それなんだけどさ……」
ああ、これは食べすぎたというやつ……。
いやでも、先に後悔はできないようになっているから仕方がないのかな。
別にいつも同じ失敗を繰り返しているというわけではないから学習能力がないわけでもないし。
「別れたくない、このまま一緒にいたい」
「わ、私と?」
「それ以外にないでしょ」
だけど、毎年楽しみにしていると彼女から聞いていたからなあ。
私と彼女だけの問題ならダダ甘でもいいものの、他の人にまで影響が出てしまうのであればそれでは駄目だろう。
「別にいいんじゃない。というか、いちいち考える必要ある? ふみの親もふみがしたいようにしてほしいでしょ。いや、逆にそこで止めるようなら引くね」
「咲」
「だ、だったら直接話さないと」
「はあ~咲はすぐにこれだからなあ」
彼女とは毎日一緒に過ごしてきたけどご両親とは違うから緊張する。
自分を守りたいからと見られてもいい、実際、落ち着かない時間にならないように動こうとしているのだから間違ってはいない。
ということで、寄り道をしたりせずにいつ帰ってきてもいいように彼女の家のリビングで待たせてもらうことにした。
さあこい! と待ち続けた結果、
「気にしないでどんどん食べてね」
「は、はい」
何故か私も参加することになった……。
水を差さないように頑張ったことで一時間半ぐらいでまた二人きりになれたけど。
「ふみのお母さんはやばい……」
「はは、似ているでしょ?」
「うん、本当にそっくりだよ。お父さんもふみと同じで優しかったし」
「え、えー急になにもー」
「よし、これで後は私の家にいくだけだね」
ここは流石に言うことを聞いてもらわないとね。
私はちゃんと動いた、だから彼女にも動いてもらう。
「お風呂、入っちゃった方がいい?」
「いやいいよ、今日も一緒に入ろう」
「うぇ、さ、流石にそれはね」
「そんな初めてみたいな反応をされても困るんだけど」
「じゅ、順番に入ろう」
まあ? 嫌なら仕方がない。
そこまで急がなくてもまだまだお店が終わるまでは時間があるから大丈夫。
ご両親にちゃんと感謝を伝え、挨拶を済ませてから外に出た。
「う~寒いね~」
「もう一年が終わるところだからね」
早いものだ。
「いい?」
「はは、冷たくていいならね」
彼女はいつでも温かいな。
やっぱりしっかり食べることが大事なのだろうか。
「私はここ」
「こ、今度は顎か」
「なんでこんなに落ち着くのか」
体温に触れて落ち着けてしまっているからあまり自由に言えることではないか。
視界がクリアなら構わない。
ただ、またスイッチが入ってしまわないように話題を変えていくのが地味に大変だった。
「着いたー」
「いま開ける――」
んー? あれ、鍵がないぞ。
私は毎回、同じところに戻す癖があるのでここにないなら落としてしまったことになる。
「ガチャガチャリと、うん、開いているみたいだね」
「マジか……」
実は浮かれすぎていて忘れてしまったというのか。
これについては触れられたくないのでささっと中へ、お風呂までもささっとだ。
今回もお客さん優先ということで先に入ってもらっている間、洗面所でのんびりしておいた。




