表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/86

第64話・誰だっけ?

「銃を使ってまで一人の社員を捕まえようとするなんて、それだけでかなり異常だ。その行動に見合うだけの価値が――真理ちゃん、なにか重要な秘密を知っているんじゃないの?」


 八神の言葉は、静かに核心を突いた。電車の中で、織田さんが話してくれた、あの話。


「これ……だと思います……」


 織田さんは、ポケットからUSBメモリを取り出した。今朝、俺の辞表を受理するために会社へ行き、そのついでに社外秘データをこっそりコピーしてきたものだ。


「なにが入っているの?」


 夏希先輩の声に、抑えきれない興奮が混じっていた。世間を騒がせている“テロリスト宅襲撃事件”の鍵が、この手の中に収まっているかもしれないのだから、無理もない。


「三年前の、エキスポ会場視察のデータです」


 八神は口に手を当ててUSBメモリを見つめた。きっと、その中身をどう扱うべきなのかと考えを巡らせているのだろう。


「つまり……その中に、藤堂を殺そうとするほどのデータが眠っているかもしれない、と」


 八神は本棚に立てかけてあったノートパソコンを開いた。かなり年季の入った機種で、起動するまで時間がかかりそうだ。


「織田さん、さっき美郷さんが言っていた『未練』ってなんです?」

「私の噂の件、覚えていますか?」

「織田さんに振られた男が、嘘をばらまいたって話ですよね」

「ええ。それが……言問(こととい)です」


 織田さんはそう言うと、俺の手から烏龍茶のグラスを奪い取った。


「あんなヤツの名前を口にしたら(けが)れます!」


 と、一気に飲み干す。考えてみれば、織田さんが『言問』と口にしたのは初めて聞いた気がする。


「ね、まりりん。そいつ、どんな男だったの?」


 夏希先輩は『振られた男が嘘をばらまいた』のひと言が気になったのか、目を輝かせながら身を乗り出してきた。


「ニヤケた顔、日和見な態度と腰の据わっていない性格」

「それから?」

「軽い口調と軽薄な声、陰険な目つきにヒョロい身体にセンスのない指輪と先の尖った革靴」


 織田さんはそこで一旦息を継ぎ、吐き捨てるように……そして一気にまくし立てる。


「ワカメみたいな髪型をカッコイイと思っている貧弱な感性、発酵を重ねた臭い足。まったく、赤いちゃんちゃんこを着せたパクチーとつき合う方が3000倍マシですわ。誰がなんと言っても言問(アレ)は最悪、クジラは哺乳類でトマトは果物なんです!」


 夏希先輩が吹き出し、電話の向こうからも部長と美郷さんの笑い声が漏れてきた。


 昼間、ファミレスで見た言問葉一の動揺を思い出す。あれだけ嫌われていたとは……少しだけ、同情の念がよぎった。


 ――話がひと段落したところで、パソコンから聞きなれた起動音が鳴り響いた。


 全員の視線が集まる。USBメモリを差し込むと本体内部からジジジ……という微かな音がしてエクスプローラーが開いた。そこにはフォルダが二つ表示され、それぞれ『渡航社員記録』と『レポート』と書かれている。


「とりあえず社員記録から……」


 ファイルを開くと、会長以下重役の名前がずらりと並んでいた。当たり前だけど知っている名前ばかりで、社外の人間が入り込んでいる様子はない。


 そして口には出さなかったけど、俺も織田さんも……リストの末尾に言問葉一の名前を確認していた。


「部長は行かなかったのですか? 名前が見当たりませんが……」

〔ああ、視察予定期間が(あおい)の出産予定日と重なっていてな。どう考えても、仕事なんてしている場合じゃないだろ〕


 望月部長の声が、電話越しに響く。


〔家族を大事にできないヤツは、仕事もできないんだよ〕


 その言葉に、八神夫妻は顔を見合わせて柔らかく微笑んだ。


 次にレポートフォルダを開いてみると、中にはさらに三つのサブフォルダが現れた――写真、動画、そして文書と分かれている。俺は一番左にある写真フォルダをクリックした。


 カチリ……という小さい音が静まり返った部屋に響く。


「単なる視察時の記録みたいですね……」


 フォルダ内の画像データは二、三百枚くらいありそうだ。会場の全景や案内板に紛れて、観光気分で楽しんでいるスナップショットも多い。


 流し見していると、突然、織田さんが俺の手の上に自分の手を重ねてきた。一瞬、心臓が跳ね上がる。


「ね、この人って誰だっけ?」

「ど、どれです?」


 顔を動かさずに視線だけ右に流すと、かなりの至近距離に彼女の顔がぼやけて映った。


「この端っこに映っているこの顔って、見覚えない?」


 年甲斐もなく、ピースサインをしているスーツ姿の重役(おっさん)たち。その後ろに、小さくぼやけて顔があった。


 ……少なくとも、この男は社員ではない。


「もうちょっとハッキリ映ってくれていれば……」

〔藤堂、その画像こっちに送れるか?〕

「はい、ちょっと待ってください」


 望月部長の人脈の広さなら、社員以外でもわかるかもしれない。八神のスマホからロッキーさんのスマホへ、画像を送り返事を待った。


 意外にも、部長の返事は早かった。……あんな画像なのによくわかるものだ。


〔皆しっかりしろよ……〕


 半分笑い、半分呆れた口調だ。


〔この画像の男は岸破茂夫、今の総理大臣だろ〕


※ トマトは野菜として扱われることが多いため“野菜的果実”と言われます。原則的には果物なのですが、“日本の果物としての基準に一部適さない為”野菜として認識されています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