表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第七章:悪魔の巣穴(中東)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/86

第77話・リスト

「こいつが味方だって?」


 そもそもこいつは、オレを拉致した張本人じゃないか。とてもじゃないが、味方などと思いたくもない。


「まあ、そんなわけで、藤堂さん。約束は覚えてます?」

「……壁に頭打ちつけて忘れたいぜ」


 約束とは、オレたちが逃げる時に、この男も連れて行く事。さらには、NATOか米軍に保護を求める際、彼も拉致被害者だと偽証する事まで含んでいた。


「なら、妹さんの頭も打ちつけるのですか? 彼女も知っていますからねぇ。あ、手伝いが必要なら言ってください」

「……お前、本当に性格悪いな」

「褒めないで下さいよ、藤堂さん」


 だが、その見返りは大きい。オレが偽物だという事実を、ハリファに知られないよう情報を操作する事だった。 


 正直かなり助かる取引だ。ハリファに流れる情報をコントロールするだけで、オレたちの生存率と行動範囲は格段に広がる。


 タブレットの男の言動はほぼ信用できない。だが、一つだけ確かな事があった。それは、この傭兵部隊と繋がりがありながら、オレや穂乃花に関する情報を一切もらしていなかった点だ。


 決して義理堅いとは思わないが、この一点に関しては、約束を守っている証明と言える。


「これをお渡ししておきましょう」

「ん?」


 彼はタブレットからマイクロSDカードを抜き取り、オレに手渡してきた。


「これがあなたに支払う対価です」

「こんなもの、どうしろと……」

「ドゥラに関するデータのバックアップです。あなたのお仲間が欲しがっている情報があるかもしれませんよ?」


 無意識に視線が流れた。『この中の誰が?』と。タラールやアスマが欲しがるとは思えない。リーダーやキングはデータより破壊を好むタイプだ。可能性があるとするならジャックだが…… 


「いえいえ、違いますよ。皆さんを見ても無駄です」

「はあ?」

「日本にいる、あなたのお仲間です」

「なんでお前が……!!」


 望月部長や言問先輩の事を、なぜこいつが把握しているのか。オレの大事な人たちを、まだ巻き込むつもりか――そう思った瞬間、怒りが爆発した。気づけばタブレットの男の胸倉を掴み、拳を振り上げていた。


「まあ、落ち着いてください。私は協力者ですよ」

「どっちの協力者かわからねぇけどな!」


 この期に及んで平然としているタブレットの男。オレが殴らないと高を括っているのだろう。その飄々とした態度が、無性に苛立たしい。


「オレに殴られない理由があるなら言ってみろ!」

「そうですね。では、これが理由です」


 タブレットの画面が、オレに向けられた。人の名前の羅列……なんのリストだ?


「そのSDカードにも入っている中で、最も重要なデータです。まあ、あなたが活用できるとは思えませんが」


 いちいち嫌味を交える言い方が、神経を逆撫でる。素直に『日本に送れ』と言えばいいものを。


「おい、タブレット」

「酷くセンスのない呼び方ですね。私には張飛(チャン・フェイ)という名前があるのですが」

「また嘘くさい名前を使いやがって」


 張飛は三国志の武将。日本の子供でも知っている名前を偽名にするとは、ふざけているとしか思えない。


 ……物語のように、仲間に裏切られて死ぬぞ。


「おい、張飛」

「あれ? 私のほうが目上だと思いませんか?」

「クソッ……張飛さん」

「はい、なんでしょう? クソは余計ですが」


 ……ほんっとこいつは、嫌味を混ぜないと会話ができないのか?


「このリストはなんだ?」 

上海(シャンハイ)の医美ですよ、闇医者ですけどね」

「医美?」

「ああ、失礼。医療美容です。日本では美容整形と言いましたか。アイドルさんもよく利用していますよ。その筋では有名な医者ですね」


 アイドルの整形疑惑なんて、世界中どこにでも転がっている話だ。今さらそんなリストが出てきても、特に驚きはしない。 

 

「それがどうしたってんだよ」


 張飛はリストの一か所をトントンと指で示し、得意げな笑みを浮かべて言った。


「ここ、見覚えありませんか?」


 ……そこに書かれていた名前は[Takao(タカオ)Kadohashi(カドハシ)]。見覚えどころか、忘れようのない名前だった。


「数年前に病死した、会長の次男だ」

「ん~、残念。五十点です」

「どういう意味だよ」

「生きていますよ。別人になって」

「なっ……」


 死んだはずの男が生きている? しかも整形して別人に成りすましているというのか。


「ね、ここであなたが知っても意味のない話でしょう?」


 悔しいがその通りだ。砂漠の真ん中で一億円の札束を抱えていても意味がないように、このデータと今の話は、オレが持っていても役に立たない。


 そもそも、どこまで重要なのかもわからないし……これは、望月部長に預けるのが最善手か。


 張飛はオレの表情を読み取ったようにニヤリと笑い、別の名前を指した。


「……エイブラヒム? これは誰だ?」

「ま、わからなくても仕方ありませんが……ですが、あなたもよく知る人の名前です」

「だから、誰なんだよ!」

「それはまだ教えられません。知らないでいてくれた方が、皆のためです。まあ、すぐにわかるでしょうけど」


 ここまで話を広げておきながら、最後は『教えられない』ときた。肝心な部分はうやむやのまま。粗末なB級映画を見せられた気分だ。


 ただ、一つだけひっかりを覚えた。『知らない方が皆のため』という部分だ。オレが、『エイブラヒム』と口にした瞬間、周囲の雰囲気がわずかに変わった気がした。よほど重要な人物なのだろう。もしかしたら、誰かの過去に関わる名前かもしれない。


 もしそうなら不用意に首を突っ込むべきではない。時がくれば、彼らの方から話してくれるはずだ。


「あ、そうそう。よろしければ紹介しますよ、腕のいい医療美容師」

「……いらねぇよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