04
「うぅ……」
あれから結構時間も経過し、腕の傷も痛みなんか感じないぐらいだったのにまた戻ってきてしまったようだ。
確かめてみてもふみにぎゅっと力強く抱きしめられているとかでもない、また、同じところに仁科さんも寝ているけどこちらも同じだ。
あ、ただ、仁科さんは眼鏡をかけていない状態の方がより奇麗に見えることが分かった。
ということは普通にしているだけで興味もない人が近づくように、
「いたた……」
このままだと起こしてしまうから部屋から離れよう。
まだ時間的にも起こすのは可哀想だから一人でなんとかするしかない。
「右腕が疼く! とかふざけていたからかなあ……」
そもそも、あのときだっておかしかった。
他の人に比べたらポンコツかもしれないけどさ、いくら疲れていたからって落ちるなんてありえない。
「正体を現しなさ、い!」
いったー!?
……じ、自分でしておいて骨が折れるかと思った……。
「はあ……まさか気づかれるとはね」
「え」
「なにその反応、気づいていたくせに今更気づいていないフリは無意味じゃない?」
手の平に収まるサイズの女の子? が現れた。
可愛いからついつい掴んで目の前まで持ってくると「美味しくないから」と。
「あ、私は咲、きみは?」
「あずさ」
「そうなんだ、よろしくね」
ではない、私はあのとき落下したことで実は死んでしまっていたのだろうか……。
「んん……咲……?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、ふぁ……トイレで下りてきただけだよ」
あずさちゃんを掴んだままなのにそのことについて指摘してくる彼女はいなかった。
結構追い込まれていたのか「トイレにいってくるね」とそのままここから消える。
「私だけに見えているんだよね?」
「多分ね」
「それであずさちゃんはなんで私に……?」
「ただの暇つぶしだよ」
まあ、一緒にいる限り大事なものが吸い取られていくとかでもないならいいか。
「あ、言っておくけど押したりしていないから、あれは勝手にあんたが落ちただけだ」
「そ、そうなんだ」
冬だからと先延ばしにしていないで鍛えないとなあ。
ふみは急に弱ったりすることがあって運ばなければならないから力不足のままでは困る。
「まだ残っていたの?」
「戻ろっか」
「うん」
二人だけにして仁科さんをこの子の寝相の悪さパワーの被害者にしてはいけない。
最初と同じように中央に陣取っておくだけでどちらも守ることができる。
その際、少しぐらい蹴られたって我慢してやるさ。
もっとも、朝までダメージを追うこともなくて百パーセントの状態を維持できていたけども。
「「おはようございます」」
再度、洗面所まで案内してすぐに廊下に出た。
同性だからとじろじろ見るのはよくない、興味はあるけどしっかり切り替えて存在するのだ。
なんせまだまだ仲がいいとは言えないから、友達とも言いづらいレベルだからもっと時間が必要だ。
「お待たせしました」
あれ……? なんか朝だと奇麗の中にどこか幼さが混じっているような……。
「咲」
「あっ、か、顔を洗ったりしてきますね」
「はい」
シャコシャコ歯を磨いている最中、あずさちゃんはどこか眠そうな感じで私の頭の上に寝転がっていた。
それでも全く重くはないからここでも無駄に体力を使わなくて済んだ。
「あずさちゃん、どこかいきたいところってある?」
「それならまたあの階段、あそこから海の方を見るのが好きだったんだ」
「分かった、二人と別れたらいこう」
ちゃんと暖かい格好をしていかないとな。
あとはペース管理をしっかりする、途中で足を止めてもいいからフラフラしないようにするのだ。
「朝ご飯は両親が意地でも作ろうとするので私はふみを起こしてきますね」
「はい」
極端に朝に弱いとかではないからすぐに連れてこられるだろう。
「寧ろあの日、話しかけようとしたのに急にあんたが落ちて驚いた」
「あ、そうだったんだ」
「それぐらいで済んだのは俺のおかげ」
「それはありがとう」
身長差的に支えるなんて不可能だっただろうからスマホには……謝るしかない。
それと、ちゃんと勇気を出して話したからもう大丈夫だ。
両親は怒ったりしなかった、ただ、凄く心配されて慌てることになった。
「ふみさん朝だよ」
「……もう朝ご飯できたぁ……?」
「まだだけど仁科さんも起きているから下りてきてよ」
「んー」
とにかくご飯! というところが可愛いね。
とはいえ、ないだろうけど一緒に住むことになったりしたら食費が大変なことになりそうだ。
そう考えるといまのこの距離感はいいのかも。
「泊まってよかった」
「それならよかった」
「だってそうでもなければあやささんと二人きりでこそこそしていそうだったからね」
「はは、誘ったのはふみでしょ」
「でも、最近の咲なら誘いそうじゃん?」
そうかな、途中で会っても少し会話をして別れるだけだと思うけどね。
盛り上がったとしても本のことについて話せることはそこまで多くないので十分とかだ。
「ふみさんおはようございます」
「おはようあやささん」
「新さんのご両親が朝ご飯を作ってくれました、いますぐにでも食べられるみたいですよ」
「おっ、食べ――の前に顔を洗ったりしてこなくちゃ」
