03
「流石にちゃんと話して新しいのを買ってもらったんだね」
「いや、仁科さんが貸してくれたんだよ」
「え、なんで?」
私もそう思ったけど断れる感じではなかった。
同じ条件で昔、友達が困ってしまったから~的なことがあったのだろうか。
腕のこともバレてしまっていたし、あれだと私のことが知りたくて連絡先を交換したみたいに見えてきてしまう。
「まあ、細かいことはいいか。またメッセージを送ることができるのなら嬉しいよ」
「その点も仁科さんは不思議なんだよね。ね、私は会ったことはないよね?」
「多分?」
忘れてしまっているとかなら申し訳ないから思い出したいところだ。
「あれ、もしかして仲良くしたい?」
「こうして出会ったのならそうだね」
どこに住んでいるのかももう知ることができたのでいくのは楽だ。
それに仁科さんの家もお店をやっていて、古本屋さんとなっているから会いづらくなるわけではないと思う。
「じゃあ積極的に誘ってみなよ」
「そのとき、ふみは?」
「そりゃいるよ、二人だけでこそこそしすぎるのは禁止だからね」
よかった、あっちもそっちもと求めたくなるのが私だからね。
放課後になったら二人でいってみようと決めた、のはよかったけど落ち着かない一日となってしまった。
それでも、そわそわしすぎて先生に怒られてしまった、なんてことはなかった。
「「こんにちは」」
お店の中にお客さんは一人もいない、なんなら店員さんであるはずの仁科さんもいない。
お店が閉まっているのに勝手に入ったとかでもないから特に気にしないで本を見ていると「いらっしゃいませ」と仁科さんが出てきてくれた。
「あやささん、咲になんでスマホを貸したの?」
「それはいつでもすぐに連絡できるようにしておかないと危ないからです、特に女の子は気を付けすぎなぐらいがいいんです。なのでふみさん、あなたもちゃんと携帯を持ち歩いてくださいね?」
「は、はーい」
なんかいいな、こういう大人の知り合いがいるって。
ちゃんと注意してくれて、だけどそれだけではなくて普通に仲良くできる。
どれぐらいかは分からないものの、ただすれ違うだけの他の人とは違う。
「ソーシャルゲームをやりすぎて肝心なときに使用できない、みたいになってしまったら駄目ですからね?」
「わ、分かったからこれ以上は……」
「ふふ、分かってもらえたならそれでいいです」
特に本が好きというわけではないけど続いてほしいからなにか一冊買っていくか。
小難しすぎると開いた瞬間に終わるからどれがお勧めか聞いてみた。
そうしたらすぐに「これはどうですか?」と持ってきてくれたから買うことに。
ここでも開いたら駄目だ、勢いだけで買わなければいけないときもある。
「えー咲が読書とか似合わない」
「余計なお世話。これ、帰ったら読んでみますね」
「はい」
じゃあ……これ以上は邪魔にしかならないから帰ろうか。
「新さん――あ、ふみさんもそうですけど今度またお家に遊びに来てくださいね」
「なんか私のおまけ感がすごい……」
「そ、そんなことはないですよ。ありがとうございました」
年下というのも嘘、会っていなかったというのも嘘……。
なんでこの子はそんな嘘をついたのか。
「ふみ、本当は仁科さんのこと隠しておきたかったの?」
「え、全くそんなことはないけど。ただ、そのまま情報を伝えてしまったら『はあ』と言われちゃいそうだったから嘘をついたんだよ」
「私、二回目に会ったとき仁科さん相手にため口で話しちゃって迷惑をかけちゃったんだけど……」
スマホのことで両親に謝罪できていないし、そのことで仁科さんに謝罪できていない。
前々からそうだけどメンタルが弱すぎる。
でも、感謝を伝えたり謝罪をしっかりできなくなったら人として終わってしまうから弱メンタルを言い訳にして逃げ続けているわけにもいかないのだ。
今度、二人きりになれたらしっかり謝ろう。
「そんなの気にしなくていいよ、寧ろ頑なに敬語を使い続けるよりよくない?」
「じゃあ仁科さんに直してほしいと思っているの?」
「当たり前だよ」
本人が貫き続けているのならとやかく言うべきではないと思うけどね。
「誰かさんがすぐにやめてくれなかったことを思い出したよ」
「それって私のことか」
「それしかないでしょ、あやささんのことならちゃんとそう言うよ」
陽キャラの彼女と陰キャラの私だから仕方がない。
それでも、沢山食べれば彼女みたいになれると信じてパクパクしすぎていたときがあったものの、お腹が痛くなるばかりで比較的すぐに諦めてしまった。
「それにいつまでも咲の方から来てくれなかったからね」
「警戒していたんだよ」
「同性相手に警戒とか一番無駄でしょ」
きょ、今日は厳しいな。
