第9話【義妹とウィンク】
学校に着くと先に家を出ていた桃花は既に教室にいて、多くの友達に囲われていた。
流石はクラスで一番かわいい子と評判なだけあって俺とは対極のような存在だ。
「…………」
「……っ!」 パチン!
何て思って桃花を横目で眺めていたら目が合って、桃花からウィンクが飛んできた。
俺はそのウィンクを思わす避けるような動作を取り桃花と関係がない振りをした。
「お、おい! 吉田。今白根さんが俺にウィンクしてくれたぞ!」
「いや馬鹿! 山田。今のウィンクは俺にしてくれたんだよ!」
あぶねー一瞬、ドキッとした……。後ろではクラスメイトがどっちが俺にウィンクをしたのだと盛り上がっている。
まったく、桃花は何を考えているんだ。
「…………」チラ
「むぅ……」
すると、桃花は何故かムスッとした表情をしながら俺を見ていた。
それも俺は無視をしてなんとかこんな感じで午前中の授業を乗り切ったのだ。
そして、昼休み。
「ゆ、悠木くん!」
「……桃花さん」
学食へ向かおうとする俺を桃花が廊下で呼び止めて来た。
一体なんだろう?
すると、桃花は朝からの不満をぶつけるように俺に言った。
「何で無視するんですか……」
「無視って……いや、だって、今までただのクラスメイトだった俺がクラスの人気者の桃花と親しくしたら、おかしいだろう?」
しかし、俺の言葉を聞いても、桃花は寂しそうに上目遣いでこう答えて来た。
そして、その青い瞳には涙が溢れそうになっていた。
「それは……家族なのに?」
なんだこれ? もしかして、泣きそうになっているのか?
何でこんなことで――
「吉田! 学食で何食べる?」
「山田! そんなの焼肉定食っしょ!」
――ヤバイ! 後ろからクラスメイトが来た!?
こんな瞬間誰かに見られたら俺がクラスの人気者を泣かせたと勘違いされる!
「ちょっと、こっち来い!」
「へ? ひゃぅ!」
そして、俺は廊下の端に設置されていたロッカーの中に桃花を抱きしめて一緒に隠れた。
「吉田が焼肉なら俺も焼肉定食にしようかな!」
「おう、山田も今回は焼肉っしょ!」
「…………」
「むぐぐ!」
ふぅ、良かった……なんとかあの二人には見られずに済んだようだな。
そして、俺は抑えていた桃花の口を開放した。
「ぷはぁ! ゆ、ゆうくん! 突然ロッカーの中に押し込むなんて酷いです!」
「それはゴメン……だけど、状況があまりにも悪かったから……」
すると、何か手に柔らかい物が当たった。
「ひゃう!」
「え……」
確認すると、俺の左手が桃花の胸に当たっていた。ヤバイ! このロッカーが狭いから手の置く場所が……っ!
とりあえず、ロッカーから出ないと!
「すまん! ゴメン! 悪気はなかったんだ!」
「そんな、ゆうくん……わたし心の準備ができてないです……!」
ロッカーから出ると桃花は恥ずかしそうに胸を押さえていた。涙は引っ込んだみたいだ。
因みに、心の準備ができていたどうだというのだろう……?
「本当にすまない……桃花さん」
「……ゆうくんは、そんなにわたしと一緒にいるのが嫌なんですか?」
「いや……そういうわけじゃないけど」
すると、再び桃花は泣きそうになりながら俺の目の前に立ちふさがった。
「じゃあ、何で無視するんですか? わたし……悠木くんに無視されるの寂しいです……」
そういうと、桃花は俺の胸に額を押し付けて、か弱い手で俺の胸元を掴み涙をこらえるような声でつぶやいた。
「せっかく家族ができたのに、またいなくなっちゃうみたいで……寂しいです」
「桃花……」
そうか、桃花の家は父親の不倫で離婚した家庭だ。なのに、せっかく新しい家族になった俺が学校で素っ気なくした所為でそれが父親と重なってしまったのだろう。
「ゴメン。桃花……やっぱり、学校でも『ゆうくん』って呼んでくれないか?」
「ゆうくん……はい!」
学校で桃花と距離が近くなって困るのは俺だけの問題だ。桃花が苦しい思いをするくらいなら、俺が支えてあげるのが……お義兄ちゃんだもんな。
「因みに、ゆうくんは何でわたしのことを避けていたんですか?」
え、それ答えないとダメ?
まぁ、桃花に嫌な思いをさせた罰として正直に答えるか……。
「……かわいいさに俺が耐え切れないんだ」
「ふぇ? 何ですかそれ?」
「だ、だから! 学校では桃花が可愛すぎるから照れちゃうんだよ!」
「それって……アハ、ゆうくんってば馬鹿みたいです♪」
ああ、そうだよ! バカみたいな理由だよ! だけど、男の子ってそういう生き物なの!
すると、最後に桃花は全てを許すようにこう言った。
「もう、しょうがないですね……。わたしのお兄ちゃんは」
だから、学校ではお兄ちゃん禁止だろ……
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