06
「ふふ、そうですか」
あ、お客さんと楽しそうに話をしているところを初めて見た。
ここを利用してくれている人がいてくれるのは自分のお店というわけでもないのに嬉しいものだなあ。
「ありがとうございました」
あ、やばい、入りづらくなってしまった。
「ふふ、いらっしゃいませ」
「こ、こんにちは」
「咲さんはあれからよく来てくれていますね」
それはまあ……うん、この人が繋がりを消したくないとか不安になってしまっていたからだ。
「でも、ふみさんとちゃんと一緒に過ごしていますか? 流石に、そこを我慢してまで来られても喜べません」
「大丈夫ですよ――あ、その点に関してはあやささんよりもふみの方が大人かもしれません」
あの子も私も自分の生きたいように生きられているから大丈夫だ。
今日だって「あやささんのところにいってくる」と言っても「うん」だけだった。
いまは他の友達と遊んでいる方が楽しいのだろう。
「私は咲さん達と反対の立場がよかったです、私が子どもで咲さん達が大人の方が……」
えぇ、そんなことを物凄く真剣な顔で言われても困るけど……。
「私だけじゃ物足りないかもしれませんが私なら何回でもここに来ますから」
「十七時には終わるので私が毎日、咲さんのお家にいきます」
いや私ガチ勢かなにかかな?
なにをこんなに気に入ってくれているのだろうか?
中学生の頃に会っていた女の子というのが実は私で~みたいな展開だったら分からなくもないけどそうではないから。
いつからかは分からないけど前から一緒にいたのはふみだ。
「流石に私でも毎回毎回、ふみを連れてこられるとは思いません」
「ふみさんのことはいいんですっ」
「そ、そんなに怖い顔をしなくてもいいと思いますけど」
「……ふみさんのことを出して躱そうとするのはやめてください」
あやささんは私の両手首をまとめて掴んでから「もうこうなったら咲さんを誘拐するしかありませんね」と冗談なのか本気なのか分かりづらい顔をしながら言ってきた。
「そうだ、それならまた泊まりに来てくれませんか?」
「……どうせふみさんも――」
「ふみはいません」
お店が終わったらすぐに実行してしまえば、つまり今日ならふみはいない。
それで満足できるのであれば来てくれればいい。
「私のことが怖くないんですか?」
「何度聞かれようと怖くはないですけど意外と子どもっぽいところがあると分かりました」
結局、大人でも子どもでも変わらないところもあるということだ。
私としては完璧すぎても遠い存在のように感じてしまうので現状維持してほしい。
「だ、だから私が子どもで咲さんが大人の方がよかったんですよ」
「でも、言っても変わらないことですから。ということで、お店が終わるまで中で待たせてもらってもいいですか?」
「は、はい」
あともう少しで冬休みになる。
冬休みもちゃんといっておけばこの人もいまよりは安心できるだろう。
「怒らないでくださいね?」
「えっと?」
「すぅ……ふぅ、あやさ!」
さあ、どういう反応を見せるのか。
表情の変化をよく見ておきたかったからじっと見ていた――のまではよかったけど一切変わらなくてがっかりした。
見ている限りは駄目だと判断して早々にやめて他のところを見ていた私、が、流石に五分ぐらいが経過したときにここまで反応がないのはどうなの……? となって意識を向けると、
「え、あれ、おーい?」
「咲、その人気絶しているかも」
「え、名前を呼び捨てにされた程度でそんなことになるの?」
マジか、お客さんが帰った後でよかったよ。
とりあえず、危ないので寝かせておくことにした。
それでこれからどうしようと考えようとしたときに「あれ……」と、どうやら起きてくれたみたいだった。
「あ、あずささん、私のところに来てください」
「別にいいけど一緒に住んだりはしないよ」
「はい、意地悪な咲さんから守ってください」
うはあ、意地悪ときたかあ。
まあ、確かにいきなり呼び捨てにとかされたら「は? なんですかこの子」となってもおかしくはないか。
とにかく、戻ってくれてよかった。
「わっ、か、顔が好きですね?」
「うん、こうしていると落ち着くんだよ」
あれ……? なんか複雑なんですが……。
あずさちゃんがあやささんと普通に話せているのならいいことなのによくない感情が内に溜まっていく。
「咲――」
「さて、あやささんの分もいることを考えるとスーパーにいかなければならないから私は先に帰るね」
「え、どうしたの?」
「気にしないで、あずさちゃんはあやささんをちゃんと連れてきてね」
危ない危ない、なんとか表に出さずに済んだ。
私が「ふん、そんなにあやささんがいいならあやささんといればいいよ」とか言い出したら気持ちが悪いからね。
私がツンツンしてもただ嫌われていくだけだ。
なので、暴走してしまう前に止められたことが嬉しかった。
「美味しいです」
「よかったです」
午後十九時頃、作ったご飯を二人で食べていた。
あずさちゃんはあやささん――彼女の肩の上に乗って休んでいる。