先程まで楽しそうだったのにいまの彼女は少し怒っているようにすら見えた。
喧嘩なんかはしたくないから「ごめん」と昔のことを謝っておいた。
今日は珍しくクラスの子と話すことが多くて楽しかった。
いつもなら同じ場所で学ぶだけで終わってしまうぐらいの距離感なのにね。
授業で色々な子と話せるようになっているのはいいと思う。
もっとも、弱メンタルだから終わった後の疲労感はすごいけども。
「ふみ、一緒にご飯――」
「知らない」
おいおい、どうした。
授業中なんかこっちにまで聞こえるぐらいの声で楽しそうに話していたというのに不機嫌みたいだ。
これでは前に謝罪をしたことが無意味なものとなってしまう。
ふみという女の子と話せるからこその余裕だというのに前提が崩れてしまったら真っ逆さまだぞ。
でも、理由も分からずに何度も構ってもらおうとする行為は逆効果にしかならないから今日は一人で食べよう。
「んーお肉は力をくれるよねえ」
疲れた体には特に効く。
全ての時間、強制的に人と話さなければならないわけではないからこれだけで十分だ。
あと二時間、集中して頑張ればまた土日がくる。
「てい」
「もーなにか不満があるならちゃんと言葉にしてよ」
「……他の子と楽しそうだった」
「それならふみだってそうだったでしょ」
まあ、彼女とばかりしかいない私にも責任――あるか……?
それにこの子は私といつつも他の子と楽しそうにしているなんて当たり前のことなのに。
「同性の子が相手のときだけトーンが上がっていた」
「そりゃ、男の子と話すときにいきなり同じようにはできないよ」
相手もそうだろうけどやっぱりなにも知らないと怖いからね。
ただ、二人ぐらい話す機会があったのはよかったかな。
可愛い子と格好いい子と話せたのもまた面白かった。
「どうせあやささんとも楽しくやり取りしているんでしょ?」
「送ってきてくれるから返すを繰り返しているよ」
「ほらまたそうやって相手が動いてくれる前提でいるんだから」
少し面倒くさい彼女か。
「ちゃんと相手をしてあげるからふみも送ってきなよ」とか言ったら怒りそうだ。
「今日また泊まるから」
「うん、それならご飯を作ってあげるよ」
「……自分で言うのもなんだけどよく受け入れてくれるよね」
「え、だってふみと夜までいられるなら嬉しいよ」
多少面倒くさいところがあるのは人間だから仕方がない。
一方的に支えられている身としては偉そうに言えないのもあった。
あとはできることは受け入れておけば来てくれるかもしれないという下心があるからだ。
「この前のお肉、美味しかったよ」
「我慢してよかったでしょ?」
「うん、お父さんもお母さんも嬉しそうだった」
そう考えると両親とも食事だけは当たり前のように一緒にできているというのが嬉しいな。
まあ、まだまだ寂しがり屋で甘えたいからもっといてほしいけどお店があるから仕方がないと昔と違ってしっかり片付けられている。
「あ、でも、ふみがいてくれるならふみが作ってくれたご飯が食べたいな」
「泊まらせてもらうんだからいいよ」
「うん、ありがとう」
冬だからお味噌汁はあってほしいな。
あれをズズズと飲んで、はあ~となれると幸せになる。
具沢山のお味噌汁がいいからスーパーにいこうか。
「早く一月になってほしいな」
「え、クリスマスとかお正月とかはいいの?」
「だって咲のお誕生日があるから」
おお、そうだったか。
誕生日が休日ならお昼は彼女がご飯を作ってくれて、夜になったら両親が作ってくれたご飯を食べられて幸せだ。
そうではないときでも毎年なにかしらのプレゼントをくれるからありがたい。
ちなみに、去年は私が求めた勉強道具セットだった。
「はは、早生まれだからそれでも同じラインに立てるだけだね」
「いつまでも近くにいてほしい」
「あれ、告白をされちゃったよ」
スルー……。
でも、いつまでも少し先を歩いてもらいたいところだった。
間違っても追い越してしまうなんてことにはならないでほしい。
元気でいてくれれば最悪、一緒にいられなくてもいいから。
「ふみ?」
「咲のせいでお肉が食べたくなってきちゃった」
「ふふ、残念ながらもうお肉はないんですよ」
大好物を最後まで残しておけるようなメンタルはしていない。
なんなら真っ先に食べて、後から「残しておけばよかった……」と考えてしまうの繰り返しだ。
「今日スーパーにいってお肉を買う」
「この前のあれの味を忘れられなくて困りそう」
「私はお肉なら安い物でも美味しい美味しいと食べられるよ」
「うん、それは私も同じ」
量より質ではなくて質より量だ。
酷すぎる物は流石に食べられないけどスーパーなんかにそんな低品質な物は置かれていないから心配する必要もない。