まあ、そこは女子として、ね。
消えたりはしないからゆっくりでよかった。
「え、ここから落ちたの?」
なんでだ……。
少しいきたいところがあるから家に帰った方がいいよと言ったのに聞いてもらえなかった。
「もう少しぐらい低いところからかと思っていたんだけど」
「そのときは疲れていてね」
風が吹いていたのもあって踏ん張ることができなかったのだ。
でも、こうして改めて見てみると確かに高いのでよく生きていたなと。
「俺はちょっとあっちにいってくるから勝手に帰らないように」
彼女には見えていないから頷いたらあずさちゃんも頷いて向こうへいった。
「ん-柵がない階段って危ないよね」
「まあ、外側を歩く人は怖いかも」
「神社の階段とかもたまに怖くなるからなあ」
神社とか全然いかないから分からないな。
あれからは余裕なときでも手すりを使うようにしているから心配しなくて大丈夫だ。
「一緒に寝ていたからかな、夢の中に咲が出てきたんだ」
「はは、急だね」
「そのときもこんな階段を二人で上っていたんだよ。だけど途中から咲が急に消えちゃうの、慌てて探してみても見つからないままでね」
階段から落ちる夢とかは見たことがない。
ただ、なにかから逃げている夢とか、ボールを投げづらい夢とかは見たことがある。
なんであんなにふわふわしているのだろうか。
「私は階段を上ったり下ったりしているときにふざけたりはしないよ」
「そう、だから落ちたんじゃないかって思って見てみたら……なんか急に別のシーンになっていたんだ」
「はははっ、夢なんてそんなものだよね」
見覚えがない変な空間と、変な人と出会ったりしているときもあるものだ。
記憶の整理とかなんとか聞いたことがあるけどいったことがない場所が出てくるのはなんでなのか。
「だから起きたとき、咲の顔が見られて安心したよ」
「嘘つき、ふみの中には朝ご飯を食べることしかなかったでしょ」
「いや本当だからっ」
この二人並べる……ぐらいで狭くて危ない場所から移動してから盛り上がることにした。
自分が落ちるならいいけど彼女が落ちてしまったら嫌だから。
「あとね? 夢の中の咲の肩辺りに黒いモヤモヤが見えてね」
「ちょ、怖いからやめてよ」
とは言いつつ、それはあずさちゃんなのではないかと想像していた。
大きさとふわふわ浮かべること、それだけで人間ではないなにかだということは分かる。
「最近、疲れやすいとかそういうのないよね?」
「ないよ」
仮に疲れてもそれは無駄に体を動かしているからでしかない。
やっぱりこの傷痕を見ると掴んでから、うん。
「もう飽きた」
「はは」
「ん?」
「あ、いや、ふみが凄く不安そうな顔をしていたから面白くてね」
「なにも面白くないから」
あずさちゃんって小さい頃の私みたいだなあ。
〇〇を見たいからと家を出たのにいざ実際にその場所に着いたらすぐに飽きてしまう感じ。
「家まで送るよ」
「まだ解散にしたくない」
「どれだけ私といたいのさ」
「咲は私といたくないの……?」
いやいや、これで終わりというわけではないのにここでもそんなに不安そうな顔をするのか。
先程、意地でも別れなかった理由が分かったのはよかったものの、すぐに返事をすることができなかった。
友達も多い子なのにこういうことが多いんだよね。
「分かった、それでもふみの家にいこう」
「咲がいてくれるならいいよ」
これではまるで彼女の方に私しか友達しかいないように見えるけどそうではない。
「咲人形が欲しいなあ」
彼女は少し冷静になった方がいい……。
それに、人形ばかり求められるようになっても嫌だろう。
私なんて会おうと思えば五分以内に会えるのだから我慢してほしい。
「はい」
手を前まで持ってくると――あ、小さくて可愛いぬいぐるみだ。
なにかのキャラクターだろうか? というか、あずさちゃんもそういうのに興味があるのか。
「ね、ねえ、それって咲?」
「えっ? ふみ、これが私に見えるなんて病院にいった方がい――」
「ちょうだい!」
元々、可愛い物好きだから違和感はない。
でも、全然似ていないのに私だと判断してしまうのはどうなのか。
「も、もーこうやって作ってくれているなら早く言ってよー」
「ふみ、私にこういう物を作れる能力はないって分かっているでしょ?」
「じゃあこれ市販の物?」
ふわふわ浮いているあずさちゃんを見てみたら「そうだと答えておいた方が楽でしょ」と。
頷いたら「そのお店教えて!」と言われてしまい、二人で困ってしまった。
なにが彼女をここまで動かしているのか。
「ならこれで」
これは……ふみだな。
あずさちゃんはすごいけどどんどんと不思議な存在となっていく。
「ちなみに、ふみに似ているのもあったからか、買ってきたよ」
「え、全然似ていないよ、私はここまで可愛くないし」
なんだそりゃ……。
お互いに心配になってしまうような変な時間となったのだった。
「わぷ……最近はどうしたの?」
「別に」
あれからというものの、あずさちゃんが顔に張り付いてくることが多くなっていた。
十二月になっていてもうすぐ冬休みというこの状態はいいことなのに謎なことも多いわけだ。
もしかしてもう片方の腕からは女の子が現れる! みたいな?
