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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第六章:襲撃・暗躍・唐変木(日本)

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第63話・誤算の連鎖

「でも、藤堂さんのおかげで怪我ひとつなかったよ」

〔それならよかったけど……ね、あんなメッセージ送ってくるってさ、もしかして盗聴とかされてる?〕

「うん、多分。……マスコミ報道では伏せられていると思うけど、拳銃を持った人たちって、あれ、角橋の関係者だったのよ」

〔——っ〕


 電話の向こうで息を飲む気配がはっきりと伝わってきた。自分が勤めていた会社が、犯罪に深く関わっていた事実。


 そしてもし、部長の家にあのまま泊まっていたら、荒らされていたのは……そう思うと、俺のマンションで襲われたのは、結果として最悪の事態を免れたと言える。


〔それは確かなの?〕

「うん、『会長』って口にしていたし、営業の言問(アレ)がそいつらと関係していたから」

〔マジで……言問(アレ)が関わってんの? まったく、未練がましいったらもう……」

「だから部長は当然だけど、最悪のケースで考えると、美郷や葵ちゃんまで監視対象になっていると思うの」

〔それ、『思う』じゃなくて確実になってるわね〕


 美郷さんはそこまで確認すると、部長と電話を替わった。後ろで葵ちゃんが母親を呼ぶ声が小さく聞こえる。家族そろって店にいるとわかって、少し安心した。


〔——おう、藤堂。更にヤバい事になってるみたいじゃないか〕


 と、いつもの調子で電話に出る望月部長。飾らない態度がありがたい。


「殺されかける以上にヤバい事なんてないですよ」

〔そりゃそうだ。で、面倒な方法で連絡をしてきたって事は、急ぎの要件があるんだろ?〕

「ええ、例のHuVer(フーバー)に搭載されている生体認証システムについてです」


 この答えが、会社が”どの段階で拉致事件に関わっていたのか“を知る重要な手掛かりになる。


「……あのシステムは、最初から設計されていたのですか?」

〔藤堂、お前はどう見てる?〕


 部長は返事を急がず、こちらの思考の深さを確かめようとしている。隠し事はしないが、意味もなく試すような事を言う人でもない。


「多分、途中で組み込んだ機能だと思っています」

〔理由は?〕

「あの機体は、最初からテロ組織用に開発されたものです。零士君が『ドゥラが依頼した』と言っていました。ならば、汎用性のない特殊な設計はありえない」

〔——その通りだ。そもそもエキスポ用の名目でトップダウンの仕事だったからな。そこに、まだ確立されていない技術を設計する事はない。生体認証もトリスも、俺が勝手につけた物だ〕

「そして、それらのシステムは、HuVer本体から取り外せない」

〔ああ、そうだ〕


 だからこそ起きた拉致事件。それが今回の発端であり、テロ組織と会社の誤算だった。


「エキスポ出展機は“強奪される”という名目でテロ組織に横流しする予定だったのでしょう。しかしそこに生体認証システムという厄介なものが搭載されていると知り、オペレーターごと引き渡さざるを得なくなった……そう考えています」

〔なるほどな。その可能性は高い……いや、その線で間違いないだろう〕


 数秒の沈黙。


〔そうか……う~ん……スマン事をした〕


 部長が試作システムを組み込まなければ、俺も零士・ベルンハルトも拉致に巻き込まれる事はなかった。それに対しての謝罪の言葉。


 だけど――それは筋違いだ。


「いえ、悪いのはテロ組織と手を組んだ会社ですから」


 これは本音、怒りを向けるべきは部長じゃない。


〔ところで、言問(こととい)がお前のマンションに行ったんだって?〕

「ええ、トリスのパーツを持ってきてくれたのですが……」

〔トリスのパーツ? なんだそりゃ〕

「冷却機能のコントロールボックスです。部長に頼まれたって言っていましたが」

〔そんなもん頼んでねぇぞ。そもそも言問(アレ)に頼み事なんて、危な過ぎてできるかよ〕


 その、吐き捨てるような言い方からもわかる。部長は彼を信用していない。


 ……もし前もってその事を知っていたら、織田さんをあんな怖い目に遭わせる事もなかった。そう思うと、ちょっと悔しく思ってしまう。


〔つまり、お前たちの話を総合して考えると、だ〕


①生体認証システムが取り外せないから、オペレーター込みで強奪した。

②通信が可能になると、その事実が露呈する恐れがある。

③そのためにトリスのパーツをすり替え、使えなくなるようにしておいた。


「そう考えるのが一番自然だと思います。しかし……」


 だが、それだとひとつだけ腑に落ちない点が残る。


「言問さんが持ってきたパーツを取りつけたら、冷却機能が働いて、トリスが正常作動したんです」

〔確かにわからんな。零士と連絡を取られたら困る会社が、わざわざ通信できる状態に戻すなんて〕

「彼の独断とも思えないし、いったい、なぜなんでしょう?」


「——横から悪いんだけどさ」


 それまで黙って聞いていた八神が、初めて口を挟んだ。俺や部長とは少し違う角度からの考察だった。


「それって、言問ってスパイが、お前を信用させるための芝居だったんじゃないのか?」


 八神の言葉に、俺は一瞬言葉を失った。確かに、彼が持ってきたパーツは「信用させるための餌」だったのかもしれない。


「でも彼の目的は織田さんを捕まえる事だったし、それだけのために重要な情報を引き換えにするかな?」

「真理ちゃんを確保する方が、よほど重要だったとしたらどうだ?」

「どうって……」 

「拉致の真実がバレたところで、どうせお前を殺すつもりだったんだろ?」


 ……身も蓋もない。

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