あと、意外とお菓子とかは食べないからちゃんとしたご飯でお腹を満たしたかった。
すぐにむしゃむしゃ食べてしまう彼女とはここも違っていた。
「誘ってくれてありがとうございます」
「いえ、参加してくれてありがとうございます」
約束通り、ふみはご飯を作ってくれている。
それと誘ったのはふみだからお礼を言うならあの子に言うべきだと思う。
「ここが新さんのお家なんですね」
「はい、少し狭くてすみません」
「全くそんなことはありませんよ」
奇麗な人だなあ。
恋より食い気のあの子ではなかったらとっくの昔にやられていそうだ。
「あの、なにかついていますか?」
「いえ、ただ少し気になっただけで、はい」
「もしかして眼鏡が気になりますか? ふふ、かけてみますか?」
「え、あ、そうですね、少し……」
借りてかけてみるとすぐに気持ち悪く感じて返すことになった。
お礼を言って俯く。
「はは、眼鏡を使用しなくてもいい新さんからしたら違和感がすごかったでしょうね」
「やっぱり疲れますか?」
「そうですね、そういうのはあります。でも、小さい頃からずっと使用しているので慣れてしまいました」
まあ、不満をぶつけたところで視力が急激によくなったりするわけではないか。
でも、こう言ってはなんだけど眼鏡が凄く似合っているんだよなあ。
奇麗で長い黒髪というのもそこに繋がっている。
学生時代なら生徒会長なんかをやっていそうだった。
「咲ーちょっと来て」
「あ、うん。いってきますね」
「はい」
なにも手伝わないというのも微妙だったからこれはありがたい。
近づくと「やっぱり咲もここにいてほしい」とのことだったので格闘する必要もなくなった。
「一緒にやろ?」
「うん」
とはいえ、出しゃばりすぎると彼女の味ではなくなってしまうから意味がなくなる。
ズル休みだと判断されないように、また、出しすぎないようにするのはなかなかに難しかった。
結果、それなりに体力を使用してしまったものの、いい感じの物が出来上がった。
「運びますね」
「はは、あやささんいいとこ取りだね」
「こ、これぐらいはやらないと――」
「落ち着いて、こんなの冗談なんだから流せるようにならないと」
「もう……」
いつもなら待つところだけど今日ばかりは二人と一緒に食べてもいいだろう。
いやよくいつもの私は我慢できていたな、ギリギリに作っていたとはいってもすごいぞ。
悪ところばかりではないというのは安心できる。
「それじゃあ、いただきます!」
「「いただきます」」
うん、味付けがしっかり違っていていい。
彼女は結構甘くしたがる癖があるのでしょっぱくしたがる私のと違うから新鮮だ。
「美味しいです」
「よかった」
「咲さんも作れるんですね」
「はい、いつも夜だけは両親の代わりに作っているんです」
今度、ちゃんと一人だけで作ったご飯を食べてからにしてもらいたかった。
今回のこれでできる判定は少し寂しい、気になるから。
「見習わなければなりませんね……」
「ひ、人によって得意なことと苦手なことがあるんだから無理をしなくていいんだよ」
なんでここでこんな顔を……?
あ、得手不得手があるというのは事実だけどなんかそれ以外のことも含まれていそうだ。
「でも、本人が頑張りたいなら応援してあげないと」
「こら咲っ」
「そうですよね――今度お二人がお家に来たときに美味しいと言ってもらえるように頑張ってみます」
「うわあ……もう知らないからね……」
だからなんでなのか。
それきり、食べることに集中されてしまったから答えを知ることができなかった。
食事なんか大体は三十分とかからずに終わってしまうもの、みんなでやっても効率が悪いから順番にお風呂に入ってもらうことにする。
「一番目はあやささんでいいよ」
「それならすぐに出てきますね」
「ゆっくりでいいですから」
「そうですか? とにかく、入らせてもらいますね」
共通の友達がいるのだからもう少しぐらいは緩く存在していてもらいたいところだ。
「私は咲と入るー」
「別にいいけど乾かすのは自分でやってよ?」
「うん」
いや待て、これだとどこか仲間外れにしてしまっているみたいではないだろうか。
いまから突撃はできないけど今度はちゃんと確認をしよう。
「成長しているのかどうかを確かめなければならないからね」
「成長していません」
していたら定期的に胸の辺りに手を当てて「はあ~」と大きなため息をつく必要なんかないんだよ。
それを見てきているのに意地悪な子だ。
「なんか……悲しくなっちゃった」
「余計なお世話」
胸がなくたって生きていける。
元気ならそれでいいだろうといまは言いたかった。




