第67話・極めて高度な……
〔最新型か。多分、零士が設計したHuVerの事だろう〕
記者会見を聞き終えた望月部長は、冷静に、豊富な知見に基づく推察を語り始めた。
〔次世代機ともなれば、世界各国でキャンペーンを打つだけの価値があるからな。現地プロモーション用に二、三十機程度は製造してあってもおかしくはない。企業戦略的には、そのくらいの予算は計上しているもんだ〕
「……その機体をNATOに提供した、と?」
〔ああ、いまさら10式を『最新型』などと呼ばないだろ〕
日本における最新鋭HuVerとは、自衛隊主力機であるHV-J10式、通称10式の事だ。しかし、それが配備されてからすでに十六年が経過していた。
古い型落ち機——そう聞こえるかもしれない。だが、その性能は今なお一線級を維持している。一部の国からは『仕様書よりも実性能が遥かに上回る』と皮肉を込めて『カタログ・スペック詐欺』と称され、逆に称賛の的となっているほどだ。
それでも、角橋が今回開発した新型機は、基本性能も拡張性も、明確にそれを凌駕していた。
電装パーツの精度向上、フレーム素材の剛性強化、そして化石燃料と電気を組み合わせたハイブリッド動力機構。これらが、その優位性を支える主な要因だった。
「今思うと……最初から軍事転用しようとしてた感じもありますね」
〔おう、その通りだ〕
「そんなあっさりと……」
〔俺も聞いていた訳じゃないが、構造上、軍用と一般用の垣根がないからな。高スペックのパーツを開発すれば、軍事転用まで視野に入れるのは業界の慣例だぞ〕
会社を辞める事が決まっているせいか、それとも上層部の悪行に堪えかねたのか。部長は、通常なら上層部しか知り得ない事実を、淡々と暴露し始めた。
「そんな事……まったく知りませんでした」
〔要するに、会社の利益優先の打算だ。上の連中がいろいろ画策して、あまり綺麗じゃない事もやっている。テストオペレーターや設計技師、経理の人間が知らないのは当然だ。気にするな〕
角橋では、清濁併せ吞めなければ出世なんてできないのだろう。
……ま、絶賛無職中の俺には関係ない話だが。
「だとしても、被災地支援機ですよ? 人命を助けたくて設計し、試行錯誤を重ねてきた社員の思いは置き去りなんですね」
〔——その通りだ。覚えておけよ、藤堂。角橋に限らず、会社ってのはそういう一面もあるって事を。社員のお気持ちだけで金は稼げないからな〕
それが現実。世の中のリアル。
〔宇宙を夢見て作ったロケットが、弾道ミサイルになったと言われれば理解できるだろ?〕
「理解できますが……なんかムカつきます」
〔だよな、俺もそういうのがつくづく嫌になっちまった〕
……もしかすると、会社を辞める本当の理由は、こちらの側面の方が大きいのかもしれない。
〔話を戻すぞ――あのHuVerは、これまでの機体とは基本性能が段違いの、言わば次世代のフラッグシップモデルだ〕
NATOに提供する機体は、元々の設計にない“生体認証やトリス”は搭載されてはいないはず。各部パーツについても量産向けの廉価素材だろう。
……しかし、その程度の違いは微々たる話。
〔そんなものをNATOが使ったらどうなるか、容易く想像できるだろ〕
「エンゲージアームと……ECLIPSS。ですね」
これには、素人同然の零士・ベルンハルトが、軍用HuVerと対等に戦えるだけの、革新的能力がある。
〔そうだ。そして、その最新型を扱うのはプロの軍人。それが零士の敵側に二十機も編入される〕
戦場は広い。よほどの事がなければ遭遇する事はないだろう。
……しかし、それでも楽観視はできない。
「……あれ?」
〔どうした?〕
「角橋はテロ組織に機体提供しながら、今度はNATOにって……」
〔自らドゥラと手を切るつもりか、それとも、ドゥラとの癒着をネタに脅されて提供したのか〕
そんな簡単に手が切れるのなら、ここまで面倒な話になっていないはず。つまり……
〔おそらくは後者だな。アメリカあたりの圧力だろう〕
「ま、いずれにしても……」
〔ああ、極めて高度な政治的な……〕
「打算ですね」
※10式の表記について。
本作において、基本的に英数字は半角で記載していますが、10式に関しては『機体を表す固有名詞』のため、全角で表記しています。HV-J10式が機体の型番で10式が名称です(ややこしいけど)
という事で表記ミスではありません(´艸`*)




