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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

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第66話・緊急記者会見

「もちろん、与党の議員でなければならないのが前提条件。最低限、国民投票で選ばれる必要はあるさ」


 金持ちなら誰でも国を牛耳れるなんて事になったら、宝くじ当選者が首相の座に就いてしまう――ただ、逆もまた真実。どれほど有能な政治家でも、資金力がなければ頂点には立てない。それが現実だ。


「でもさ、考えてみろよ。五億だぜ?」

「それはわかるけど、使い道なんていくらでもあるだろ」


 八神は『問題はそこじゃねぇよ』と口角を上げた。


「そんな大金をどうやって持ち歩くんだ? 横領した金なんて銀行に入れられない。隠すか、使うかしかないだろ?」


 ――この事件は三年たった今でも、なに一つ解明されていない。


 秘書官の足取りは、五億円を持ち逃げした直後からぷっつりと途絶えていた。自家用車、公共交通機関、徒歩。人的・物的痕跡が一切ない。警察はあらゆる可能性を潰したが、日本中の監視カメラに彼の姿は映らなかった。


「貴金属に変えておくって手もあるけど、それならどこで購入したか足がつくし、そのネタにマスコミが飛びつかないはずがない」

「さすがに選挙資金になったって説は強引だけど……持ち歩けず預金もできずじゃ、八神の言う通りなにかに使ったのかもな」

「ん~、言うほど強引かな?『金が欲しい』ってだけの理由じゃ、額が大き過ぎる。最初から目的があったと考えるほうが自然じゃないか?」

「目的……?」


 副社長は取引先との交渉で、たまに“見せ金”を使う手口を取っていたらしい。渋る相手に札束の山を突きつけ、『これで納得しろ』と。社長も厄介ごとは丸投げしていたため、口を出さなかったようだ。社内の金庫には常に十億規模の現金が眠っていた。 


 ――そして秘書官は、ドバイ視察から帰ったその日に、金庫から五億円を抜き取って煙のように消えた。


「仮に、目的が総裁選の資金だったとして、五億円って妥当な額なのかな?」

〔真偽はわからんが、総裁選を勝ち抜くには十五億とか二十億とか必要って話も聞いたぞ〕


 と、部長が補足する。もはや金額の桁が違いすぎて、考えるのが馬鹿らしくなってきた。


「でも、そこまでしてやりたいものなんですか?」

〔さあな。本人の力量に関わらず、重責と忙しさは半端じゃない。なにかあれば責任を押しつけられ、周りから突き上げられる。ま、割に合わんとは思うぞ〕 

「笑い事じゃないですよ……」


 ――ピコッ!!


 その時、間の抜けた着信音が会話をぶった切った。皆の視線が夏希先輩のスマホに集まる。


「こんな時間に珍しいわね」


 彼女は件名をチラリと見ると『えっ……』と小さく漏らしてスマホをテーブルの中央に置いた。


「ねえ、話の途中悪いんだけど、ちょっとこれ見て」

「新着ニュース?」

「うん。こんな時間なのに、よ」


 時間はすでに二十二時を回っている。にも関わらず、大勢の記者が詰めかけ、その視線の先には岸破総理が立っていた。


 直後、画面を埋め尽くす大きな文字のテロップが流れる。



【緊急記者会見】

日本政府がNATOに最新型HuVer(フーバー)の提供を行った模様。



 「なんだよこれ。五億どころの話じゃないぞ……」


 テロ組織壊滅のための作戦行動の開始。それは、零士・ベルンハルトと穂乃花(ほのか)が危険に晒されるという事を意味していた。


 電話の向こうからも、同じ記者会見の音が微かに聞こえてきた。部長たちも観ているのだろう。


〔角橋重工製の最新型HuVerを二十機、NATOに提供する事が決まり、先ほどから空輸を開始しました〕


 ――すかさず女性記者が噛みつく。


〔総理、それは軍事利用目的ですよね? 兵器輸出は憲法違反では?〕

〔これは、国内産業品を信託基金の一部として提供したものです。兵器ではありません〕

〔ですが国会を通していませんよね?〕

〔緊急を要する超法規的処置です。迅速な人命救助活動のためと考えてください〕


 NATOに提供するHuVerは、明確な軍事仕様ではない。そして銃火器等の殺傷兵器は不所持。だから戦争参加ではないという建前なのだろう。


〔しかし、近隣諸国が黙っていないと思いますが?〕

〔基本的にはNATOカタログ制度の枠内ですので、問題は存在しません。もう一度言います。送ったHuVerは兵器ではありません。救助活動のためのものです〕


「……嘘、だな」

「ああ、さすがにそれはない」


 俺も八神も、そしてスマホの向こうでは望月部長も、岸破総理の欺瞞を感じ取っていた。


「それ、どういう意味?」


 女性陣が首をかしげる。俺は織田さんと夏希先輩の方を向いた。


「兵器ってのは、”戦闘行為に特化した構造“の物なんです。砲塔を取っても戦車で通勤はできないし、自転車に装甲つけても戦場じゃ意味がない」


 二人は『あたありまえでしょ』と顔を見合わせる。


「ですが、HuVerにおいては、その定義の範疇に収まらないんですよ。どんな目的でも、同じフレームと出力で運用できる。つまり、工事用の機体でも、武器を持たせればそのまま戦闘参加できてしまうんです」

「そんなの許されるの?」


「——それが、極めて高度な政治的打算なんだよ」


 八神が割って入る。


「現地で軍事利用されても、政府は『人命救助のための提供です』って建前を絶対に崩さない。軍事利用をわかっていながら、『兵器ではありません』と繰り返すだけで身を守れるんだ」


※ 防衛庁:【NATOカタログ制度について】より抜粋。

 NATOカタログ制度は、当該制度に参加する国家において補給に関する共通の言語により相互運用性の促進及び重複の抑制等のため、NATOの規格に基づき、装備品等について、分類区分(航空機用、車両構成品等)や品目識別(寸法、材質及び主な特性)を整理した上で、NATO物品番号を付与し、NATO参加国等の間で装備品等の情報を共有する制度です。

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