表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/87

第68話・魔法のお茶

「あの、それで……」


 織田さんが、たまらずと言った表情で口を開いた。


 ここまでずっと黙って聞いていた彼女は、技術の話や政治の裏側に口を挟めず、じっと耐えていたのだろう。


 それでも、不安をこれ以上煽られては、さすがに我慢の限界だったらしい。


「この状況から、零士クンを助け出す事はできるのですか?」

「大丈夫、可能性はまだあります」


 正直なところ、自信があったわけじゃない。目の前にいる織田さんが妙に(はかな)げに見え、とにかく元気づけたい一心から出た言葉だった。


「ですが、彼のと同じHuVer(フーバー)が二十機も……」

「まったく同じって事はないですよ。彼の機体には優位点がいくつもあります」


 俺は織田さんを不安にさせないように、努めて柔らかく微笑みながら『大丈夫です』とつけ加えた。しかし視線が合うと、彼女は笑うとも泣くともつかない複雑な表情を浮かべて、そっと目を逸らす。 


 ……きっと、色々な感情が混ざって、一気に押し寄せたのだろう。


「零士君が乗っているHuVerは、圧倒的な防御力を持っているんです」

「……?」

「レーザーピーニング技術って言って……えっと、とにかく堅いのです。溶岩流の中でも耐えられるんですよ!」


 ――白い機体の装甲は、防御構造の理想完成形だった。


「あの装甲はコストが高すぎる上、製造にも時間がかかるんです」


 特殊技術で硬質化された超硬合金を二枚重ね、その間に衝撃吸収ジェルを挟み込んだ装甲。


 これはダメージを受けた際に、一枚目の装甲が衝撃を受け、内部のジェルが減圧・分散し、二枚目の装甲が完全に吸収するという圧倒的な剛性と吸収性を実現している。


「だから、事前に準備されていたとしても、装甲だけは量産不可能なんです」

〔藤堂の推察は当たっていると思うぞ。NATOに提供した機体は、一般的な軍用機と同じ高抗張力鋼だろうな〕


 高抗張力鋼は、戦車や軍用HuVerに使われている硬質素材。だが、白い機体の装甲は、“それ以上”どころかもはや次元が違うレベルにある。


〔零士の機体は、ミサイルの直撃でも食らわなければ問題ない。そもそも、たかだかHuVer一機にミサイルを撃ち込むなんて、そんな無駄な事はしないだろうよ〕


 その時俺は『そうでもないですよ』と口走りそうになった。慌てて言葉を飲み込む。こんな事を言っても、皆を不安にさせるだけだ。


 ……八神はそんな俺の心情を察したのか、目が合い、互いに苦笑してしまった。


 部長が口にしたのは一般論であり正論だ。だが、ついさっきミサイルを向けられた俺たちは――やはり戦場は、机上の想定を遥かに超えるものだと、改めて思い知った。


「この後、部長たちはどうするのです?」

〔このまま河口湖のホテルに泊まる予定だ。実は明日の午後、河口湖のホテルで総理に会う。支援団体による“岸破茂夫君感謝の集い”って事になっているが……ま、俗に言う政治資金パーティーだ〕

「それなら部長……」

〔ああ、少し探りをいれてみる〕

「十分、警戒してくださいね」


 部長は『黒帯なめんなよ?』と笑いながら通話を切った。美郷さんと葵ちゃんは六木(ロッキー)さんに預け、単身で動くらしい。


 部長は部長の考えで動いているのだろうけど、俺は、巻き込んでしまった気がして……申し訳ない気持ちでいっぱいだった。







 チョロロロロ……


「おい藤堂、起きろ!」

「ぶおっ!」

「魔法のお茶だ。目、覚めただろ?」

「普通に起こせよ……」

 

 疲れが溜まっていたのは確かだった。部長との話が終わると、俺たちはすぐに眠りに落ちていた。きっと熟睡していたのだろう。これでは、トリスが繋がっても気がつかなかったかもしれない。


 濡れた額を拭いながら、スマホの画面に触れる。暗闇の中にボワっと時刻が浮かびあがった。


「……丑三つ時じゃないか」

「普通に二時っていえよ」

「で、なんだよ?」

「外の様子がおかしい」


 ……言われてみれば、近所の犬が激しく吠えている。昼間の事もあって胸騒ぎを覚えながら、カーテンを揺らさないように細い隙間から外を覗いた。


「なあ、あれって、お前の部屋を襲撃したヤツらの仲間じゃないのか?」


 闇に支配された夜中の商店街に、街灯の微かな光が抵抗している。そこには、昨日の昼にお世話になった黒服が、ぼんやりと照らし出されていた。


「なんでここに?」

考察(それ)は後だ、夏希たちを起こしてくる。灯りは点けるなよ」


 八神はそう言い残すと、足音を殺して廊下へ飛び出した。


 今はとにかく逃げる準備が最優先だ。それは十分わかっている。しかし『考察は後』と言われても、自然と考えは()()()向かってしまう。


 俺も織田さんもスマホの電源は切っていた。部長との通話も細心の注意を払っていた。どうやってもこの場所は特定されないはずなのに。


「……どうして、ここがわかったんだ?」


※ レーザーピーニング技術

材料表面にレーザを照射することで、表面層に圧縮残留応力を付与する技術。ザックリいうと、堅くなる。


※ 高抗張力鋼

ニッケルやクローム、モリブデンなどを含んだ合金。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