第6話・青
HuVer-WKを囲む、テロリストのような男たち。
タタタタタ……と乾いた銃声。カンカンッと装甲が弾く。だが、この機体の装甲なら、余裕で耐えられる。
――それでも、怖い。防弾ガラス越しでも、だ。
手が震え、足が動かず、目をそむけた。
この場から早く逃れたいと思っても、積み上げられたコンテナの壁からは空しか見えない。陸地側か、それとも海側か? 方向が全くわからずに、焦りが頭の中を回る。
——ピシッ!
コクピットを覆う防弾ガラスに、小さなひびが入った。
「え……?」
最高グレードのはずなのに? もしかして、今のが貫通していたらオレは……
その瞬間、思考が止まった。とにかく動けと恐怖心が騒いだ。
アクセルを踏み込む。フルスロットルで急発進する機体。
加減なんてわからない。頭ではブレーキをかけているのに身体に伝達されず、足が固まってアクセルから離れなかった。
そしてHuVer-WKは、コンテナの壁に全力で暴走タックルを喰らわせてしまう。その振動と撓みが壁の上の方まで伝わったのだろう。グラグラとバランスを失ったコンテナが落ちてきた。
――避けられない。
そのままオレは、愛機共々、コンテナの下敷きになってしまった。
♢
「う……」
破損したコンテナの隙間から光が差し込み、オレの瞼を照らして意識を覚醒させた。どこからか人の声が近づいてくる。
「怖えぇ……」
ため息と一緒に漏れ出たこのひと言は、多分地上で最も素直で最も素直な言葉だったと思う。
……手足の震えが止まらない。
20メートルはある高さから、落ちてきた金属の塊。そんなえげつない物に押し潰されながら生きていられたのは、HuVer-WKが頑丈という以外にも要因があった。
なぜかコンテナの中には、荷物が入っていなかった。だから重量が無く、空の箱で潰れやすかったのだと思う。
「馬鹿野郎が! 傷モノにしやがって」
「ですが急に……」
「うるせえ、大将になんていいわけするんだよ!」
「待っ……」
――直後、パンッパンッパンッと音が響き、ドサッとなにかが倒れた。
音から想像するしかないけど……多分……。
声が出そうになるのをこらえるのに必死だった。
わずか鉄板一枚隔てた向こう側で、アッサリと人が殺された現実。
このままだとオレも、今のヤツと同じように撃たれて死ぬかもしれない。
――いや、そもそも最初からそういう危険な場所にいたんだ。だったら、死にたくなかったら、みっともなくても足掻くしかない。
幸いにも機体の可動状態は問題なしを示すオールグリーン。コンテナに押しつぶされながらこの頑丈さは、被災地支援機としてはこの上ない性能だと、図らずも証明された事になる。
人感レーダーを確認し、大体の人の位置を把握した。すぐ目の前の位置に一人、多分こいつが怒鳴り散らして仲間を殺したヤツだろう。
気持ちに勢いをつけ、オレは、すぐそこにいる人殺しに向かってコンテナを蹴り出した。
ガランガランッ――
伽藍洞の音を響かせながら、勢いよく横倒しになる。その先にいる男の安否なんて気にする暇はない。
銃弾がバラ撒かれる中、コンテナの壁を突き倒した。『とにかく逃げ道を作らなければ』考えていたのはそれだけだった。
ラッキーだったのは、壁を作っていたコンテナは、すべて中身が入っていなかった事だ。バランスを崩したコンテナの壁は崩れ始め、次から次へと落下し地面に激突する。
近くにいたヤツらはみな驚き、落ちてくる金属の箱から逃げ惑っていた。
「ザマぁみろってんだ!」
しかし、崩れたコンテナの壁の先に見えたのは、真っ青な空と照りつける太陽、そしてキラキラと透明に輝くオーシャンブルーだった。
「クソッ、逆だ。……なんでこういう時に海側を引き当てるんだよオレは」
フューエルゲージは20%を切っている。思ったより消費が激しい。
「まだだ、まだいける……」
オレは勢いをつけ、反対側のコンテナの壁に肩から突っ込んだ。中身が空なら潰される事もないし、この勢いならぶち抜けると計算したからだ。
先ほどよりもけたたましく、ガランガランッと悲鳴を上げる大量のコンテナ。
計算通りだ。勢いよく突っ込んだHuVer-WKは、ダルマ落としの如くコンテナの一番下を押し抜いて、転びながら閉じられた空間から飛び出した!
「これで……」
――あとは大通りに出るだけ。
そう思ったオレの希望を打ち砕いたのは、またもや目の前に広がる色鮮やかなオーシャンブルー。
まさかだった。この展開は考えてなかった。頭の中がフラフラしていたのは、体調不良でも錯覚でもなかったのか。
「海の上? タンカーか……」
オレが絶望したのは航海中の甲板上。……人生と気力が、静かに尽きかけているのを感じていた。
※ 『最高グレードのはずなのに?』
国際規格最高グレードの防弾ガラス。UL-752。スラッグ弾でも割れないという。弱点として曲面部分における視界の歪みが酷い。
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