いまはすっかり切り替えられたらしく、それを見てもメラメラとはならなかった。
「あやさ、俺も食べてみたい」
「食べられるんですか?」
「うん」
あれ、いままで「別にいい」などと言って躱してきていたのにこれが好きな人パワーか。
見えるように、話せるようになってよかったなあ。
いや本当にこれはそうで、寧ろメラメラとなりかけていた先程の私がおかしいと言える。
応援するとはなんだったのか、自分が口にしたことぐらいちゃんと守れなければならない。
「んーあずささんが『俺』と言うのをやめてくれたらあげます」
え、意外、そういうの求めたりするのか。
私も気になっていたけどとやかく言うことではないと思ってやめていたことだ。
「私……って、似合わなくない?」
「ふふ、全くそんなことはありませんよ。はい、あずささんはちゃんと約束を守ってくれたのでどうぞ……と言いたいところですけど、これはあくまで咲さんが作ってくれた物ですからね」
「え、食べたいなら食べてもらえた方がいいので全く構いませんよ」
「そ、そうですか? それでは改めて、どうぞ」
おお、小さい口でチビチビと食べていくところが凄く可愛いなあ。
ふみも結構食べる方なのに一口一口は小さくて可愛いところがある。
対する私は? 鏡なんかを置いておいたらどうなるのか……。
「これが咲の味なんだ、もっと前々から食べておけばよかった」
「あずさちゃん――」
「あずさでいいよ。あと、変な勘違いをして勝手に一人で帰らないように」
「な、なにが?」
「お互いに名前で呼び始めて『私、いらないかも』とか考えて一人で帰ったんでしょ」
違う……とも合っている……とも言いづらい件だった。
「そうですよ、あずささんはいままでもこれからも咲さんのことが大好きなんですから」
「あ、一応言っておきますと別にそういうつもりで先に帰ったわけじゃないんです。ただ、よくない感情が出てきてしまいまして……」
「どういう感情?」
うわ、ここで真っすぐに聞いてくるとは意地悪なのはあずさだ。
ただ、いま逃げることができたとしても苦しめられるのは後の自分なのでちゃんと答えておくことにする。
「……あやささんと仲良くしているあずさに複雑な気持ちになって見ていられなかったんだよ。でも、もう反省しているから不安にならなくていい――わぷ」
「咲が自信を持てるようになるまでは絶対に離れない」
ああ、冗談だとしてもそんな言葉に安心してしまっているんだよなあ、と。
恥ずかしくて顔を隠したくなった、でも、張り付かれたままだから少なくともあやささんから見えないようになっているのは救いだ。
「というか、ふみが相手じゃなくてもそうなるんだ?」
「うん、そうみたい」
視線を感じて見てみるとそこには……。
えっと、これは私とも仲良くしようとするあずさが気になる……のだろう。
「そんなに頬を膨らませてどうしたんですか?」
ハムスターかな? いまは奇麗より可愛いと言えるけど。
「あやさ、もういい大人なんだからもう少しぐらいは大人らしく行動しないと」
「まだ二十四歳ですよ」
「でも、成人なわけでしょ? それなのに私に向かって本気で嫉妬ってよくないと思うけど」
いや、あずさは素直すぎたか。
あまりにも真っすぐすぎたのか彼女もすぐには答えられないでいた。
が、いつまでもこのままでは不味いと思ったのかこちらの隣まで移動してきて、そのうえで腕を掴んできてから「お風呂にいきましょう」と。
両親がすぐに入れるようにといつも動いていたから普通にありがたいことだけどあずさには効いていないのか「私もいくけどね」と引く気はないみたいだった。
「お、お先にどうぞ」
「あやささんから入ってください」
「はい……」
お客さんを待たせて先に入ることなんてできない。
「はは、あやさは結局それ?」
「もう今日は抱きしめて寝ますからね!」
これも頭の後ろで腕を組んだあずさには効いていなかった。
でも、思わず感情的になってしまうぐらいには出せていけているということだからやっぱり私のときとは違う。
どうすればもっと仲良くなれるのか。
こうして一緒に過ごしていても前に進めているようには見えないのだ。
「咲ー」
「さっきはごめん」
「ん? いやいいよ」
もう二度とあんなことにはなってほしくなかった。
あと、あずさが一緒にいたいと言ってくれている限りはあやささんのところに云々と言うこともやめようと決めた。
同時にあやささんが相手のときにふみのことを出そうとするのも変えていきたかった。
「それよりあやさとは普通に話せるようになったから次はふみだよね」
「そうそう、あともう少しでいけると思うんだよ」
「他の友達ばかりを優先しているふみを連れてこないと」
「暇そうなときにいこう、それまではあずさやあやささんがいてくれているからいいよ」
「はあ~そういうところは咲のよくないところだね」
いや別に他に優先したいことがあるなら仕方がないし……。
べ、別に寂しいとかそんなことは全くないんだからねと結局変になっている私がいた。




