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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第一章:身をもって知るは世界の現実(日本~中東)

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第6話・青

 HuVer-WK(ホーバーク)を囲む、テロリストのような男たち。


 タタタタタ……と乾いた銃声。カンカンッと装甲が弾く。だが、この機体の装甲なら、余裕で耐えられる。


 ――それでも、怖い。防弾ガラス越しでも、だ。


 手が震え、足が動かず、目をそむけた。


 この場から早く逃れたいと思っても、積み上げられたコンテナの壁からは空しか見えない。陸地側か、それとも海側か? 方向が全くわからずに、焦りが頭の中を回る。


 ——ピシッ!


 コクピットを覆う防弾ガラスに、小さなひびが入った。


「え……?」


 最高グレードのはずなのに? もしかして、今のが貫通していたらオレは……


 その瞬間、思考が止まった。とにかく動けと恐怖心が騒いだ。

 

 アクセルを踏み込む。フルスロットルで急発進する機体。


 加減なんてわからない。頭ではブレーキをかけているのに身体に伝達されず、足が固まってアクセルから離れなかった。


 そしてHuVer-WK(ホーバーク)は、コンテナの壁に全力で暴走タックルを喰らわせてしまう。その振動と(たわ)みが壁の上の方まで伝わったのだろう。グラグラとバランスを失ったコンテナが落ちてきた。


 ――避けられない。


 そのままオレは、愛機共々、コンテナの下敷きになってしまった。





「う……」


 破損したコンテナの隙間から光が差し込み、オレの(まぶた)を照らして意識を覚醒させた。どこからか人の声が近づいてくる。


「怖えぇ……」 


 ため息と一緒に漏れ出たこのひと言は、多分地上で最も素直で最も素直な言葉だったと思う。


 ……手足の震えが止まらない。


 20メートルはある高さから、落ちてきた金属の塊。そんなえげつない物に押し潰されながら生きていられたのは、HuVer-WK(ホーバーク)が頑丈という以外にも要因があった。

 

 なぜかコンテナの中には、荷物が入っていなかった。だから重量が無く、空の箱で潰れやすかったのだと思う。


「馬鹿野郎が! 傷モノにしやがって」

「ですが急に……」

「うるせえ、大将になんていいわけするんだよ!」

「待っ……」


 ――直後、パンッパンッパンッと音が響き、ドサッとなにかが倒れた。


 音から想像するしかないけど……多分……。


 声が出そうになるのをこらえるのに必死だった。


 わずか鉄板一枚(へだ)てた向こう側で、アッサリと人が殺された現実。


 このままだとオレも、今のヤツと同じように撃たれて死ぬかもしれない。


 ――いや、そもそも最初からそういう危険な場所にいたんだ。だったら、死にたくなかったら、みっともなくても足掻くしかない。


 幸いにも機体の可動状態は問題なしを示すオールグリーン。コンテナに押しつぶされながらこの頑丈さは、被災地支援機としてはこの上ない性能だと、図らずも証明された事になる。


 人感レーダーを確認し、大体の人の位置を把握した。すぐ目の前の位置に一人、多分こいつが怒鳴り散らして仲間を殺したヤツだろう。


 気持ちに勢いをつけ、オレは、すぐそこにいる人殺しに向かってコンテナを蹴り出した。


 ガランガランッ――


 伽藍洞(がらんどう)の音を響かせながら、勢いよく横倒しになる。その先にいる男の安否なんて気にする暇はない。


 銃弾がバラ撒かれる中、コンテナの壁を突き倒した。『とにかく逃げ道を作らなければ』考えていたのはそれだけだった。


 ラッキーだったのは、壁を作っていたコンテナは、すべて中身が入っていなかった事だ。バランスを崩したコンテナの壁は崩れ始め、次から次へと落下し地面に激突する。


 近くにいたヤツらはみな驚き、落ちてくる金属の箱から逃げ惑っていた。


「ザマぁみろってんだ!」


 しかし、崩れたコンテナの壁の先に見えたのは、真っ青な空と照りつける太陽、そしてキラキラと透明に輝くオーシャンブルーだった。


「クソッ、逆だ。……なんでこういう時に海側(ハズレ)を引き当てるんだよオレは」


 フューエルゲージ((燃料計))は20%を切っている。思ったより消費が激しい。


「まだだ、まだいける……」


 オレは勢いをつけ、反対側のコンテナの壁に肩から突っ込んだ。中身が空なら潰される事もないし、この勢いならぶち抜けると計算したからだ。


 先ほどよりもけたたましく、ガランガランッと悲鳴を上げる大量のコンテナ。


 計算通りだ。勢いよく突っ込んだHuVer-WK(ホーバーク)は、ダルマ落としの如くコンテナの一番下を押し抜いて、転びながら閉じられた空間から飛び出した!


「これで……」


 ――あとは大通りに出るだけ。


 そう思ったオレの希望を打ち砕いたのは、またもや目の前に広がる色鮮やかなオーシャンブルー。


 まさかだった。この展開は考えてなかった。頭の中がフラフラしていたのは、体調不良でも錯覚でもなかったのか。


「海の上? タンカーか……」


 オレが絶望したのは航海中の甲板上。……人生と気力が、静かに尽きかけているのを感じていた。



※ 『最高グレードのはずなのに?』

 国際規格最高グレードの防弾ガラス。UL-752。スラッグ弾でも割れないという。弱点として曲面部分における視界の歪みが酷い。


ご覧いただきありがとうございます。


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