「出てこーい」
「なにやってんの?」
「い、いや、私になにか期待しているからあずさちゃんはここにいるんだよね?」
「前も言ったけど暇つぶしだよ」
周りからは見えなくても私からは目を塞がられているみたいな状態になってしまうので離れていてほしいけど。
家や学校でどうしたって階段を上ったり下ったりしなければならないわけで、また落ちてしまいそうだった。
「咲ー学校にいかないと遅れちゃうよ?」
「あ、もういくよ!」
放課後にまたどこかに連れていってあげればいいか。
早くも後悔していて元の場所に帰ってしまう、なんてことになる前に。
あと、できればふみにも見えるようになってほしいかな。
ふみといるときでも普通に話しかけてくるからどう反応すればいいのか困るからだ。
「そんなにあの女が好きなら俺と同じような見た目に――」
「ふみになにかしたらあずさちゃんが相手でも怒るよ」
「ふん、ただの冗談なのにそんなにガチで反応するとか馬鹿じゃないの」
うぐ、ともならない。
なんたって彼は人間ではないからだ。
不思議な能力を持っていることはこの前のことで分かっているし、ふみが関係してくるのであれば気を付けておくぐらいでいいのだ。
「もしかして好きなの?」
「好きだけど?」
「そうじゃなくて、そういう意味で求めているのかって聞いているわけ」
「流石にそこまでじゃないでしょ」
「なんか変な答え方だね」
うん、自分でもよく分かっていないところだからいまみたいな答え方しかできなかったのだ。
まあ、あの子はずっと優しくしてきてくれたから好きになってしまってもおかしくはない。
「ね、あずさちゃんには私にとってのふみみたいな子はいないの?」
「いる」
お、いるのか。
んーだけどそうなると私のところにいて無駄に時間を使うのはもったいないとしか言いようがないぞ。
「私、会ってみたいな」
「いいよ、じゃあまた学校が終わったら」
「咲ー!」
あ、あぶな……なんとか受け止められてよかった。
私が避けたり、受け止めきれないときのことを考えてから突っ込んだ方がいい――いや、突っ込まないで普通に近づいてほしいね。
「よかった、また黒いモヤモヤが見えて慌てて走ってきたんだよ」
「ふみさん、そういう冗談は駄目でしょ?」
「いや本当なんだって!」
あずさちゃんの方を見てみたらぷいと違う方に意識を向けられてしまった。
やっぱりあずさちゃんか、それなら全く怖くないな。
「そうだっ、今日の放課後はあやささんと約束をしているから咲も予定を空けておいてね」
「あ、ごめん、私今日は用事があるんだよ」
「一人でいる咲に用事~……?」
「ちょ、そりゃ用事ぐらい一人でいようとあるでしょ、できるでしょ」
なんか悲しくなるから疑ってくれるな。
約束をしたならちゃんと守らなければならないのだ。
なので、仁科さんとは二人で楽しくやってもらいたかった。
「別によかったのに」
「先に約束をしたのはあずさちゃんだからね」
というか、気になるから駄目なのだ。
このままだと五時間ぐらいしか寝られなくなってしまう。
「咲」
「お、初めて名前で呼んでくれたね? どうしたの?」
「俺にとってのあの女みたいな人はさっきの……」
「ふみ……じゃなくて仁科さんってこと!?」
ああ、頷かれてしまった。
マジか。
「あのときあずさちゃんもいたけど見えていなかったよね、どうにかできないの?」
「分からない、なんで咲に見えているのかも分からない」
やっぱりあれかっ、実は腕の傷以上のダメージを負っていたのだ。
それこそ私がいつ消えてもおかしくはないから一緒に過ごしたい人と過ごしておこうと決めた。
「ふみー今日の放課後、やっぱり参加していい?」
「ふっふっふ、もー素直じゃないんだからー最初からそう言いなよもー」
「え、なんでそんなに嬉しそうなの?」
「べ、別に咲が参加してくれることになって喜んでいるわけじゃないんだからね?」
「それこそ素直になりなよもー」
なんとかしなければ。
普通に話せるぐらいにはしてあげたかった。




